act.7 汽笛
その朝。
私は夢を見る時間が終わることを確信した。
「サチ、似合うじゃない! 」
「マユもね。馬子にも衣装。」
「ひどーい。まったく相変わらずだなぁ、ホント。」
マユは山吹色の着物に深緑の袴、私は薄紅色の着物に紫の袴、二人とも足元はショートブーツ。
桜のつぼみが開花を待つこのときに、街で見かけた憧れの女学生風の姿を今年は私達が身にまとっている。
真由子。
彼女とは4年前、入学したときに出会った。私もマユも一人暮しで、偶然家も近かったためか、私達は幼なじみのように仲良くなった。
この4年間。私達はケンカをした。飲みに行った。悩みを相談した。
お互いの講義の報告書を見せ合った。試験前、一緒に勉強した。
サークルの仲間と共にスキーに行った。二人で京都にも行った。
しかし来月から、彼女と私は違う場所で、違う時間を刻み始める。
私達が歩み出す道は、交差しているのだ。
「じゃ、いこうか、サチ。」
「もう時間だね。」
一瞬感傷に浸り、私達は日本武道館に入場した。
終わる祭りを惜しむように周囲はざわめいている。
幾度もこの季節は巡ってきたけれど、今まで通ってきた雰囲気とは全く違う。
今日は卒業証書授与式。学び舎を巣立つ日。
夢が静かに醒めゆくように、まだ少しだけ冷たい春風が吹く。