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28 海底へ(海底の谷)

 ■システィーナの視点



 人魚の国から南へおよそ百五十キロの海底に、急峻な谷があった。急激に沈降する谷が………。

 すでに水深は五~六千メートルを超えているだろうけれど、さらに地の底へ向かう急峻な谷があったの。そこを下っていくと、墨のような黒い液体の不思議な層があって………。



 その黒い液体の層を超えた私たち三人が見たもの………。



「な、なんだここは?」

「ふおおおお!?」

「はわああ!? 何ここ!?」



 私たちはその光景を見て、口々に驚きの声を上げた。たぶん、三人とも同じ心境になって上げた驚きの声だ。私たちの眼下にあるその光景………。



「な………何なの? この………この、不気味な光景………?」



 そう、そこには不気味な光景が広がっていたの!

 不気味………!

 不気味なの!



 そこは………なぜか暗い紫の光に包まれていたの! 黒紫の、あるいは濃い紫のような、見る者を不安にさせる不気味な光………。谷の底に延々と続く紫に光る何かが、この黒い液体の層の下を、不吉な光で照らしているの! ええ? 何が紫に光っているの? 遠いし微妙に煙ったような水で見えない!



「よし、近づいてみよう。どのみちここを降りないと先へは進めんし。近づいたら見えてくると思う、行ってみよう」

「ええ? ち、近づいて大丈夫なの?」

「そうだ龍よ、大丈夫なのか?」

「分からん。とりあえず見える位置まで行ってみよう」



 私とディートリッヒは不安になりながらもコックリの後に続いて急峻な斜面を斜めに降りていく。十メートル先を先導するサーバントだけが、安心できる白い光に包まれている。光の精霊がホワイトライトならば、この不気味な光はブラックライトとでも言おうか………斜面を降りるに従い、徐々に辺りを包む不気味なブラックライトも強くなっていく………本当に、本当に不気味な黒紫の光………。微妙に霞む水の層の下に点在する黒紫の光。黒い紫の光を発する何かが、見渡す限り広がっている………!



「な………あんなものが光っていたのか………」



 コックリがそうつぶやいた。ええ見えたの? 霊力で肉体を極限まで強化したコックリだからこそ、いち早く見えたのだろうけれど、何が見えたの?



「な、なに? 何が光っているの?」

「龍よ、言ってくれ! 我々にはまだ見えない!」

「あ、ああ………ああ………! 光っているものは………」

「「光っているものは………?」」

「光っているものは………」

「「光っているものは………?」」

「巨大な………」

「「巨大な?」」

「巨大な………」

「「巨大な?」」



 ああ、もう! もったいぶらないで!



「イソギンチャクだ」

「「イソギンチャク!?」」



 私とディートリッヒは顔を見合わせると、目を細めて眼下を見つめる。でも私たちにはボヤーッとするだけでまだはっきりと見えない………くうぅ~!



 コックリが再び水馬を進めたので、私たちも彼について行った。どのぐらい下っているだろうか………ブラックライトがさらに強さを増した頃、私たちにもやっとそれが見えてきた。



「ほ………本当だ………イソギンチャクだ………」



 私たちの数百メートル眼下に、高さ五十メートルはあろう巨大な、巨大なイソギンチャクが、体全体から濃い紫色の光を放って………谷底をはるか先まで延々と続いていたの………!



「な………なんて不気味な光景なの…………」



 黒紫に光る巨大なイソギンチャクは、わずかな流れにユラユラと触手を動かしている。きききっ気色悪い………。触手の一本一本まで紫色の光を発していて………ユラユラユラユラ………。見ていると催眠にかかるような薄気味悪い、不気味な動き方だ………。ああぁ、なんだかそこはかとなく、不安になる………。



 急峻な斜面は、あと二~三百メートルくらい続いているかしら………。しょ、正直近づきたくないんだけれど………。近づいていくことで、私たちの体も青黒いような不思議な光で照らされて………ああブラックライトの光で、水馬の美しい青いたてがみが黒くなって………あれ? でも白い毛並みは白く光っているよ!?



