七月の脇役 その七
「困ったなぁ。彼女ならコンパクトだし、サポートロボットのパイロットとしても起用できると思ってたんだけど……」
「合体用ユニットの作成はまだ先ですから、他の候補を探した方がいいかもしれませんね。どうせ、あと3人は必要ですし……」
……勝手に人の将来をそんな物騒な職業に設定しないでほしい。てゆーか、合体って。
さては5人戦隊のみならず、巨大宇宙生物とも戦う気だな? サポートロボットとやらのパイロットが私を含めて4人必要。ということは、手足の部分だろうか? いやいや、完成予定ロボットはあのドラム缶ではなくてあくまで人型なのだからして……。
だめだ、プラモデルなんか作ったこともない私には構造なんて想像できない。でもきっと、自分は本体として頭から胴の部分に収まる気なんだろうなぁ。……なんだか不恰好なものができあがりそうだ。ドラム缶を手足に装備したかわいそうなロボットとか。(ぷっ)
この乗り物に酔いやすい体質のお蔭で、そんなかわいそうなものの一部にならずにすんだわけだ。あぁ、よかった。
「あのぅ、一つよろしいでしょうか」
私は左手でタオルを押さえたまま、右手を挙げた。人の話を聞こうとしないタイプを相手にする時は、こうするのが一番だと学んだので。……あぁ、そうさ。基本そんなやつらばっかり相手にしているから、慣れたのさ!
「なんですか?」
「お水ですか?」
「いえ、それはもう結構です」
考えてみればここに来てからお水しかもらっていない気がする。いいかげん固形物を口にしたくなってきたな。今、何時くらいだろう。
「ここって、秘密基地なんですよね?」
「ええ。理想的でしょう? まさか都内にこんなものがあるとは誰も思わないでしょう。発想の転換ですよ!」
HAHAHAと笑う九頭竜さん。だめだ、このひと。前しか見えてないんだ。今解決しなきゃいけない、もっと身近で大切なものが全く見えていないに違いない。
最初はツッコミ係なのかと思っていた矢切さんもなんだかズレてるし、放置しといたら永遠にボケ続けちゃう人達なんだろうなぁ。仕方ない。
「確かに、この目でアレが飛んでいくのを見るまでは、思いもよらなかったんですけど」
私はゆっくり身体をおこし、タオルを脇に置いてから、自慢げに笑っている九頭竜さんと、肯定するように頷く矢切さん、交互に視線を合わせて、言ってやった。
「でも、発進時の音もうるさいですし、あの赤い機体は目立つので、あと1~2回『発射』したらご近所中の噂になると思います!」
すると二人は、思いもよらなかった、とでも言うように顔を見合わせた。
あぁ、やっぱりそういうことまでは気にしてなかったんだな。「こうしたらみんなビックリするかな?」だけ考えて、後のことはな~んにも考えずに行動すると、あとで厄介なことになるものなんだよ? 私はそれを、今年のエイプリールフールできっちり学んだ。もう二の轍は踏むまい。
「すごく、ご近所に迷惑を掛けると思います。現に103号室の方はお家賃を突風に飛ばされてしまって、とってもお困りです。地球規模の平和も確かに大事ですけれど、もっと身近なところに目を向けてください」
そして、浅見さんのお家賃補償してください。(重要事項)
「……それは盲点だったね、矢切クン!」
「ええ、所長。我々研究員には思いもよらない切り口からのご意見でしたね!」
や、あなた達が非常識すぎるというか、ナナメすぎるというか。そんな感心しきったような目で見られても困るよ。
誰にでもわかることじゃぁないか。「一般常識」とか「ご近所の視線を気にする心」とかいうものが欠けてなければな!
「こういう、卑近な視点が我々には欠けているんだねぇ……」
「所長のお考えは常に高尚ですから」
……なんだろう、こういう言いかたされると、「俗物」って見下されているような気分になるんだけど。褒めてる? けなしてる?
「彼女は確かに、テストパイロットとしては役立たずだ。補助用ロボット『左足首くん』のパイロットとしての起用も絶望的だ。しかし、彼女には素晴らしい才能があるじゃないか!」
左足首くんの件はともかく、役立たずっていうのはちょっとムっとしていいところだと思うが、ここで噛み付いても曲解されそうだから黙っておこう。
正義の心に目覚めてなんとしてもパイロットに志願したくなったんだね、とか言われたら逃げ切れないもの。
「優しさだよ! 正義に携わる者として必要不可欠な資質! 地球に優しく、その前にご近所にも優しく! 我々は地域に愛されるヒーローを目指さなきゃいけないんだ。その為には、彼女のような視点がぜひとも必要だ」
だからね、と九頭竜さんは私の両肩に手を置いて、言った。
「あなたを名誉隊員にしてあげます。肩書きは……なにがいいかなぁ、矢切クン」
「民間アドバイザーが妥当ではないかと」
「よし、そうしよう! あなたは今日から『独立行政法人地球平和機構民間アドバイザー』です。共に正義のためにがんばりましょう!」
「……え」
こうして、これっぽっちもありがたくないことに、またしても、変な肩書きを付けられてしまった。……この世には私の意思をちゃんと尊重してくれる人っていないのだろうか。
後日、名刺と隊員証をお届けしますと言われ、私は力なく頷いた。
まぁ、たまーに来て、九頭竜さんと矢切さんに突っ込みを入れていれば月給3万くれるというので、楽なバイトだと思うことにしよう。そしてこのバイト代は、更に気の毒になった5人戦隊のお茶菓子代に回そう。そういえばこのバイト代って、どこから出るお金なんだろう。独立行政法人ということは、ええと。(もごもご)
ま、いいか。
「えーっと、それで、103のお家賃の方は……」
「それに関しては、1回目の飛行テストの映像を解析して、本当にその責任が当方に起因するものなのかどうか判断してからご返答いたします」
矢切さんがそつなく答えた。こういうところはデキる助手さんっぽいんだけどなぁ。まぁ、ダメでもともとの要求だし、あまり期待せずに待つことにしよう。あの全方向性カメラとやらの性能も怪しそうだし。(可哀想な浅見さん!)
「あ、それよりも、ほらほら!」
浅見さんにとっての一大事を「それよりも」と放り出し、九頭竜さんが、ぽん、と手を叩いた。
「傘! 見てください、綺麗になりましたから!」
そう言ってなぜか、ケースに収められた私の日傘をテーブルに置いた。「綺麗になった」という言葉がちょっと引っ掛かったが、見た目は確かに新品同様だ。折れていたと思われる骨もまっすぐになって、布部分もアイロンが当てられたようにピシッとしている。
「ありがとうございます。では、そろそろ地上に……」
「こちらが取り扱い説明書です」
矢切さんが文庫本サイズの冊子を私に手渡した。日傘の取説なんて……まさか、まさか!
「実はボク、改造は得意なんですけど修理は苦手だったんですよねぇ。あはは! それで、まぁ、せっかくだからがんばっちゃいました!」
よ、余計なことをおおおおお!
「最近は物騒ですからね。特にオーナーみたいなお嬢さんは心配なので。なぁに、礼には及びませんよ」
お礼どころかこの傘で一回頭を叩いてやりたい。
デモンストレーションしますか? とわくわくしながら言われ、私は今度こそお断り申しあげた。




