麻痺した機関銃
思い出した。
これは冬の訪れを告げる風が身を貫き、結局妹が居ない家に戻り、妹が居た頃と変わらない生活を繰り返すだけの日々に疑問を持ち始めていたころの話だ。
僕は学校帰り、日々の日課と化した散歩をしていた。
日の沈んだ六時。ただ宛てもなく歩いていた。
いや、宛てはある。あるには有るのだが、問題はどれほど時間をかけられるかだった。
行く宛てはひとつ、妹のところへ向かっているのだがまあ、シスコンと言われればそうである。
ただこうなると誰が見たって学生服を着て、帳が降りかけている町内を徘徊する反抗期の少年の図が出来上がるのだが、困ったことにそれ自体は間違ってはいない。
ちょうど二週間前の十月二十三日。
この夜に僕らは、いや、僕の小さなたった一人の妹は睡眠薬を沢山飲んで死んでいった。
報せを受けたのは僕が病院で目を覚ました十月二十五日。
やけにキラキラと光る陽射しの中で、警察と名乗る知らない人たちから淡々と告げられた。
「お気の毒です。」
質の悪い冗談だ。
形式だけの事情聴取を終え、またも淡々と進んでいく葬儀。
遂には妹は石の下に居る。
午後六時四〇分。
吸い込む空気が少し冷たかった。
片道二〇分の距離を四〇分かけて歩いた。これは記念すべき新記録だ。
大きく息を吸い込むと空に光る白光の星をも一緒に吸い込んでいる気分になる。
こんなにたくさんの星を吸い込んだら僕も輝くだろうか。
不意にポケットの中で暴れだした携帯はナミカワカナタの名前を点滅させていた。
一瞬迷った後、僕はポケットに携帯を押し込んだ。
午後七時丁度。
桶に残った水を墓石にひっくり返し、濡れた手をそのままポケットに突っ込んだ。
きっと赤くなっているであろう指先が、じんじんと鈍い痛みを発している。
そのまま家に向けて歩みを進めた僕の手を邪魔だと言わんばかりに携帯が振動を繰り返す。
不在着信二件
新着メール一件
怖かった。とても怖くなった。
携帯を持つ手が震えて、赤かったはずの指先は血の気が引いて真っ白に見えた。
恐怖が僕の指を支配して、メールボックスを選択する。
いま、どこ?
お話があるから早く帰ってくるんだよー
カナタ
この簡潔なメールの文章に僕は戦慄し、尋常ならぬ怒りを覚えた。
ありえないことだ。
こんなことは、ありえない。
―――――――――――――――――――――だって、僕の双子の妹、ナミカワカナタは二週間前に、すべてを諦めて死んでいったのだから。