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Short Story  作者: 神崎 紗穂
9/12

act.8 薫風

 あと何回、私はこの部屋で1人の食事を摂るのだろう? 

一日三食、八十歳まで生きるとして八万七千六百回。

そのうちの何回を、この部屋で摂ってきたのだろう? 


 遅めのブランチを食しながら私はふと思ったのだった。


なぜなら、私は三週間後に新居に引っ越し、そこで新たな共同生活、つまりパートナーとの結婚生活を始めることになっているからだ。


挙式は来月だが、二人とも派手なことはあまり好きではないので披露宴はなし、式は双方の家族による食事会、別の日にレストランを貸し切って、友人達と飲み会兼お披露目会という計画になっている。


昔は、披露宴に職場の上司を招待しなければ以後の昇進に影響する、などという話もあったようだが、私達二人の知ったことではない。


 ちなみに今日のブランチは、市販のピザトーストと市販の冷凍ハッシュドポテトをトースターで焼き、市販のカップスープに乾燥ワカメをいれたものと魚肉ソーセージ。

休日には違いないが、なんという食生活だろう。我ながら情けなくなってくる。


 唯一の贅沢品といえば、生まれて初めて購入したダージリンのファーストフラッシュ。

これは現在の、そして夫となる彼の影響だ。

 それにしても、一人暮らし十年一一。


 大学入学と同時に一人暮らしを始めた私は、とにかく食事にだけはこだわっていた。

学生で比較的に時間の余裕があったせいもあるが、一年目は昼食を学校の食堂で摂る以外全て家で、揚げ物を除いたほとんどが手作りという食卓を持っていたのだ。


二年目からは多少忙しくなったこともあり、コンビニのお惣菜を利用したり友人達との外食、ときどき飲み会などの回数が増えるようになった。

四年目には付き合いはじめた社会人の彼に誘われ、週に一度は彼のおごりによる外食という生活も送った。


 さすがに就職した五年目からは上京したこともあり、いわゆるデパ地下のお惣菜を利用するようになった。たまに自分へのご褒美としてスイーツを購入することもあった。

一人暮らし七年目の二十六の時は四年つきあった彼と別れ、ショックで一週間ほとんど食事を摂らなかったこともある。

その後現在の彼と出会い、交際を始めて二年半経った今年一月終わりにプロポーズされた。


 今後私がどんな食生活を送るのか知る由もないけれど、十年経って様々な食卓を振り返ったとき、楽しかったと思える日々を連ねていきたいと感じる。

 空腹を満たした私は、青い香りの紅茶を啜りはじめた。

外は柔らかい南風がそよぐ、五月の澄んだ空が広がっている。

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