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Short Story  作者: 神崎 紗穂
11/12

act.10 響き

 シンクに散らばる破片。蛇口を閉め、流水を止める。

用意した小さなビニール袋に破片を拾い集める。

「あーあ……」


私は残念なため息を漏らした。気に入っていた大切なグラスを割ってしまったのだ。

今まで、とても丁寧に扱ってきたグラスだったのに。


 最近の私は仕事に追われ、毎日帰宅時間が遅かった。

この日は、いつもに比べると少しだけ早く帰宅できたので、シンクにたまった食器を忙しなく洗っていた。


 親許を離れ、毎日、料理を作ることも掃除することも洗濯することも、全てが楽しくて仕方なかった頃。

食器ひとつ買うだけでも嬉しくて、このグラスはそんな時に手に入れたものだった。


 のどを潤すのに適度な量。手にしっくりくる大きさ。

冷たい麦茶やアイスコーヒー、ビールなどを注いで、夏がくるたびに私はこのグラスを使っていた。

 さすがに冬となれば使う機会はほとんどなかったけれど、食器棚を見るたびに私は一人暮らしの充実感を得ていたのだ。


 全ての食器を洗い終わり、ビニール袋に入れられた不燃物に目をやる。

柔らかい皮膚を突き刺すように、鋭く尖ったガラスのナイフ。

なぜか今の私が、私の考え方や生き方がそこに現れた気がして、せつなくなった。


 明日は仕事を定時で切り上げて、新しいグラスを買いに行こう。

二代目のお気に入りになるグラスを探しに行こう。

心にゆとりを取り入れて、私の気持ちを明るく回復させるため。


 そして、新しい日常を始めるために。

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