「ん? なんだか海水が温かくなってきた?」

「え? あ! ホントだ!」



 あれえ? なんだか周りが温かくなってきたよ? といってもぬるま湯よりもさらに低い温度なんだけれど、まるで人魚の国の近海にある珊瑚の海みたい。地面が熱いのかな? どこかから温泉が出てるのかしらと思っていたその時………。



「ん? 何だ今の?」

「え? 何!? 何のこと!?」

「なんか、斜面を影が横切った!」

「し、深海魚!?」

「いや! 深海魚っぽくなかった!」



 ちょ、ちょっと! 不安にさせないでよ! ああもうコックリはまったく!

 紫色の不気味な世界で私は周囲を見渡した。すると確かに何かが泳いで横切った! うわあ! 大きな大きなナメクジみたいな魚だ! 頭に触角があって、体が半透明だ! 半透明だからうっすらと骨が見えた!



「マ、マジか………! マジか今の!」

「え? なんなの!?」

「なんなのだ!?」

「マジかっ!?」

「「だからなんなの!?」」

「ぜ、絶滅したとされる…………か、神が作った始原の魚だ!」

「「し、始原の魚!?」」

「ピカイヤリスだ!」



 ピカイヤリス!? 今のナメクジみたいのが!?



「デカイ! 今の二メートルくらいあったぞ!? 化石では十センチくらいのしか見たことないのに!?」

「「二十倍!?」」



 ええ!? 二十倍もの大きさ!?

 そうこうしていると、私たちはついに谷底にまで到達した。目の前には故郷の巨大樹のような大きさのイソギンチャクの森が広がっていて…………でも幹の太さはとんでもない太さだ。故郷の巨大樹の幹は、大人が三十人くらい輪になっても届くかどうかだけど、このイソギンチャクは百人くらいいても無理じゃ? まるで大きめの砦の外壁みたい!



 うわああああ、良く見ると紫色に光るイソギンチャクの森の中を、大小様々なピカイヤリスがウヨウヨ泳いでいるよ! 大きい物で五メートルくらい! 半透明だから気が付かなかったんだ! 五十メートルくらいあるイソギンチャクの上の方まで、半透明のピカイヤリスが優雅にウヨウヨと泳いでる!



「コココ、コックリ! これ大丈夫なの!?」

「正直分からん! だが形態からして、他者を襲うような生命ではないと思う!」



 確かに、触角は見えるけど口は見えない! ええ? どうやってエネルギー源を得ているのかしら?



「うおおおおおお!」

「きゃあああ! 何!? 何!?」

「龍よ! びっくりさせるな!」

「す、すまん! あっちにはハルキーゲニアがいた!」

「「ハルキーゲニア!?」」



 コックリが見つめる先! 城壁のようなイソギンチャクの根元に何か草が生えてる? と思ったら、うわあああ! 巨大な毛虫みたいなのがいる! 短めのミミズのような体で、背中にも腹にも猫のヒゲみたいな長い長い触角がビヨーンと生えていて、腹側の触角で海底を動いてる! うわあああ気持ち悪!



「デカイ! やっぱり一メートルくらいある! 化石では五センチくらいなのに!」



 ひええ、二十倍!? なんなのだろう、ここは。コックリは嬉々として周りを見渡している。ああ目つきが尋常じゃなくて、呼吸も荒くって、肩で息をして………これはマズイかも………! 私はコックリの横に行くと頬を思い切りつねった。



「あだだだだだだ!」

「コックリ! どうするの!?」

「あ! ああ! ああそうか! ああそうだ! すまん、すまん目的は光る海だ! 光る海へ行こう!」



 意識を取り戻したコックリがガクガクと首を縦に振った。



 そしてコックリは私たちを連れてブラックライトに包まれたイソギンチャクの森をゆっくりと進みだした。進みながらもコックリは、おお~オパビニアントだとか、おお~ネクトーカーリスだとか、はぁっとか、へぇっとか変な声を上げながら進んでいる………ええ、この紫色の光にあてられておかしくなっちゃったのかな? でもひええ~深海魚よりもよっぽど気色の悪い魚たちがたくさんいるよ。



