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Short Story  作者: 神崎 紗穂
12/12

act.11 或るワイン愛好家の特別な日

 足取り軽く家路を急ぐ。

本音を言えばスキップしたいところだが、いい大人がスーツにパンプス、しかも街中という場面では不釣り合いなので平常心を保つ。


 十一月第三木曜日。新酒解禁日。

今年はヨーロッパが猛暑だったおかげで少量生産らしいが品質は期待していいらしい。


 もともと酒好きな父の遺伝なのか私もそこそこ飲める方で結構強い。

そんな背景がある為、短大卒業後就職してからは毎年インターネットで予約注文し、解禁日翌日には自宅に届くようにしている。

いまや私にとって年中行事のひとつであり、初冬のイベントとして定着してしまった。


一時はソムリエを目指そうかと考えたこともあったけれど、飲食業での従事年数、ワインに関する知識など、当時の私には前途多難な課題が多かったのであきらめてしまっていた。

しかし、一般のワイン愛好家向けに「ワインエキスパート」という資格があることを知り、一年程前からスクールに通学、無謀にも今年受験に挑戦した。


ワインはお金がかかるということを実際に経験してしまった気がする。

もちろん、ブレンドワインもおいしいものはたくさんあるし、飲み比べだって多い方が楽しい。

 郵便ポストには再配達の通知票が入っていた。


 「ご苦労様でした。」

宅配便の配達さんを見送って、早速段ボール箱のテープをはがす。

割れ物ゆえ、更に一瓶ずつ段ボール箱に入り、やっと手に取った瓶は衝撃吸収用の包装に包まれている。これを開ければお目当てのワインと御対面できる。

一年間の勉強とワインエキスパート試験に合格した成果なのか、ラベルをじっくり読んでしまう。


 Appellation Beaujolais Controlee(原産地・ボージョレ)

 Mis En Bouteille A la Propriete(瓶詰め・生産者元詰)

 Produit de FRANCE(フランス産)


ソムリエナイフを用いて今年の新酒のコルク栓を抜く。

本日のマリア−ジュにはカマンベ−ルチ−ズを選んだ。

今夜のパートナーは別注文でやっと手に入れた、私の生まれ年の赤ワインだ。

特別な一本らしく値段は張ったけれど購入した価値は充分にある。

これは、四半世紀生きてきた自分への少し早い誕生日プレゼント。


 乾杯。

ヌーボーの入ったワイングラスをなで肩のボトルに当てた。澄んだ高い音が響く。


 この赤ワインが熟成するように、明日から再びワインに関する知識を増やしていこう。

年輪を重ねた、フルボディに相応しい深みある人間になれるように生きていきたい。

 色と香りを楽しみ、ボージョレ・ヌーボーを口に含んだ。

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