ヒズミ、センセイを叱咤する 1
「お~い、ちょっとは手伝ったらどうなんですか、センセイ」
私の名前はヒズミ。
東の国の生まれで、行方不明の兄を探して旅をしている。
「……ンガ~……」
そして、私が引く荷車の中で盛大にいびきをかいているこのぐーたら男が、
私と旅をすることになった『センセイ』だ。
(……決めた。今日こそ私は、このぐーたら男と決別するのだ)
東の国を出発してはや3カ月。
私とセンセイは荒波を乗り越え、だだっ広い草原を抜け、まっすぐ西に向かって進んでいる。
太陽が沈む先には『魔法の国』があり、そこにはありとあらゆる魔法使いが暮らしているという。
私の兄だって、そこへ行けばきっとすぐに見つかるに違いない。
……が、しかし。
旅にはお金がかかるのだ。
船代、食費、旅の支度……。
お金を出してくれる人 (スポンサー)がいなければ、国から一歩も外に出られなかった。
血のにじむような努力の結果、私はなんとかひとりのお金持ちを見つけ、
旅の応援をしてもらえることになったのだが……。
「あれ? ヒズミ、なにしてんの」
「ちっ、気づかれたか。……おはようございます、センセイ。今日もよくお休みでしたね」
「いま舌打ちした?」
「いえいえ、とんでもない。うふふ」
荷車を放置してぐーたら男から逃げようとした矢先、
男がむっくりと起き上がると、あくびを噛み殺しながら私を引き留めた。
そう、私はこの男を連れて、
魔法の国まで行かなければならないのだ。
ガサガサ……
唐突に近づいてくる足音。
足音の主をけん制するため、私は懐に忍ばせていた短刀を投げた。
「ウサギか……」
足音の主は、野生のウサギだった。
ウサギは私たちにおびえると、ガサリと草むらに逃げていった。
「ちょうどいい。センセイ、私はあのウサギを狩ってくる。
センセイは、火をおこしておいてください」
「ガクガクガク……」
センセイは震えていた。
「ば、化け物に襲われる……助けてくれ、ヒズミ!」
「ウサギだから! 大丈夫だから!!」
そんなこんなでセンセイをなだめているうちに、
雨が降ってきた。
(ああ、くそ……ウサギはあきらめないとダメだな)
「センセイ、屋根のあるとこ、探しますよ!」
「……お腹すいた……一歩も動けないよ」
「動けるよ! 私よりもあんたの方がメシ食ってるだろ?
ほら、荷車押して!! 急ぐよ!!」
はぁ、センセイの方がいくらか年上のはずなんだけど。
私はセンセイをたきつけつつ、雨をしのぐため、屋根のある場所を探した。