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16 人魚の湾

なんとか更新しました

 ■システィーナの視点



 わあ~、すごい景観………! なんてすごいの!?

 コックリと私はディートリッヒが漕ぐ小舟に乗って、渓谷を進んでいる。ファロース諸島は、小さな島々の集合体のはずなんだけれど………本当にそびえるような岸壁で、すごい渓谷なの! そこは海の底から始まり見上げるほど高い岸壁が左右から迫っていて………岸壁の中腹からは木々が生い茂っている。そこには海鳥が威勢の良い鳴き声を上げていて、きっと 見知らぬ舟が来てるぞ! とか、叫んでいる声なんだろうな。うう~ん、渓谷の真上に開いているわずかな空が赤く染まり始めているから、鳥の声がなんだか不吉な、不気味な印象を受けないでもない………。



 海底に目を移せば………こちらも凄い。薄暗くなり始めたから、コバルトブルーの海の中は濃い色に染まっていて………深淵………という表現が正しいかしら………海の中もやはり渓谷がそびえていて数十メートル下までありそう! うわぁ~、三メートルくらいありそうな大きな魚が悠然と泳いでいるよ! すごいね、コックリ!



「おおぉ~、そうか。残念、俺は見えないよ………。」



 ああ! ごめん、コックリは目隠ししていたっけ………。ディートリッヒが、人魚の国の危機のためコックリに助力を申し出たのだけれど、「人間に場所を知られてはならない」と決められているらしく、どうしても人魚の国の行き方を知られたくないそうで、しょうがないから目隠ししてもらっているの。



「ディートリッヒ。ここは遠浅の海って聞いたけれど、こんなに深いところがあるのね。」

「ああ。ファロース諸島の近海は遠浅の海だが、諸島の中心部は岩山が密集し、海も深くえぐれている。」



 相変わらず硬そうな口調で短く区切りながら簡明にいう彼女は、とても美しく可憐で儚いイメージのマーメイドに見えない。というか、スケイルアーマーを纏っているところからもう人魚に見えない。うう~ん、美しい顔立ちをしているんだけれど、表情やまなざしが凛々しくって………彼女は海妖精の国の女兵士らしいけれど………たぶん、彼女だけ一般的ではない、変わった海妖精なんじゃないかな?



 漁村で小舟を借りてからかれこれ一時間以上は乗っているかしら。だいぶ日が傾いているようで、渓谷のようなここも結構薄暗くなっている。



「ディートリッヒ。まだつかないの?」

「ああ。急いではいるが、潮の流れが逆だからな。」



 そうか、彼女は人魚の国から流れ流れてあの漁村まで流れ着いたのよね。ということは、確かに流れに逆らっているから時間はかかりそうね。とても入り組んでいるし…………。



「もし人魚の国を襲った亡者の船団が、一連の『 光る海 』と関係があったとして………どういう経緯を経て、こうなったのかしら?」

「良い着眼点だね。時間があるから考えてみよう。」



 アゴ髭に触ること数秒………。



「アラルフィに、光る海で沈んだサルベージ船リーデンス号が流れ着いたことから、例えば『 光る海の底でリーデンス号さえ動く強い海流が発生した 』と仮説をたてよう。」

「うん。」

「世界で最大級の巨大なサルベージ船でさえ動いたのだから、それ以下の沈没船も動いたはずだ。」

「ああぁ〜、そうね。」

「次に動いたはいいが、リーデンス号と他の船の流れ着いた先が違う理由を考えよう。」

「うん。」

「二つ考えられる。一つはテラメディウス海は、潮の流れが幾通りもあり特殊であること。少しの位置ズレや時間差で流れが異なる可能性がある。」

「ああ、ありそうね。」

「二つ目に考えられるのは、リーデンス号にはクラーケンが刺さっていたという特殊性があった。クラーケンが途中まで生きていて、流れに逆らおうとしたら、リーデンス号だけ違う動きをしたかもしれない。」

「うんうん、そうね。」

「リーデンス号はアラルフィに、その他の沈没船はファロース諸島に流れてきた、という可能性は出てくるな。」

「なるほど。」

「そして、海の底で静かに眠っていた死者たちは、それにより目覚め、流れ着いた場所で怨念を撒き散らし暴れまわった………と考えられるか。」

「何だと! では我々は、完全なとばっちりか!?」

「仮説ではね。サルベージ船などがあったら、当たりだろう。」



 この仮説が正しかったら、本当に迷惑極まりないわね。光る海で何があったのかしら………。



 そういえば、コックリはリーデンス号に何かの聖魔法をかけていた。あれは亡者が起きて暴れまわらないようにするためだったのかしら? 物質界と重なって存在する二つの冥界は夜につながりやすい。予防線を張るには陽があるうちにすることが望ましいから、コックリはリーデンス号に何か術をかけていたんだろうな………。

 亡者を倒すには普通の攻撃では効かない。魔法や聖なる武器や道具でダメージを与えるしかないのだけれど、特に聖魔法が効果的だ。とすると、人魚の島で暴れている亡者の討伐には神殿騎士のコックリが適任のはず。とディートリッヒに話したところ………。



「神殿騎士といえば、その昔私の国に、その神殿騎士が来たとか聞いたことがあるな。」

「え? それは誰?」

「分からん。私の生まれる前だ。」

「いつ頃?」

「百年以上前だ。」



 ああぁ、そういえばこの娘、神殿騎士という存在は知っていると言っていたっけ。この事だったんだな、と思っていると………。



「シス。左前方を見てくれ。小さな呼吸音がするが………何かないか?」



 え? 私とディートリッヒは、同時に左前方に視線を送った。そこには崖から突き出た岩があって………誰かがいる! 岩に引っかかってる! 海妖精だ!



