表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/46

20 人魚の王宮2

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 ■システィーナの視点



 人々のささやかな暮らしを、満天の星空が見守る頃………。コックリと私はアドルフ大臣とディートリッヒとともに、光の精霊の明かりを頼りに薄暗い海妖精の町を並んで歩いている。



 薄暗くて町がよく見えないのが残念なのだけれど、見える範囲ではアラルフィと同じ岸壁に作られた坂の町みたいね。大きめの坂道と階段がジグザグに伸び、いくつもの小さな側道が家々に繋がり迷路のようになっている。でも今は家々に明かりがなく、まるで海の底に沈んだ町のように、静かに、密やかに、静黙に、そこにある。今は人々の息遣いも、暖かみも感じられない。私の後ろを歩くディートリッヒが私の様子に気がついたのか話しかけた。



「今、国中の者が王宮へと避難している。普段ならば夕食時で、家々の灯りも夕げの声も賑やかで、酒場も開いて華やかな時間だ。本来は、な」



 そうなんだ………そうだよね。亡者の群れがやって来て、いつも通りのわけないよね。周りを見ると…………壊れた家々はもちろん、刀傷や鈍器で叩いたような跡があり、さらには血の跡があったり…………戦いの生々しさを物語っている。亡者の種類によっては、精神に攻撃を与えるものと物理的に攻撃を与えるものがいるみたいで、この家々を壊したのは後者の方みたいね。うう〜ん、これを見るとコックリの圧倒的な強さには、兵士の皆さんも国の皆さんも驚愕しただろうな。



「いやはや! ふぅぅ! 老体にはこの坂と階段はこたえまするなあ! ふうぅ!」



 アドルフ大臣が、腰に手をあて大きく深呼吸した。ああ〜、大変ですよねえ。若い私でも、アラルフィの坂道は大変だったもの。光が上まで届かないけれどまだまだ階段と坂道が昇龍のように続いている。



 そうそう、妖精にも老化はあって、だいたい残りの寿命が百年を切るころに老い始める。海妖精の寿命が三百歳くらいだから、老化は二百歳くらいからかしら………。森妖精は千三百歳くらいだから千二百歳くらいから老いはじめる。そうね、妖精は若い期間がとても長い………という感じ。

 アドルフ大臣も人間でいうと七十歳近くに見える………ゆるくウェーブする髪が薄くなって、白いものが多くあるし、背中も曲がっている。ああ、もうふぅふぅ言いながら、階段を上っていく。大丈夫ですか?



「ほっほっほっ。なんのなんのまだまだ大丈夫。もしかしたらお嬢さんの方が、年上かもしれませぬぞ。ほっほっほ」



 ああ、そうですね~。ってコックリ何笑ってるの、もう! 

 うう~、コックリは年齢のことは触れないで………。コックリから見たら、私………ひいおばあちゃんを通り越してご先祖様だし………。うう~、一人の同年代の娘に見られたいの………。妖精だって………想いを寄せるひとの前では………気になるのよ。分かってよ…………。



 ふぅふぅ言いながら階段を上っていくアドルフ大臣とともに、やっと人魚の王宮にたどり着いた。うわぁ~すごい! 目の前のお城、すごい! 玉ねぎ型の可愛い屋根のお城がすごい!



 何がすごいって、お城が岸壁に浮かび上がったような感じなの! 彫刻の浮き彫りかしら!



「なるほど。岸壁を削って浮き彫りにしているけれど、もともとの地形を利用して柱や屋根の形としているようだね」



 そうなんだ。大小さまざまな大きさの玉ねぎ型の屋根が何個もあるけれど、なるほど、もともとそういう形の岩があって、それを利用してそういう彫刻にしたのね!

 お城の前では男性の海妖精兵士さんが敬礼して私たちを出迎えてくれた。おお~やっぱりトライデント(三つ又の鉾)にスケイルアーマーだ~、人魚の王宮に来たって感じ。王宮の入り口は、大きな柱に支えられていて、天井の高さは十メートルくらいあるかしら。



 中に入ると………もう、びっくり………! 外観から想像がつかない!

