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Short Story  作者: 神崎 紗穂
10/12

act.9 It's a fine day

 俺は道沿いのコンビニに入り、幕の内弁当とペットボトルの緑茶、眠気覚ましのためのガムを購入した。

どうやら店員は数年前の俺のような大学生アルバイト君だろう。


 駐車場の車に戻り、今購入した弁当を食す。トラブルの連続だったプロジェクトも ようやく一段落がつき、俺は二ヶ月振りの休日らしい休日を満喫することができる。

 梅雨も中休みらしく、空には夏の色が広がっている。


「海でも見に行くか……」

そう呟いてカーラジオのスイッチを入れた。ラジオのパーソナリティが高校野球の話を始めた時、俺は今年の正月の帰省中に偶然耳にした話を思い出した。

アイツの彼女だった野球部のマネージャーは昨年結婚し、来年には母親になる、ということ。

そして、今年はアイツの十三回忌だということを。


 あの頃、俺達は乾いたグランドで甲子園を夢見て白球を追っていた。


 やぶさかでないアイツは勉強も野球も人一倍頑張っていた。

放課後ゲームセンターに行こうとする俺は何度もアイツに捕まり、部室へと引きずられたものだ。

だいたいそんな真面目な人間が俺のようなサボり魔の親友だったと言うのだから世の中分からない。


 アイツが突然逝ってしまったのは、高校二年の秋だった。頭痛が激しいと零していた。

訃報を聞いた父母達は口々に「まだ若いのに」と言ったが、死因は脳卒中だった。


 ペットボトルを空け、ガムを噛む。

俺は先月やっとローンを払い終えた愛車のエンジンをかけた。

大学を卒業し、就職して六年。アイツより十年以上も長く生きている。

いつからか将来なんてモノは霞んでしまい、口に出すのも憚るようになった。

しかし、自問自答しつつ給料と言う名の報酬を手にして、生活していくことが俺の今在る姿なのだ。

きっとこれからも変わることなく。


 見上げた空には白くひとすじの雲が浮かんでいる。

飛行機雲が長く空に残っている時は天気が崩れるのだと教えてくれたのもアイツだった。

「晴れ間は数日の見通し、か……」

ひとりごちて苦笑し、俺は愛車を駆り始めた。

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