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ヒズミ、センセイを叱咤する 3

暗い洞窟の中。

私は右手に小刀を、左手に松明を持ち、

少しずつ進んでいた。


(足跡がかなりくっきり残ってるな……。

 敵はセンセイを担いで奥に戻っていったのかも……)


私はゴクリとのどを鳴らした。


ひとりで危険な場所へ向かう場合、最悪のケースを想定することは大切だ。

例えばセンセイが既に半獣半人の化け物に食べられてしまっているケース。

このケースでは奥へ行けば行くほど私自身に危険が迫ることになる。


センセイは無事だったとしても、

気絶していたり、ケガをしているケースも考えられる。

そうなったら厄介だ。生きている以上、助けないわけにはいかない。

しかし、実際にセンセイを担いで逃げるとなると、それは至難の業だろう。


相手はこんな山の中で暮らしている怪物だ。

すぐに追いつかれ、逃げ切れない。

そうなってしまっては、私とセンセイ、両方の命が危ない。


(でも、だからと言って、

 恩人スポンサーの頼みを無下にするほど、

 私は落ちちゃいないんだよー!)


妙な気配に私は足を止め、耳を澄ました。


ジュル……

ジュルルルル……

ガリガリガリ……


(何かを食べる音……!?

 まさか、センセイ……餌食になっちゃったの?)


あと少し先に進んだ角から、その音は聞こえてくる。

私はたいまつを前に突き出し、そっとその角を覗き込んだ。


「ばぁぁぁぁ!!」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」


私の目の前に飛び込んできたのは、

半獣半人の化け物……ではなく、変な顔をしたセンセイだった。


「ちょ、ちょっとまてヒズミ!

 刀! 刀振り回さないで!!」


私はキャーキャー言いながら、

センセイに向かって小刀を振り回していたことに気がつき、

は! と手を止める。


「な、なにしてるんですかこんなところで!

 びっくりしたじゃないですか」

「ああ、この人がメシおごってくれるっていうからさ」


センセイが指差した先には、

狼の顔をした大男が、陽気に「やぁ」と手を振っていた。


「え、ええぇぇ……なんか想像してたのと違う……でも、

 ひょっとしてあなた、この辺りで噂になってる

 半獣半人の化け物……」


狼の顔をした大男は、やれやれと言った顔をして

ため息をついた。


「まったく困っちゃうよね。

 こんな色男を捕まえて化け物呼ばわりとは。

 ねぇ、センセイ。ボク、この子食べちゃってもいいかな?」

「いいよ。食べちゃっても。しょうがないよね」

「いいわけないよ!?」


そして私はセンセイに対して、

どういう状況なのかの説明を強く強く求めたのだ。

センセイは狼男と目を見合わせ、お互いに「キミが説明しなよ」という

アイコンタクトを交わしている。


ええい、まどろっこしいな。

お前ら何なんだよ!


そんな私の怒気を感じたのか、センセイが説明を始めた。

要約するとこうだ。


この狼男――グレンと名乗った――はこの洞窟で暮らしており、

なにやらうるさいので入り口まで来てみると、

センセイにばったり遭遇した。


ただ、センセイはお腹を空かせて倒れており、

心配したグレンはセンセイを担いで自分のアジトまで

連れていき、ご飯を食べさせていた。


「私が雨水をために行っている間に

 そんなことがあったなんて……」


私はグレンに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

疑ったばかりか、センセイのご飯の世話までさせてしまって。


「まぁ、いいのさ。

 ボクは心優しき人狼だからね。

 人助けをするなんて当たり前のことさ」


グレンはそう言って、ほがらかに笑うのだ。


※センセイがその隣で、

 これも俺の人徳のなせる業だな、みたいな顔をしていた。

 心底イラッとしたことは言うまでもない。


私はグレンに申し訳ないので、

早々にその場を去ろうとセンセイに言った。


「いやぁ、その……」


しかし、グレンはなぜか私たちにそこにいてほしいようだった。


「どうかしたのか? グレン」


普段は鈍感なセンセイだが、

グレンのその様子には気がついたらしい。


センセイのその言葉に促されるように、グレンは口を開いた。


「出来れば二人とも……、

 ボクの成人の儀式に付き合ってもらいたいんだ」

「成人の儀式? それはキミたち、人狼の儀式なのか?」

「ああ、そうなんだ。とても大事な儀式でね。

 でも、この儀式が終われば、ボクは晴れて一人前。

 この山から出て、自由に世界を旅することができるんだ」


正直私は、怪しげな儀式に付き合う気はなかった。

しかし、センセイは興味を持ったようで、妙にグレンの話に食いついた。


「なんでも協力するよ。

 特にこのヒズミは私の国一流のボディガードでね。

 だいたい何でもこなせるのさ」

「ちょ、ちょっとセンセイ……!」


私はセンセイの耳を引っ張ると、

小さな声で抗議した。

だが、センセイは笑顔を崩さず、

「彼に協力しないなら、俺は魔法の国へは行かないぞ。

 東の国へ帰って、キミに置いて行かれたと、

 泣いて訴えなければならないだろう」と言った。


勘弁してよ……。


私はセンセイの耳を離すと、

「わかりましたよ……」とため息をついた。


「で、グレン。キミたち人狼の成人の儀式とは

 いったいどんな儀式なんだい?」


グレンは少し恥ずかしそうにほほを染めると、

「勇気を出して言いますね」と前置きをしてから言った。


「人間を二人、丸ごと食べることなんです」


私はセンセイの襟首をつかむと、

猛ダッシュでその場から逃げ出した。

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