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19 人魚の湾2

 ■システィーナの視点



 美しい月の明かりが、鏡のような水面に光を落とす。

 先程まであった不浄さを表したような黒い霧も………この世の全てが腐ったような不快な臭いも………直視することさえ躊躇われる醜悪な亡者たちも………今は、全てが嘘のように、全てがなかったかのように、美しい景色に包まれている。



 しかし、今まであったことは嘘ではなく現実のことだ。その証拠に、月明かりを反射する美しい湾にはヘドロや藻にまみれた沈没船がゆらゆらと揺らぎ、町の至るところには亡者によって砕かれた家々の残骸が、無惨な姿を表している。



 コックリと私はディートリッヒが操る小舟に乗って、人魚の港へ向かっている。光の精霊に照らされた港には大勢の人魚たちの姿があり………………でも遠すぎて彼らがどんな表情をしているか、彼らがどんな感情を人間に向けているか分からず、私は警戒して身構えてしまった。人魚の国の危機を救ったのはコックリだけれど………人間だから問答無用で敵対的になるのでは…………と懸念して身構えたの。ほら、ディートリッヒの例があるし。



「なんだシスティーナ。私の顔に何かついているか?」



 あわわ、何でもないです。舟を漕ぐディートリッヒを見たらバッチリ目があった…………。私は舟が港に近くにつれ、コックリの手を握る強さが増していたみたいで…………。



「大丈夫だよ………ありがとう。」



 コックリは、私の懸念が分かったみたいで私の手を優しく握り返してくれた。コックリには、港にいる人魚たちの表情や態度など、見えているのかな?



 私の目でも、人魚一人一人の顔が分かるくらいの距離になったとき、向こうもこちらに乗っている者の顔が分かったみたいで………。



「「ディートリッヒ? ディートリッヒだ!」」「「おお! 生きていたか!」」「「良かった! ディートリッヒ!」」「「アーデルハイトも乗ってるぞ!」」



 口々に喚声を上げる。そして………



「「森妖精? 森妖精が乗ってるぞ!?」」「「ホントだ! 初めて見た!」」「「後ろにいるのは金色の騎士殿だ!」」「「金色の龍殿!」」



 口々に飛び交う声色や喚声、コックリへの言葉遣いから判断するに、どうやら敵対的な感じではなく………友好的そう! そうよね! 目の前でコックリがものすごい奇跡を起こして、人魚たちの敵を倒したのを見ていたわけだし………。いくら人間が嫌いな人魚だって、そんな無体なことはしないよね。大丈夫よね、コックリ!



「ああ大丈夫だ。」 コックリが目を細めて笑った。



 桟橋に到着すると、海妖精の兵士さんがキラキラした目でコックリに手を差し出してきた。コックリはガッシリとその手をとると、桟橋に上がる。そして今度はコックリが私に手を差し出して、引き上げてくれた。すると途端にコックリと私の回りに兵士さんたちが、そして町の若者とおぼしき男女が集まってきた。



「「ありがとう! 騎士殿」」「「ありがとう! 龍殿!」」「「森妖精さんありがとう!」」



 口々に感謝の言葉をもらい、握手を求められ、抱擁を求められるコックリ。ああ良かった、ホントに良かった! こう言ってしまっては悪いけれど、ディートリッヒくらい「問答無用で人間嫌い」なのはごく少数なのかもしれない。ディートリッヒは頭が固そうだし、相当珍しい部類なのかも! と、私の後ろでディートリッヒが、「悪かったな頭が固くて、珍しい部類で」と言っていた! はわぁ口に出てた?



 ああ、でも人魚たちは本当に美男美女ばかりだ。特に女性は美人揃いで………うう〜コックリが美しい人魚に惹かれないか不安………。とヤキモキしていると「システィーナ、貴女も尋常でなく美しいから、大丈夫だ。というか、美しさだけであの男は女性を選ばんだろう?」と言ってくれた。まあ、そうよね。自分でいうのもなんだけど………私は人間の町で素顔を晒したらほぼ百パーセント皆が見惚れるくらい整っているし………………その………………体も………………果樹属性だから、男性がすごく反応する肢体をしていると思うけれど………コックリはアレだし…………。



 ワイワイ騒いでいると、階段の向こうからお年を召した人魚のお爺さんがやって来た。そのお爺さんに気がついた兵士さんたちが膝をついて通り道を開けると、お爺さんは皆にねぎらいの言葉をかけながらコックリの元へとやって来た。そして、食い入るようにコックリを見つめる。コックリはこのお爺さんを高位の方と見たようで、胸に手をあて頭を下げながら挨拶した。



「神殿騎士コークリットと申します。火急にて、勝手ながら亡者討伐に参戦させて頂きました。」



 その言葉に、集まった海妖精たちが口々に「神殿騎士!」「あの神殿騎士と!?」「噂に名高い………!」と声に出す。ああ、やっぱり知っているひとはいるみたいね………。一方で海妖精のお爺さんはというと。



「わしはこの国の内政を任されておる大臣のアドルフと申しまする。神殿騎士殿、亡者討伐への協力、まことに感謝申し上げまする。」



 コックリを見つめながら、何かを思い出そうとするような表情で返答した。んん? どうしたのかな?



「失礼じゃが………神殿騎士アヴァン殿とご血縁でござろうか?」

「「え?」」 コックリと私は顔を見合せた。意外な名前が来た。

「アヴァン殿?」

「ああ、不躾で申し訳ない。その昔ここにおる者たちが生まれるずっと前の話ですが、アヴァン殿がこの国を訪れ、やはりコークリット殿のように魔物と戦われたことがあり申してな。コークリット殿の闘いぶりが、わしの記憶にあるアヴァン殿によう似ておりましてな。ただ面影がどうにもはっきりせんで………何せ二百年以上前の話しなもので………。」

「なるほど………では、この地に訪れた神殿騎士とは、アヴァン殿でしたか……………残念ながら、血縁ではございません。」

「ほっほっほ、なになに残念がってはおりませぬ。コークリット殿、改めて御礼申し上げまする。実は、我が女王陛下もまた御礼申し上げたいとのこと。王宮へご案内致しまする。」



 アドルフ大臣はそう言うと、兵士たちや町の若者たちにも労いの言葉をかけ、今一度亡者と生存者が残っていないか確認するように指示して、コックリと私を王宮へと案内し始めた。





来年もよろしくお願いします

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