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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
9/180

7月の脇役そのに

 帰り道、なんとなく予想はしていたが敵の攻撃に出くわした。攻撃と言っても、ええと、精神攻撃? みたいな……。


 4人と一個(キャベツの単位が分からない)で、我が家の2ブロック手前まで歩いて来た時だ。いきなり電柱の影からこの暑いのに、黒いマントにすっぽり頭から足元まで身を包んだ若い男が飛び出し、行く手を遮った。


 勇者様とか5人戦隊に慣れ親しんでいる(うわ、イヤだぁ)とは言っても、直接の戦闘経験など皆無な私は、即座に女王親衛隊(綺羅綺羅しいネーミングだなぁ、宝塚みたい)の後ろに引っ込んだ。


 だってマントとか怪しいもの。絶対トラブルに決まっている。


 わー、生戦闘だ、わくわく、などと不謹慎に喜んでいると、男がマントの中でニヤリと笑った。そして……。

「きゃああああ!」

「変態っ」

 瀬名さんと由良さんが悲鳴を上げて目を覆う。そう、マントを脱ぎ捨てた男は、全裸であった。うわぁ、どうしよう。


 相手は裸体をチラつかせながらジリジリとこちらに迫ってくる。

 二人がパニックに陥ってしまったお陰で逆に頭が冷えたので落ち着いて観察してみると、男が被っていたのはフード付きのマントなどではなく、黒いカーテンのような、一枚布であった。


 あぁ、最近ファンタジー的展開に毒されすぎて勝手に脳内変換してたんだなぁ。なんだか負けた気がする。誰に、とか何に、って訳ではないけれど。


「これは……ダークフェアリーの気配きゅぴ! 変身きゅぴ!」

 鞄からキャベツが飛び出してきて、くるくる回転しながら叫ぶ。


 目の前には全裸の変質者がうれしそうに踊る。所謂カオスという状態である。


 おもちゃ会社の陰謀より夢の無い展開に、そろそろ眩暈を起こしそうになっていると、氷見さんが左手を高く突き上げ、叫んだ。

「スクランブル! フルーツバスケット!」

 緊急出動果物籠……?


 いやいやいや。フルーツバスケットって、あれだよね、数人で集まって、それぞれ「みかん」「ばなな」「りんご」とかのグループにわかれて椅子を取り合う遊びだよね? それ、変身呪文なの?


 キャベツが「るー、ちゃらちゃら、らっらっ」とかBGMらしき曲をアカペラで歌いだした。氷見さんの左手のブレスレットがオレンジ色に光る。

 おー、魔女っ娘の変身だ。まぶしくて見えないけど。さてどんな衣装になるんだろう。


「女王親衛隊、一の騎士! フェアリーオレンジ!」

「……えー」

 思わず不満の声を漏らした私を誰も責められまい。


 だって、せっかくBGM付き(アカペラだけど)で、ブレスレットから派手に光を撒き散らしたくせに、セーラー服(学校指定)のままなんだもん……。


「な、なんでそんな不満そうなのっ?」

「変身するのかと思ったから……」

「したよ、変身!」

 スカートと、襟の色がオレンジになっただけじゃん。ぶーぶー。


 それはともかく、氷見さんの光に、パニックから立ち直ったあとの二人も「スクランブル!」とやりだした。

「女王親衛隊、二の騎士! フェアリーストロベリー!」

「女王親衛隊、三の騎士! フェアリーピーチ!」

 瀬名さんが苺で、カラーは赤。由良さんが桃で、ピンク。

 共に学校指定のセーラーの色違いになっただけだった。うぅ、私の子供心を返して……。


 そして3人は全裸で楽しそうに踊っているだけの変質者に、己が鞄を振り回し、殴る蹴るの暴行を加えたのであった……。


 あんな、よく見れば骨と皮だけのような肋骨が浮き出た細い身体にそんな事をしては、運が悪ければ死んでしまう。

 そうでなくとも過剰防衛だ、やりすぎだ。と、止めようとしたが

「こうやってダークフェアリーを身体から追い出さないといけないらしいの」

と由良さんが困ったように答えた。変質者の頭をぐりぐり踏みながら。

 

 あれー、由良さんって家庭的で優しい子って聞いたんだけど、あれー?


 やがて気を失った男から黒い霧のようなものが浮き上がり、キャベツがおもむろに掲げた筒状のものに吸い込まれていった。こうなると、取り付かれていた犠牲者はやがて正気をとりもどし、また、今のように常軌を逸した行動をとっていた記憶も消えてなくなるのだそうだ。


 あぁ、よかった、少なくとも傷害罪で訴えられずに済みそうだ。当人も、そんな記憶は無くした方が幸せに決まっている。道端で女子高生相手に全裸で踊りを披露してたなんて、覚えてたらトラウマものだ。


「あ、でも、この人の服……」

「その黒い布かけとくしかないよ。大丈夫、そこの家の影なら見えなそうだし」

にこっと笑って、氷見さんが何でもないことのように言った。やばい、この子達、もう感覚がマヒしてきてるんだ。どうしよう、はやくなんとかしないと。


 結局、可哀そうな被害者は黒い布で巻かれて家と家の隙間に押し込まれた。

 全裸で踊った記憶が消えても、これが新たなトラウマになるのではないかと思う。なんて恐ろしいんだ、悪い妖精めっ!


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