後悔の始まり/レバニラは美味い
さて、ここらで話を変えよう。
私と、彼女の出会いを語っておこう。
話は、遡ること、5年前のこと。
昔の私は、今程には活発な子供ではなかった・・・公園に行っても、子供たちの輪に入る事なく、隅っこで虫を観察しているような子供だった。
当時の自分は、別に大勢の中で遊ばなくても楽しむことはできる、一人でも良いと、そう思っていた。
親にはもちろん、周りの大人たちには、子供は駆け回って遊べ、怪我をしてなんぼだ、と散々言われていた。
そんなある日、彼女は私が住んでいる街に引っ越してきた。
勿論、学校は同じ、なんとクラスも同じ、まぁ、テンションが上がるほど嬉しくはなかった。
転校生がクラスに来るという点では、テンションは上がったが、その程度の普通のノリである。
その後は勿論、テンプレと言わんばかりに、クラスメイトからの質問攻めにあっていた、私はそれを教室の隅っこでそれを眺める。
飛び交う質問も、在り来たりのものが一杯だった。
「どこから来たの?」「前の学校はどうだった?」「部活とかやってた?」等など、至って普通で、聞いているだけでつまらなかった。
きっと自分は、物凄くつまらない顔をしているのだろう、教室の窓の奥の空に視線を向ける。
きっと転校生の彼女の、周りのクラスメイト同様、沢山の友達に囲まれて過ごしていくんだろう。そう思っていた。
しかし彼女は、質問攻めの生徒たちに「ごめんね」と行って立ち上がる。はて、何処へ行くのだろうか。
どこに行っても、私には関係ないと、一度、彼女に移した目線を再び、空を眺める。
視界の済に彼女がチラチラと見えるのを無視しつつ、空を眺める。
「ねぇ、貴女は私を質問責めにしないのね?」
視界の外から声がする。
質問責めにしない理由なんて1つしかない。
「興味がないから。」
そんな、一言すら言うのが面倒なのでシカトする。
「・・・聞こえてる?」
再び声がする。どうやら焦っているらしい。
初対面の人間に無視されるのは、誰でも気持ちのいいモノではい。
「おーい」
「聞こえてるー?」
何ともしつこい、早く何処かに行かないだろうか。
「あぁ、月見里さん、その子は普段からそうだよ、他人に興味がないんだってさ。」
「可笑しいよね、なんか気持ち悪いし、いつも一人だしさ。」
「ホントだよねぇ。」
何時ものように、私に対する悪口と、笑い声と共に教室の外へと移動していった。
教室の中に不穏な空気が流れる、これも何時も通りだ。
他のクラスメイトは、転校生の彼女に「1時間目移動教室だから、行こう?」と彼女を教室の外へと連れて行った。
私は、最後まで教室に残り、教員に注意されるまで狸寝入りをする。注意されて初めて授業が行われている教室へと移動する。
教員に摘まれて、教室に行けば、私を虐めているグループは、その結果に満足して、その時間内は授業中の嫌がらせは、されなくて済む。
私も人間だ、虐めに対して何とも思わない訳がない。授業中の嫌がらせだってストレスになる。
始めに大きなインパクトを与えておけば、嫌がらせをされる頻度はかなり落ちる。それを知っていこう、私は学校の中では道化を演じるようになった。
虐めも長年されると、無意識に自己防衛が働くのか、何時しか私は虐めを人間観察なのだと考えるようになった。
だから、あえて虐めグループが喜ぶことを進んでする、そんな毎日が始まったのだ。
教員に怒られながら、教室内を見渡す、転校生に彼女も、皆の様に周りに調子を合わせて、私を虐める。
その時は、そう思っていた。みんなが視線を逸らす中、彼女は私を、見ていた。バッチり目が合った。
何とも言えない、不安が溢れる。彼女がここで私の味方なんてしたら、彼女も標的になってします。
その、1時間は非常に長く感じた、胃にでも穴が空くんじゃないかと・・・。
「それじゃ、授業を終わりにするぞ、号令係。」
教員の声を合図に、係りは号令をかける。
終わった。物凄く長い1時間が終わった。
教室に戻る。授業と授業の間の時間。ちょっとした休憩時間。
他の人には、長い授業終わりのつかの間の休息。私にとっては変わらない地獄なのだ。
理由のない悪意の塊が、休むことなく私に対して投げつけられる。
虐めが始って、数ヶ月は言葉だけだったが、抵抗しない事が解ると物が飛んでくる。
今でこそないが、机が頭めがけて飛んできたことがあった。結果は、ぶつかった箇所が切れ、血が流れる。
そんな状態で、授業を受けるものだから、騒ぎになる。
その場では、「転んで頭をぶった。」そう言ったが、大人は騙されないらしい。
転んだにしては傷の場所が不自然だと問い詰められ、机を投げられたことが判明してしまった。
私の最大の誤算は、虐めに対して真っ向から向き合う教員なんていない。そんな考えがあったことだ。
適当に言い訳していれば、そのまま話は流れて、いつかは忘れられる、そう思っていた。
しかし、現実とは自分の思い通りにはいかないもので、簡単に私が虐めのターゲットであるとバレてしまったのだ。
いやはや、大人とは凄いものだ、当時の私はそんなことを考えていた。
少しばかしの希望を抱いてしまったのだ。虐めの問題の解決に関しては希望なんてものは抱いてはいけないというのに・・・。
机の事件の翌日、朝のホームルームで全校生徒に向けて、虐めのアンケートが実施された。
何とも明からさまな対応なのだろうか。きっと学校側は、「我々は、虐めに対してしっかりと対応している。」とでも胸を張っていうのだろう。
