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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
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六月の脇役 その十五

 翌朝。私は大きな悩みの種を抱えつつ登校した。


 あぁ、こんなことなら昨夜のうちに、3人で反省会でもしておくのだった。

 でもさぁ、あんな時間におうちに男の子を入れたなんて母が知ったら、絶対ショックで大変なことになると思うんだよね。今回は不可抗力だったわけだけど。


 それにほら、一人暮らしの私と光山君はともかく、竜胆君はいいかげん帰らないといけない時間だったし。

 もしかすると道場のお稽古とか、サボった形になってるんじゃないだろうか。帰ったらおじい様に叱られたかもしれない。でもきっと、言い訳もせず謝ったんだろうなぁ。可哀想に。

 まぁ、私の抱えている悩みのもとは、彼のことじゃないんですけどね!(薄情者でごめん)


 まず一つ目は、例のアレを回収しそこねたことだ。つまり、聖遺物として保管されている諸々、特に……下着。


 ああああ、もおおおお、せめて一言、穂積さんに言ってくるべきだった。お願いだから、奪い返して燃やしてって。

 かと言ってあまり強引な手段に出てまた戦争勃発なんてことになったら困るから、そこはうまくやってほしいなぁ。今更無理だけど。


 あんなしんみりしたお別れのあと、またひょこっと顔を出して「悪いけど下着回収しといて」なんて言えるほど空気読めない子じゃないですよ、私は。いや、でも、あああああああ。(ゴロゴロ)


 しかも、そんな乙女の大問題を上回る二つ目の要因があるのだ。


「おはよう、盛沢さん。あら、かわいい指輪」

 隣に座った目白さんが、目ざとくそれに気付いた。そう、私の右手の薬指には、あの魔法の指輪が嵌ったままなのだ。……抜けないんです、これ。あはは、どうしよ。


 おそらくピンクゴールドと思われるリングに埋め込まれた小さいカボションのルビー。左右にメレダイヤがちょこん、と光る。いや、かわいいけど。けっこう好みだけど。


 せめてもの慰めはこれが右手だということだが……。

 私はそーっと、二列前の左に座る光山君の右手に視線を投げた。その薬指にはやはり、色違いのペアリングが嵌っている。もちろんこれは変な意味ではなくて、魔法の貸し借りをするための道具なので対になっているだけなんだけどね?


 だがしかし! これが対になっていると気付いた人に、なんて説明すればいい? 光山君から魔法の力を借りるための道具なの、なんて言えるか?

 そもそも、もう必要なくなったはずなのになんで付けっぱなしなんですか光山君!


「これはその、外れなくなっちゃって」

 こまったなぁ、借り物なのに、むくんじゃったのかなぁ、とその場は笑って切り抜けた。そして次の休憩時間に絆創膏を買って、くるりとはりつけた。


 放課後。

「あの、これ、抜けないんですけど」

 一緒に下校するのが当たり前みたいなこの状況を疑問に思いつつも、まずは苦情を申し立てた。

 むくんだせいだなんてありえない。だって、第二関節まではスルスル動くんだもん。そのくせ、その先へ引っ張ろうとした途端吸い付いたように抵抗するのだ。これは絶対おかしい。ぜ~~ったいに、おかしい!


「あぁ、それね。呪いが掛かってるから」

 光山君はにこっと笑って答えた。

 ……い、今しれっと爆弾発言しやがりましたよこの人! わざとか! 確信犯か!


「の、呪いっ? のろいって、え、何?」

「大丈夫、本当に必要なくなったら外れるから安心して」

 安心できにゃああああああああああああ! 私は思わずぶんぶんと手首を振った。

「お守りだと思って付けとくといいよ。昨日みたいなことがあったらオレ達にすぐわかるようにしてあるから」

 呪いの掛かったお守りなんて聞いたことないよ、はずしてええええええ!


「昨日みたいなことなんてさすがに年に一回あるかないかですよっ」

「年に一回もあれば十分だよ」

 光山君は久々にあの、できの悪い生徒を見る先生のような目でため息をついた。


「これは竜胆君の提案でもあるんだよ。二人で話し合った結果、君は思っていた以上に危ない事に巻き込まれてるってわかったから」

 一体二人で何を話し合ったのかっ! いや、それよりもさっきちょっと引っ掛かる単語がなかったか?


「……『オレ達』?」

「オレだけじゃフェアじゃないからね。竜胆君も」

 じゃぁなにか、私達は今、3人でおそろいの指輪してるってか。

「あ、竜胆君は指輪は困るっていうから、ペンダントだよ。さすがにオレも、彼とペアリングっていうのはぞっとしない」

 ……うん、まぁ、それはそれで面白そうな構図だと思うけどな!


「ぷ、プライバシーは……」

「24時間見張るようなものじゃないよ。本当の緊急時だけ、居場所を知らせてくれるんだ。もちろん、異世界でも、ね」

 この先フォレンディアや穂積さんの所以外に飛ばされないとも限らないでしょ、と言われ、私は想像してみた。


 例えば戦国時代に飛ばされて、合戦のど真ん中に放り出されたら。

 例えば妖怪大戦争が起こって、タヌキの妖怪と間違われて標的にされたら。

 例えば漫画の中に入り込んで(だってクローバーさんだって来ちゃったじゃないか!)、頭に銃をつきつけられたら。

 ……いかん、死んでしまう。


「緊急ブザーだと思っておきます」

「うん」

 なんだか言いくるめられたような気がしないでもないけど、やっぱり命は大事にしなきゃね! 命あっての物種だよね!


 翌日、既に学校中にペアリングであることがばれていたので、私は潔く絆創膏をはがした。

 ……もう、どうにでもなるがいい。


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