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夢か現実か

勇者というものはご都合主義だと思っていた。どんなに強い相手であろうと、最後はやはり勝つのだと。世に平和をもたらすのだと。


だが現実はそう甘くはなかった。


圧倒的不利な状況でいくらもがいたところで、光が降り注ぎ新たな技を閃くわけでなく、危険を察知した仲間が助けに来てくれるわけではなかった。


現に今。俺の目の前には、鼻息をブルルと鳴らしているナイスバディな牛人が一体いる。持っていた剣は粉々に砕かれ、鎧や兜も所々損傷していた。


牛人が大きく足を上げる。地面に這いつくばった状態の俺を踏み潰す気だろう。漫画やアニメの勇者なら「俺、死ぬのか……?そんなのは……嫌だぁぁぁ!!」などと言い、新たに覚醒する場面だ。だが、今の俺は違う。もうとっくに死を覚悟し、走馬灯という名のスライドショーで使う記憶の画像を選ぶのに忙しい。やはり、幼馴染のパンツを見てしまった記憶は是非走馬灯で流したい。家族旅行の思い出も捨てがたい。おねしょしてみんなに笑われた記憶は……いらないな。


などと考えていると、足を上げた状態のままの牛人が「ブォォォォン」と吠えた。そろそろいくぞ!!の合図だろうか?まてまて、ちょっと早いぞ。俺だってしぶとく十七年も生きたんだ、死ぬ前くらい一生を振り返ることくらい許してくれよ。


そんな俺の想いは届くはずもなく、牛人は容赦無く足を振り下ろす。

牛人の足の裏がどんどん近くなっていく。


「くそっ!!せめてもう一度だけあのパンツをぉぉぉぉ!!!!!!」



ドシーーン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「パンツをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!…………ハッ!?」


謎の叫びと共に目を覚ます。辺りは暗闇で、すごく窮屈な空間にいるようだ。


「あ………あれ?……確か俺、化け物に踏み潰されて……夢か?」


それにしては妙にリアルな夢だった気がするが。

心なしか、少し身体も痛い気がする。

ってかここ、やけに声が響くな…どこなんだ?正面や横を手で触ってみる。どうやら長方形の箱の中のようだ。とりあえず、正面を蹴ってみる。


ガコンッッ。


正面の壁がいきなり開いた。それと同時に眩しい光が目に入る。


「ーッ…………って、これ更衣室のロッカーじゃねぇか!!」


外に出てみると、横に同じロッカーがズラッと並んでいる。


「あぁ、そーだ……氷河達と隠れんぼしてて俺ここに隠れたんだっけか……」


氷河ってのは俺の中学からの友達だ。

子供の頃していた遊びの話になって、隠れんぼを始めたのである。


「ってか、今何時だよ……」


窓から見える景色はもう夕方で、時刻は十六時手前だった。


「バリバリ授業サボっちまったな……まぁ、体育だったからバレてないかもだけど」


とりあえず、カバンを取りに教室へ戻ることにした。鍵がかかっているかと思い、職員室へ寄って鍵を貰って教室へ向かったが、まだ誰か教室に残っているようだ。


ガラッとスライド式のドアを開け室内の様子を見てみると、窓際の列で一番後ろの俺の席で見知った少女がぼんやりと外を眺めていた。


「なにやってんだ?水希」


俺の声にピクンと肩を震わせてこちらを振り返る。長くてさらさらした金髪がなびき、思わず見惚れてしまった。バックに夕焼けというのがまたナイス。


「あー!やっときた!遅いよ悠斗〜」


よいしょっと机から下り、こちらに駆け寄ってくる。


「体育の授業と帰りのHRサボったでしょ?」


ちょっと怒ったように上目遣いで聞いてくる。

正直可愛いと思ってしまった……。


「休み時間に氷河達と隠れんぼしててロッカーに隠れてたらそのまま寝ちゃったみたいでな。いなかったのバレてたか?」


「もう、ドジなんだから。体育の先生にはバレてなかったし、山ちゃんには氷河君達が悠斗はトイレみたいですーって言ってくれてたから誤魔化せたけど、私は気づいてたんだから…」


出席確認しない先生でよかったねと呆れ気味に言われてしまう。


ちなみに山ちゃんというのはうちのクラス、2ーBの担任で本名は山村喜太郎と言う。


熱血で少々暑苦しいが生徒からの人気も高く、なかなか良い先生だ。


「んで?水希はなにしてたんだ?」


「待ってたの……その……一緒に帰ろうと思って……」


「そっか、んじゃ行こうぜ」


「うん!!」


その笑顔は反則だ……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校から出ると、外は薄暗くなっていた。水希と俺は家が隣同士なので通学路は一緒だ。校門を抜け、長い坂を下る。登校時に上がるこの坂はとても辛く、慣れないとすぐ筋肉痛になる。なので俺たちはいつも、遠回りだが坂を通らない道を歩いて登校する。


坂を下り終えてから踏切を渡り、大きな橋を通る。そこでふと、今日見た夢の話を水希に話してみた。


「隠れんぼしてたって言ったじゃん?」


「ふぇ?あ、うん」


なんかさっきからもぞもぞしてると思ったら…。水希の口にはポッキーが咥えられていた。歩きながら食うなよ…。


「んで、ロッカーに隠れてたわけなんだけふぉ!?」


口になんか突っ込まれた。あ、これポッキーだ。


「あげるっ」


「サンキュー」


お、結構美味いな。ホワイトチョコか。


「んでな……ボリボリ…そこで…ボリボリ…寝ちゃったって言っただろ?…ボリボリ…」


「ドジだよね……あ〜ハズレかぁ」


返す言葉もない…。そして水希、器用にチョコの部分だけ溶かしても、当たりもハズレも書いてないぞ…?


「そんでさ、そこで変な夢見たんだよね」


「エッチ…………」


「いや違うぞ!?決していかがわしい夢じゃない!」


「どうだろね〜悠斗は変態さんだからー…」


そのジド目やめてくれ。


「話戻すぞ…。んで、その夢ってのが、俺がなぜか鎧着て剣振り回しててさ」


「あ、私それ知ってる!中二病ってやつだよね!」


「決してそんな痛々しいもんじゃねぇよ…。気づいたら目の前にデカイモンスターがいてさ、それがもう夢と思えないくらいリアルなんだよ」


「そんなに大きかったの?」


お、食いついてきたな。それじゃあ、ちょっと洒落たボケでも。


「あぁ、デカかった。特に胸が」


ピクンと肩が震える。刹那、隣から殺気のようなものを感じ、恐る恐る水希を見てみると…。


「へぇ……お胸がね………ふぅん……」


目が、笑ってなかった……………。


水希の背後に禍々しいオーラのようなものが見えるのは俺の見間違いか……?

なんにせよ、このままではどうなるかわかったもんじゃない。俺はすかさずフォローを入れる。


「い、いや、水希のエコパイもなかなかいいと思うぞ!!」


どうだ、なかなかに良いフォローだったろう?と横を見ると、水希は小さな拳をグッと握りしめ、涙目でこう言った。


「悠斗の………バカァーーー!!」


それからおよそ20分弱、俺はひたすら謝り続けた。


















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