けれどこれでは、虐めがあったことが発覚したと、大声で言っていることに変わりはない。
虐めグループも、私のことを苛立った様な目で私を睨んでる。これは教員が教室を出たらやばいな、全く、大人はバカが多いようだ。
ホームルーム終了のチャイムがなる。同時に地獄の始まりでもある。
「ちょっとさ」
虐めグループのリーダー格の生徒から声がかかる。
無言で生徒に視線を移すと私は、殴られる・・・不思議と痛みはなかった。痛みがないというのは殴られ慣れているとか。精神的な事ではなく。
本当に『痛み』が無かった。何発殴られたのだろう、目の前の現実から逃げるために思考をシャットアウトさせていた最中。
強烈な激痛が顎を襲う。痛みのあまりに喚き、教室の床をのた打ち回る。
今までに経験したことのない痛みに、どうしていいのかわからなくなり、パニックになりかけていると、最初は引いていた虐めグループは、面白がって私を蹴り始める。
教室内が、異常な空気に包まれていると気付いたのか、何人かの生徒が教室を走って出ていく。暫くすると教員を連れて戻ってきた。
痛みに耐え。無理だった、耐えれない。その痛みを知らなかったからだ。ただ唸るしかできない。
教員は唸る私を、保健室へと連れて行く。
痛すぎて気が付かなかったが、どうやら私は口から血を結構な量、垂らしながら移動していたらしい。服に血がベットリと付いている。
朝早くから流血騒ぎとは・・・我ながら情けない、保険の先生が何やら慌ただしく支度をしていた。
どうやら、病院に行くらしい。痛みのせいで、周りのことに集中できない。保険の先生に手を引かれ車に乗り込む。
時間の感覚なんて無くなっていた、取りあえず痛みを抑える薬を投与され、状況を説明しようとした。しかし喋れない。
鏡を見せてもらったが、顎が腫れ上がっていて、口が動かせないようだ。
医者曰く、虫歯の奥にあった膿溜りが、強い衝撃で破裂、破裂の衝撃で神経が圧迫したのが、激痛の原因のようだ。
出血の原因も、膿溜りの破裂に伴い、溜まっていた血と、行き場を無くした血液が外に流れ出ていた。とのこと。
私はこの一件が原因で、歯の神経を抜き、人口の歯を入れることになった。歯茎にする麻酔というのは強烈に痛い。
麻酔も結構強烈なのを打たれたらしく、治療が終わっても30分位は感覚がなたった。口の中の感覚がないのは、意外と怖いんだなと、知った。
舌の位置やらが分からなくなるので、噛んでしまっても痛みがなく、気付くと血が出ている。
しかし、何故だか、麻酔が効いている状態で食べた、レバニラは今まで食べたレバニラの中で一番おいしく感じた。
とまぁ、意味の分からない料理の感想はどうでもいいとして。彼女。月見里さんと親密になった物語を語っていたつもりが、気が付けば自身の虐めの体験談になってしまっているみたいで。
長々と、つまらない話をするのも、きっと苦痛だろう。
彼女と親友と言えるような仲になった理由。簡単に言ってしまえば、彼女だけは私を虐めなかったからだ。
最初こそ、彼女が私の虐めに巻き込まれないか心配でだったが、不思議なことに、彼女は虐められることなく、私と普通に学校生活を謳歌していた。
普通の学校生活とはいえ、最終的に私は6年間虐めに耐える羽目になるのだが、6年間の半分、3年間は彼女との楽しい時間が私を癒してくれていた。
それに、6年間も耐えることが出来た理由、彼女の存在もそうだが、何時しか道化を演じることや人間観察が趣味に近い感覚になっていたせいもある。
その結果、自分以外の他人の悪い癖や、自分を誰よりも下に見せることが得意になり、悪い意味で私と一緒にいると楽だ。と、よく聞く様になった。
そうそう、私を虐めいていたグループは、痛みにのた打ち回る私を蹴っているのを教員に見られていたらしく、虐めに参加してい生徒、その両親を呼び出しての話し合いが行われた。
私自身は、勿論、両親に虐めの事実を打ち明けていなかったので、母親にはとてつもないショックを与えてしまっていたことだろう。
話し合いの内容なんて私には興味のある内容ではない、実際に子供は殆ど話し合いには参加していない、大人が醜い言い争いをしていただけだ。
聞こえてくる言葉の中に、「虐められる方が悪い。」「反撃しないから、悪化するんだ。」と聞こえたが、正直なことを言えば、反撃は数回している。
けれど、虐めは目に見えて悪化したので、反撃はやめることにしたのだ。
暇で退屈な話し合いは、学校側が大事にしたくないらしく、虐めグループに親が、治療費の全額負担で話は収まった。
虐めがなくなり、それなりに周りの人間とも話すようになり、クラスメイトが教えてくれたことだが、虐めグループのリーダー格の子は、虐め発覚が原因で中学への推薦入試の話が白紙になり、親との仲も悪くなったらしい。
リーダー格の子は、表はとても優秀な子だったのだ、学年全体の成績も常に上位3位には入っていた。
まぁ、憎んではいなかったが、いい気味だとは思ったし、リーダー格の彼女を可哀そうな子だなとも思っていた。
グループの他の子は、それぞれの進路にあった高校に言ったらしく高校での虐めはなかった。
さてさて、虐めグループの顛末も分かったということで、今度こそ、彼女との物語を語っていこう。
変に強がりで、どこか性格が捻じ曲がった彼女との短かったが楽しかった、後悔に満ちた3年間の物語を・・・。