「アーデル!? アーデルハイト!?」



 ディートリッヒは叫ぶと、海の中に飛び込んですごい速さで泳ぎ、アーデルハイトと呼んだ海妖精の元まで到達した。



「おい! 起きろ! アーデル! 起きろ!」



 ディートリッヒはアーデルと呼んだ海妖精のほほをバシバシとたたく。ちょ……強く叩きすぎじゃ……加減は必要よ、この娘って不器用? その音があまりにも大きいからコックリがストップをかけ、自分の元に連れてくるよう話した。彼女はアーデルの顔を海面から上げながら舟のところまで連れてくると、コックリは舟のバランスを取りながらアーデルを舟へと引き上げた。そして呼吸や脈をとって状況を確認する。



「霊傷のようだ。それほど重くはなさそうだ。聖魔法をかけるが、ディートリッヒは早く舟を人魚の国へ操船してくれ!」

「分かった!」



 ああ良かった、無事みたいね。コックリが聖魔法をかけると、アーデルの霊傷は治ったようなのだけれど、ずっと海に浸かっていたためか体力の消耗が激しいようで、目を覚まさない。コックリは、無理に起こさない方がいいと、彼女に自分のサーコートを掛けた。



「シス。前方から死臭がする。何かないか?」



 コックリに言われてその方を見たら………ああ! イルカや大きな魚がたくさん浮かんでいる! ディートリッヒが「目隠ししていて、何でわかるんだ?」とつぶやいている。このひとは特別なんです。



「こっちの方はたぶん死んでいると思う。死臭がすごい………おそらく、汚冥界の瘴気にあてられて死んだんだと思う。」



 ああ夕日で赤黒くなった空が………渓谷に深い闇をもたらし始めた。海がすごく黒くて………その黒い海には無数の魚たちの死骸が浮いている。私でも分かる死臭。



 そして淀んだ………黒い空気………が、あたり一帯に立ち込め始めた………。本当に黒い空気………いや黒い霧なのだろうか………私はコックリの指示で、光の精霊ウィル・オー・ウィスプを呼び出し、前方と私たちの上を照らすけれど………ああ、黒い霧にウィスプの光が遮られて、よく見えない。これがコックリのいう瘴気………瘴気は海の水にも溶けてまだら模様のようにうねって、不快な色と臭いを放っている。



 そう、何よりも………臭い………腐った肉、腐った水、腐った植物………ありとあらゆるものが腐ったような、ひどい臭いが立ち込めている………。その時!



 遠くの方で大勢の何かが叫んでいる声が聞こえてきた! 不快な、地の底から這い出てくるようなくぐもった叫び声が!



「ディートリッヒ!」

「ああ! そこの岸壁を超えたらすぐだっ!」



 黒い霧に霞んでいるけれど、トンネル状の岸壁が見える!



 そしてその先から、おぞましい声!


 ゥオヲヲヲォォォ………

 ゥオヲヲヲォォォ………

 ゥオヲヲヲォォォ………



 コックリは目隠しを外した。ディートリッヒが言うには、トンネル状の岸壁を超えるとそこには城壁のような岸壁が周囲を囲んでいて、さらに広くて美しい深い湾があって、岸壁の中腹に城や町があるらしいんだけれど………。



 黒い霧でまったく分からない! そしてその湾には特に黒い霧が立ち込めていて………。


 何かが………見える………。


 大きな………影………と、小さな影………。


 うごめく すごい数の影………。


 ああ、船の形が見える………。


 その船の上と海の中に………蠢く人影………。


 さらには、海から突き出る無数の触手………。


 ああ、確かに………亡者の船団………亡者の船団だ………。



「ある………! あるぞ、サルベージ船が………!」



 コックリでさえ目を細めて確認している。その時、黒い霧の中でいくつかの光が弾けていることが分かった! あれは光の精霊による攻撃! たぶん、海妖精が戦っているんだ! ああ! 巨大な触手が陸地をドカンッドカンッと叩く度に悲鳴が! 叫び声が! 誰かがいる! あそこにいる!



「くそうっ! もう一度やってやる!」



 ディートリッヒがトライデントを手に構えて飛び込もうとした! その時、コックリが彼女を静止させる!



