act.3 3B
「智香、年賀状買ってきたぞ。」
「……そんなの書くヒマないよっ! あたし受験生だよ! 」
「まぁ、息抜きにどうだ? 」
「気が向いたらね。」
そう言って、私は自分の部屋に戻った。
お父さんにやつあたりしても仕方ないこと、分かっているのに。
「ああ、もう! ムカツク!! 」
スケッチブックを床に投げつける。
小学校の頃はよかったな。好きなものを好きなように描けて。
なにより、描くことが楽しくて仕方なかったのに。
私が腹を立てているのは、受験のストレスだけが原因ではない。
中学校生活も残り少なくなり、私が3年間で最も嫌いな教科となってしまった美術では卒業制作を作ることになった。
案の定、美術の先生は私の絵を批判する。
「ここを直したら? 」「もう少し描きこんでみたら? 」「ここは…」
入学してからずっと、描くたびに指摘されてきた。
そんな時はいつも心の中で反抗する。
将来、美術大学に入るわけでも、画家になるわけでもない、と。
やり場の無い怒りをどうすることもできず、私は雑誌を読み始めた。
雑誌は1月号になっていて、今年も残りわずかになってきたことを実感させる。
「年が明けたら受験かぁ…」
ちらりと床の上のスケッチブックに目をやる。
(私には関係ない、だって受験生だもん。
卒業制作だって描かなきゃいけないし、受験勉強だってやらなくちゃ。
今は雑誌読んでるけど、これはイキヌキだし…
…………
来年の干支って何? たしか…)
スケッチブックを拾い上げ、私は黙々と机に向かい始めた。
机の上には消しゴムのかすが増えていく。
一時間後、年賀状のデザインが仕上がった。
他人にどう言われようと、どう思われようとカンケーない。
私は絵を描くことが好き。自分が楽しいと思えればそれでいいんだ。
スケッチブックを見直して、「良い出来だなぁ」と自画自賛した。
部屋の電気を消し、ドアを閉め、階段を降りる。
食卓についたとき、私は言った。
「あのさ、…年賀状どこにある? 」
その言葉を聞いたお父さんは、嬉しそうに微笑んだ。