 中の王宮は、大きな大きな………とっても大きな洞窟を利用した作りになっていたの。天井の高さが十メートルくらいあって、横幅は二十メートル以上あるかしら………! でも洞窟独特のゴツゴツした印象がなく、鍾乳洞みたいになめらかで白いのよ。洞窟の形は………かまぼこ型かしら。多くの兵士さんたちが、慌ただしく王宮内を駆け回っている。



「申し訳ございませぬな、神殿騎士殿、システィーナ様。戦のためにあわただしく」

「ええ、お気になさらず………」



 兵士さんたちが駆け回る王宮はすごい奥まで続いている。洞窟の中なのに明るいのは、光の精霊をいたるところに配置しているからね。ほぼすべての者が精霊魔法を使える妖精ならではよね。



 洞窟は最初平坦だったんだけれど、次第に上り坂になって…………しばらく上ったら広々とした空間に繋がっていたの。そこに足を踏み入れた私は……ただただ……その美しい光景に見惚れてしまうだけだった。



「はわぁ〜、なんて……なんて綺麗なの……?」



 その空間は天に昇るように縦に垂直に延びていて……わあぁ、白い肌の洞窟の壁が……キラキラ、チカチカと壁一面が宝石のきらびやかな輝きを発しているの……ええ? 何これ? 何が光っているの?



「ほう、この壁の輝き……六角柱にならなかった水晶の細かい結晶が光っているようですね……」

「左様です、さすがは神殿騎士殿」



 そうなんだ! なんて綺麗なの? 輝きの火花がそこかしこで乱反射して……。キラキラ煌めきながら天に向かって伸びゆく空間は、大聖堂のような荘厳な感覚を与えてくれる。ああ、天井に穴が開いていて月が見えるわ!



「ここは、いつもならば、瞑想室として利用している。普段は月明かりだけが、あの穴から射し込むのだ」



 なるほどね! ああ〜、薄暗い瞑想室に月明かりが射し込む様子をイメージできて、私はうっとりとした。ああ、確かに月明かりのなかで瞑想してみたい!



 この空間からは三本くらい洞窟が延びていて真ん中の洞窟に入ったら、今度はなだらかに下っていて………進んでいくと……。



「わあ、川だ……」



 わあぁ今度は洞窟と並走するように、川が流れているわ。凄く穏やかな、鏡のような水面の川。結構な幅がある川で、ああ冷たそう。周りもひんやりしてきたもの。川と並行して歩いていくと、やがて見下ろすような巨大な洞穴空間に出た。



「わあぁ〜、綺麗! 凄く綺麗!」

「おお〜、トルコリアのパムーカレみたいだ」



 そこには段々畑のような泉がたくさんあって川の水が段々畑を流れ落ちてるの! わあぁ、綺麗! なんて澄んだ水なの!? なんて白い肌の段々畑なの!? 石灰? 石灰の棚? はわあぁ、光の精霊によって照らされた地下空間は、幻想的に輝いてるの!



「ほっほっほ、喜んでいただけて嬉しい限りですわい」

「はい! 凄いです!」



 地下空間は、光の精霊が届かないくらい奥行きがあって底も深く、見える範囲では泉の棚がずっとずっと続いている。ああ、ここにこれて良かった!



「システィーナよ。森妖精でこの王宮に入ったのは、貴女が初めてかもしれない」



 そうなんだ! 嬉しいな♪ 洞窟を進んでいても私はもう感動して感動して…………。道は巨大洞穴空間の岩壁をなぞるように続いていて、私はずっと水の棚田を見ながら進んだ。それでどうしても確認したいことがあって、子供っぽいかなと思いつつも、探究心からある実験をしてみたの。



「やっほー!」



 すぐさま耳をすますのだけれど、あれ? 反響しないな。どんな反響をするのか気になってたんだけれど…………。



「風の精霊魔法で、空気を送り、反響も抑えている」



 ディートリッヒにそう言われた。ああそうでしたか。隣でコックリが笑いを噛み殺して肩が震えて………ちょっと! 笑わないでよ! た、探究心でしょ! 子供っぽいからじゃないんだからねっ!