 ああ、独り言をつぶやくコックリの声を拾うと、どうやらここは太古の海そのままなのではないか………とのことで。黒紫に光るイソギンチャクの森の大地からは、シダ植物のような大きな葉っぱの海草植物や巻貝の尖った方が地面に刺さっている変な生物、珊瑚の枝っぽい形の植物とか、もう………もうよく分からない変なジャングルみたいな状態で………私たちが進む海床も、なんとなく粒がそろった綺麗な砂状で………そこにはたくさんの貝類だとか、ベシャッとつぶれた形のダンゴ虫とか、たくさんたくさんいた。



「はぁっはぁっ! ああ、始原の生物たち………とすると………とすると、あれもいるのか?」ブツブツ

「なあシスティーナよ。アヴァンという神殿騎士が、光る海をタブーにすると言ったのは、光る海の前にここがあるからではないのか?」

「う、うん………私もそんな気がしてきた………」



 ああ、コックリがまた不穏な目つきになってブツブツ言い始めた………私とディートリッヒは見つめあってうなずくと、コックリの両サイドに水馬を進めて、二人同時に頬をつねった。



「あだだだだだだだ!」

「目が覚めた?」



 とその時! 突然ウヨウヨと泳いでいたピカイヤリスが蜘蛛の子を散らすように、イソギンチャクの森や巨大な岩場の隙間に逃げていく! 平べったいダンゴ虫みたいなのも、砂の中に潜って! え!? 何!? 何なの!? と、どこからともなく!


 グオングオンッ! という音が聞こえてきたの!



「な、なにこの音!?」

「あ、ああ、まるでたくさんある羽を動かすような音だ」

「たくさんある羽!? マ、マジ!? マジか!?」



 コックリ!? なんでそんなに嬉しそうなの!? 何か凄い不吉な音だよ!?

 グオングオングオングオンッ!



「ち、近づいてくるよ!?」 グオングオンッ!

「ど、どこからだ!?」 グオングオンッ!

「おお、この眼で泳いでいる姿を見られるのか!? はぁっはぁっ!」 グオングオンッ!

「「喜んでる場合じゃない!」」 グオングオンッ!



 私とディートリッヒは音の出ている方向を特定しようとキョロキョロ見回す!

 とそれは後方!

 頭上から聞こえてきた!

 私たちは同時に振り返ると!



「「ななな、何アレ!?」」



 後方頭上には! ダンゴ虫をつぶしたような平べったい体の! その体の両側からビラビラした羽の! 目はカニみたいに顔から飛び出て! 顔からエビの胴体みたいな腕が二本出てる奇怪な生物が! グオングオン音を立てながら迫ってきていた! デカッ! 二十メートルくらいある!?



「ひゃっはあああ! アノマロカリニウスだあああ!」

「ひゃっはあああじゃなあああああい!」

「システィーナ! 見るからに肉食っぽいぞ!?」

「に、逃げよう!」



 私はサーバントを小さくして水馬に乗せると、コックリの水馬をたたいて走らせた! コックリは後方頭上から接近するアノマロなんちゃらを喜びながら見てる! どうしちゃったのよ、コックリ!? うわああああ、グオングオンする音は、体の横に生えた数十枚の羽根を動かして泳いでいる音だ! うわああああ、なめらかな動きすぎて気持ち悪いいい!



「ふおおおおお! ははは早いぞぉぉ!」

「はわああああ! くくく口があぁぁ!」



 頭部の下側に! 円形の丸い口がある! 丸い口にはギザギザの歯がいっぱい生えていて! ワシャワシャ動いてるうぅぅ! 気持ち悪いぃぃぃl!



「ひゃっはああああ! 化石通りだああ! 三百六十度の歯だああああ!」

「コックリイィィ!?」

「ふおおお! 逃げろ! 逃げろ!」



 うぅわあああああ! あと五メートルくらいいいっ! 凄い迫力ぅうう! グオングオン近づいて来るうう! エビの胴体みたいな触手がああ! 私たちを捕らえようとおぅぅ! 前に伸びてくるうぅぅ!



 うぅわあああああぁぁぁぁ!




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