「待て! この瘴気の水の中に飛び込んで水を飲み込んだら、それだけで霊に傷を負うぞ!」

「しかし!」

「大丈夫だ! 今から奴らを完全に消滅させる!」



 コックリはそう宣言すると、揺れる舟の上で立ち上がった。そして両の手のひらを胸の前で合わせ、合掌したまま集中すると、一言発した。



「『 聖輝光! 』」



 するとコックリの全身が黄金色に輝き始めた! すごい! どんどんどんどん、明るくなる! でも、熱くない! 闇に慣れた目ではまばゆ過ぎて開けてられないくらい、黄金色に輝いているんだけれど、全然熱くない! そしてエルフの私にも分かる、すごい聖なる力、善良な力を感じる! ディートリッヒのまあびっくりした顔! 充分な光と力が満ちると、コックリは胸の前で合掌した手を前方に突き出した! 手のひらを亡者の船団にむけて、そこから、黄金色の光が飛び出した!


 フォッ!


 黄金色の光がコックリの手から放たれる! その光は、美しい金色(こんじき)の光の筋を描き、通過した空間にある黒い霧を消滅させながら、数百メートルくらい離れた亡者の船団の真上に飛んでいく。そして!


 サンッ!


 という涼やかな音とともに、黄金色の光の玉が黒い霧の中、大きく美しく華開いた。


「「わあぁ!」」


 あまりにも大きく、あまりにも美しい金色の華に、私とディートリッヒは感嘆の声を上げた。金色の華は、夜空を彩る花火のようにキラキラと輝き、広がりながら黒い霧を消滅させ、腐って醜い姿を露にした亡者たちの上に降り注いでいく。それは光の大きな柳………大きな大きな花火の柳のようだ………。でも明らかに違うのは、煌めく火花が宙で消えずに、そのまま降り注ぐこと。


 そして! 金色の柳に触れた亡者たちが! 次々に! 次々に煙を上げながら! 苦しみながら! 燃えていく! ああ、別のところからも喚声が上がっている! 歓声の数から、海妖精の多くが、まだ無事に生きているはず!


「まだまだっ!」


 コックリはそう叫ぶと、次々に金色の光を打ち出し、中空に華を咲かせる。大きな大きな金色の柳がそこかしこに華開き、辺りを明るく照らす。


 なんて………なんて美しいの…………!


 まるでそこは光る水を落とす滝………瀑布………瀑布だ。ひしめき合っていた亡者の群れは、ドンドン燃え上がり、消滅していく! ああ、湾内全域が黄金色の光に満たされると岸壁にはアラルフィの町を小さくしたような町があって、海妖精たちが歓声を上げているのが分かる。ディートリッヒ、大勢が無事みたいよ! 彼女を見ると、目を皿のようにしてコックリを見ている。はっダメよ、コックリに惚れてはっ!


 そのコックリは、光の玉を打ち出す度に彼が纏っている黄金色の輝きが失われていくから、光が消えるまでは打てるのね! これならすべて討伐できるんじゃない?


「いや、亡者化した魔物はでかすぎる! 聖輝光が内部まで届いていない!」


 そういうと、コックリは再び手を合わせ、強い光を纏う。そして腰から愛用の剣シュヴァイツァーソードを引き抜く。コックリが引き抜いた剣の刀身に手を触れると、刀身にも光が輝き始めた。


「『 聖剣技! 輝光の太刀! 』 」


 コックリは私たちに身を屈めるよう指示し、私たちが身を屈めたのを確認した後、舟の後ろからひらりと飛び降りた。ええ? と思った瞬間、炸裂音とともに舟の後ろに水柱が立って、舟が少しだけ前に進んだ! コックリは!? ああ、私たちの真上! 岸壁の中ほどにいた! と思ったらまた炸裂音がして、今度は前方に! 金色の光の帯を残しながら! また炸裂音がすると、前方で水柱が立った! そしてドンドンドンドン、水柱が魔物の群れへ向かっていく!


 亡者化した魔物は、光の中で、十体くらいいる。クラーケンやサーペント、オウムガイなど多様にいる。そのうちの一体のクラーケンがコックリに腐った触手を何本もぶつけてくる! と次々に触手が金色の太刀に切り裂かれ、燃え上がる! コックリはそのまま金色の帯を残しながら、クラーケンの体の上を滑るように動き! 金色の刀身で切り裂きながら突き進む!


 ああぁ、光の帯はすごい速度で、他の魔物を縫うように突き進む………もうその様は、まるで光る龍が縦横無尽に通ったような錯覚を覚えさせる。魔物の表面を通ったり、内部を貫通して突き抜けたり………もう何が何だか………と、光る龍の頭部が中空高く飛び上がると、ゆっくりと降りてきて一つの亡霊船の上に止まった。


 光の帯が消え行くとともにその場にいた魔物が同時に燃え上がり、水面に赤い炎が浮かんでいるけれど………………やがて………………すべてが消滅していった。ああ、また圧倒的だ………………圧倒的に強すぎて………ディートリッヒはついて行けてなさそう………。たぶん、彼女は死にかけるまで戦っていて、亡者の厄介さが骨身にしみてわかっているだろうから………圧倒的過ぎてついて行けてなさそう。



「あ………あの男は、龍か何かか?」

「うん、そうかもしれない。………ね? 一人で一万人分の強さでしょ?」

「ああ………その通りだ。そして分かった。」

「何が?」

「システィーナ、貴女があの男に惚れた訳が………。」




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