「フフフッ、いい着眼点だよシス、俺でも思いつかなかったよ〜。フフフッ、イダダダッ!」



 ひとをからかうようなイタズラっぽい笑顔だったから、おもいっきりつねった! うう〜! や、やるんじゃなかった………。



「ほっほっほ、仲がよろしいことですなあ。そういえば、アヴァン殿も花妖精を連れていたような気がしますぞ」

「え? アヴァン様が?」



 コックリも初耳だったようで、ちょっとビックリしていた。へえ〜歴史上最強の神殿騎士が、花妖精を…………花妖精は、体長二十センチくらいの、半透明な羽を持つ妖精なの。寿命は百年くらいかな、とにかく可愛い妖精だ。そんな可愛い妖精を連れていたなんて、意外よねえ。

 そんな話をしながらしばらく進むと、残念ながら道は再び大地の中に入り込み、分岐を繰り返して、上ったり下ったりを繰り返した。



 もう私にはどこを通ったか分からないようになったとき、数人の兵士さんたちが守る大きな扉にたどり着いた。



「神殿騎士殿をお連れした」

「「はっ!」」



 兵士さんたちは敬礼すると、大きな扉を開けた。扉の中は広いホールになっていて、何本も円柱が立っているのだけれど、この柱は天井と床と滑らかに繋がっていて………………鍾乳洞の中にある石柱みたい。さらにホールの白くて艶やかな壁には、横幅十メートルはある綺麗な断面の開口があって、ガラス戸が嵌まっていて外の景色が一望できる…………断面の綺麗さから掘り削った開口かな? 。開口の外は樹木が植えられていて、とても癒される空間になっている。



 その石柱のあるホールには亡者との戦いでここを避難場所にしていたお年寄りと幼児の大勢の海妖精の皆さんがいて………。わあぁ、子供たちがとても愛らしくって可愛い!



 私たちに気がついた避難者の皆さんが、コックリと私の元に押し寄せて、囲まれて…………皆さんが何度も何度も感謝の言葉をくれた!



「「ありがとうございます、騎士殿!」」「「ありがとう! 人間にもいい人がいるんですね! ありがとう!」」「「助けてくださって! ありがとうございます!」」「「わぁわぁ、抱っこして!」」



 わあぁ、子供がいっぱい来た! 子供は耳のヒレが小さくって人の子供みたい。そう言えば海妖精はエルフよりも寿命が短い分、子供がよく生まれて、人口が多いって聞いたことがあったわ。一方で長命なエルフの里は百年に一人か二人生まれるくらいで………その………排卵日が………極端に少なくって………果樹属性のエルフは子供を授かりやすいとはいうのだけれど、私でもその日は十数年に一度くらいだし……いいなあ……海妖精は……。私も……彼の子を……授かりたい……。



 海妖精の子供たちは皆可愛く、ホワホワの頭の子や柔らかそうな髪の子がたくさんいて、コックリの足に抱きついたり………おお、コックリが何人も抱っこしてる! 「孤児院では弟や妹が多かったからね」と嬉しそうに笑う彼。そうか、じゃあ子供の面倒をみるのは得意よね。



「「綺麗だった! またやって!」」「「花火もっと見たい!」」



 子供たちが口々におねだりする。ああ、開口から人魚の湾が見えるから、あの光景を皆が見ていたのね。



「これこれ、無理を言うでない。さあ、皆下がるのだ」



 アドルフ大臣がそう言うと、子供たちもお年寄りの皆さんも皆下がった。すると一人の女性が、コックリと私の前に歩み寄ってきた。歳の頃は人間で言うと三十代前後なんだけれど………わぁ〜、も………ものすごい美人! 美人揃いの海妖精の中でも、明らかに美人さと品のよさが違う! 美しい金髪に、翡翠色の瞳、猫のようなアーモンド型の目、鼻筋も綺麗で、白い肌も雪のよう………。



 アラルフィの博物館で見た人魚姫のような………も、もしかして………。



「神殿騎士殿、お目にかかれて光栄です。この国の女王、クリスティアーネと申します」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