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09 新たな異物

 ■システィーナの視点



「光る海………。え? 海が………光るの?」

「ああ、そういう特殊な海があるんだ。」

「そこを調べれば分かるのね?」

「ああ。そう………なんだが………。」



 コックリが何か悩んでいる………あの件かな?



「コックリ………私、魔法が使えるよ。」

「ん?」

「水中呼吸の精霊魔法。」

「ああ。」



 私は水の精霊を利用し、水中で呼吸ができる魔法を使える。コックリが「海の中だから調査ができない」と考えて悩んでいるのかしら、と思ったの。でも………。



「ああ、光る海に行くことになったら、お願いするな。」

「え? 光る海に行かないの?」

「………んん………悩んでる。」



 ええ? なんで悩んでいるんだろう、意外! いつもだったら、謎めいたものが大好きで、私の静止を聞かずにドンドン先に行っちゃうくせに………ちょっと新鮮!



 なんでなの?



「ああ………神殿騎士にはいくつかタブーがあってね………。たとえば、『 聖櫃アーク 』には触れてはならない………とか。」

「タブー……? タブーが………というと、もしかして………?」

「ああ………。入っているんだよ、そのタブーに………『 光る海 』が………。」



 世界中で起こる怪異を調査・解決する特務を与えられた神殿騎士でも、触れてはならない『 タブー 』があるなんて………。そんなに特別な場所なの………?



「タブーを犯してでも、調べるにはそれなりの根拠が必要なんだ。確かに、温暖な海に氷山が流れ着いたというのは………怪異は怪異なんだが、”光る海が関係しているか”と言われると………。」

「ああ~。」



 巨大な海の魔物が氷山の中にいた………この魔物がどこの海から来たのか………光る海以外の海域の魔物ではないのか、と言われたらそれまでだ。



「それに、聖霊の啓示もない………。邪悪な魔が関わっているわけでもないんだよな。」

「ああ、そうだ………!」



 うう~、そうよ。今回は完全に旅行としてこの地に来たのに………。最初この町に着いたとき、このコバルトブルーの海で、私は四百年生きてきて初めて『水着』というものを着てみて………そ、それで、コ、コックリをゆ、ゆゆ誘惑してみようと………お、思ったのにっ! うう~、私を………私を遠ざけるコックリを誘惑して………ヴェネリアの晩餐会の時みたいに………うう~。



「………というわけで、光る海に手を出すのがなぁ。」



 ん? 待ってね。そうか、このまま手を引けば………アラルフィで旅行滞在できるのよね。おぉ~!



「タタタ、タブーなら、しょうがないわよね! ここ、これでっ! お終いっ! よね!?」



 その時だった。また早鐘の音が鳴り響くと、コックリを呼ぶ声が聞こえてきた。たぶん、船に備えられている早鐘を鳴らしているのね。コックリと私は、音の鳴る船の方へと向かっていくと、あら? 



 船が二隻に増えてる?



「ああ、他の船にも指示を出して、近海に異物がないか巡回してもらっていたんだ。」

「な、何だか慌ててる………?」



 もう一隻は、もう少し小さいガレー船なんだけれど、乗っている船員さんたちがちょっと慌てている。うう~、嫌な予感がする………。



「失礼するよ。」

「きゃあっ!」



 きゃあぁっ! またお姫様抱っこだ! コ、コックリ急いでると、ひとのことお構いなしになる! 

 そのまま波動を足に集めて、氷山から宙を舞うように下りていく。新たに来た船員さんたちが、氷山から宙を舞いながら下りてくる私たちを見て、またどよめいた。



「どうでしたか?」 とコックリは近海の海のことを聞いたら

「いや、神殿騎士様は、空を飛べるんですね。いやはや、びっくりしました。」 と、今見た光景のことについて聞かれたと思っている黒いモジャモジャした髭の船長さん。え、コックリが聞いたのはそのことではないような。



「まあ、短い距離ですが………近海の方で、何か見つかりましたか?」

「そ、そうです! た、大変ですっ! 大変なものがありましたっ! このまま向かいますかっ!?」

「ええ、お願いします。」



 ええ? すごい慌ててる………うう~、嫌な予感………。

 私たちは、氷山まで乗せてきてくれたガレー船とともに、針路を西へと向け動き出した。



 右手側に雄大な岸壁を見ながら進むこと十数分。しばらくすると………私たちが向かっている方向に………何かがある………。まだはっきりとは分からないけれど………。



 何かがある………。



 目を凝らして見ると………。



 え? 船………? 横倒しになった………船…………?

 随分古そうな………沈没船………? とても頑丈そうな………船体の装飾が豪華な大きな船………。ドロっとした海藻みたいなものとかフジツボみたいなものが船体にびっしりついた………船。

 え? でも………その船のそばに………赤黒い島がある………?

 というか………横倒しになった船のマストが、赤黒い島に刺さっている………?

 その上空を、ものすごい数の海鳥たちが飛び回って………あるいは船や島に乗っている………。

 ギャァーギャァー、すごい声で鳴いている。わあ、頭のすぐ上を通過してびっくりした。



「そ………そんな………これ………。」



 コックリが目をこすりながらつぶやくと、もう一つのガレー船の船員さんたちもドヨドヨとどよめいている。



「「う、嘘だろ?」」 「「まじかっ!?」」 「「ええぇ、あの船………あのマーク!」」

「「まじか………で、伝説の『 リーデンス号 』じゃねえのっ?」」



 な、なに、何なの? リーデンス号? リーデンス号ってなに? コックリはその光景に釘付けになりながらも、私の問いに答えてくれた。



「に……二百年前……海洋国家ポルトガリスが、『 光る海 』の調査に乗り出した時………当時の世界最高峰の技術を動員して作り上げた 超サルベージ船………リーデンス号………。それでも『 光る海 』の探索叶わず………『 光る海 』に沈没した伝説の船だ………。」



 ええ? そうなの? なぜ、そんなものが………今さらここに?

 世界最高峰の技術を動員しても沈没した船が………今さら、なぜここに?

 沈没船って、沈没した場所から動かないんじゃないの? しかもこんな重そうな大きな船が………。



 世界最高峰の技術………確かに大きくて頑丈そうで、立派な船だけれど………。でも………でもそれ以上に大きな島に………突き刺さっている………。



 んん? 島?



 近づくにつれ、漂ってくる腐臭。

 島からは太い触手が生えていて………その触手には吸盤がたくさん………うう、気持ち悪い。



 吸盤がついた触手が海に投げ出され………島のような胴体部分には巨大なリーデンス号の複数のマストが串刺しになっている。



「クラーケン………こっちは、クラーケンだ………。」



 胴体部分だけで、三十メートルはある巨大なクラーケンの死骸に、光る海で沈没したとされるリーデンス号が串刺しになっていた!



「見過ごしていい問題か………? タブーだからと言って………。今までは何も異変はなかったから触れなくても良かった。しかし今は、確実に異変が起こっている。この後どんな怪異に発展するかもしれない問題を見過ごして………見なかったことにして………。いいと思うのか?」



 コックリが自問自答している。調べるかどうか………何かが起こっている………光る海を。



「光る海に『 何がある 』のか………そして『 何が起きている 』のか。シス………光る海の………調査をするよ。」



 ■光る海

 ①何があるのか?

 ②今、何が起きているのか?

 ③なぜ聖霊の啓示がないのか?





後日、2話と3話目の間に、話を挿入しようかと思います。

(いきなり怪異が始まったので、人物像の厚みとかが足りないような気がしまして。)

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