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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
70/180

六月の脇役 その一

 えーっと。


 現在私は、「王宮」にいます。そして机をはさんで反対側のソファに座っている竜胆君にぺこぺこ謝っています。どうしてこうなった。


「あの、ええと、ごめんなさい」

 一概に私だけが悪いとは思えないんだけど、竜胆君が無言、無表情のまま、もう10分も動かないものでプレッシャーに負けました。完敗だよ。怖いよ。ただでさえ彼は威圧感があるのに。


 事の起こりは(体感では)数時間前。現場は我が家のリビング。

 ケセラン様によって勝手に秘密基地にされてしまったお蔭で、ほんっとーに用もないのに戦隊が我が物顔で出入りするようになってしまった、「我が家のリビング」である。

 だから、彼が巻き込まれたのは我が家にあがりこんでたせいなのだ。私が招待したんじゃないから、やっぱり私のせいじゃないよね、ね?


「いや……。盛沢が悪いわけじゃない」

 うん、そうなんだけど。あなたが黙りこくってるからこっちは気を遣ってですねぇ! なんだよ、無駄に謝っちゃったじゃないか!

「それでここは……どこなんだ?」

「えーっと、国の名前は知らないんだけど……」

 かつての名前も、今の名前も知らないんだけど。

「穂積さんの、国」


 本日、108号室に住人さんが入った。倉石 雛さんという女性だ。

 この方は、このマンションを建築中、デザイナーさんが言った言葉を思わず反芻してしまうような人だった。

「デザイナーズマンションというのは、個性的な方の需要が大きいんです。特にメゾネット、変形部屋となると、正直使用面積はかなり損なんです。それでもそういう部屋を選ぶ、という方はかなりのこだわり派でしょう」

 ……ほんとだなぁ。


 今までの住人さん達は、お話してみると若干変わっていると感じたものの、見た目は普通だった。スーツだったり、ラフな格好だったりだけど、街を歩いても特に注目は集めなそうな服装だった、というか。


 しかしこの倉石さんはやたらと目立つ。

 ジーンズにタートルネックのノースリーブ、その上に黒い布をぐるっと巻いている。多分、原型はサリーなんだと思う。あれだ、インドの方の民族衣装。

 詳しくないのでよくわからないが、布地にはおそらく手書きで、金色の魔方陣らしきものが所狭しと書き込まれている。う、うぅん。今にも何かが発動しちゃいそうだなぁ……。


 まぁ、ご職業を考えればそのスタイルもアリかな、とは思う。

 彼女はなんと、売れっ子の占い師さんなのだそうだ。いろんな雑誌に関わっているとか。確かに、雑誌に載っている占い師さんは、こんな恰好してる人が多いような気がする。普段着だったのか。


 占いというと、私は携帯に毎日配信される星座占いをチラっと見て、「そうか、今日は悪い事が起こったとしたら星の巡りのせいにできるなぁ」という使い方をしている程度だけど、全く興味がないわけではない。だって夢見がちな女の子だもん。


 でも、いきなり「あなた、素質があるわ。弟子にならない?」なんて勧誘されたら引くのはしょーがないよね。

 一体何の素質があるってんだ。霊感的なものか? 昨年あたりから生霊に追っかけられたりして、とうとう芽生えちゃったのか、私! 困るよ!

「今は学業と、この建物の管理で手一杯なので」とお断りして、とっとと部屋に引き返した。


 あぁ、貫井さんに会いたいような気がしてきた。こんな事相談できるのは彼女しかいない。向原君が吸血鬼の生活になじむまで当面付きっ切りになるみたいな事言ってたけど、一度連絡してみようかしら……。

 なーんて考えながら(そんなことしたら足元見られて干からびるまで血を吸われてしまうから、考えるだけにしておく)階段を上がり、リビングのガラス扉を開けると、私が部屋を出るまではいなかった人達がいた。


 水橋さんと、竜胆君。ここまでは不本意ながら理解できたんだけど(どうせこれから会議という名のお茶会だと呼び出されたのだろうて)、もう一人、いますよね? 見知らぬ子が。

 金髪の、いかにも日本人じゃないんだぜ的な整った顔立ちの男の子が。不機嫌そうな表情で、竜胆君を睨んでますよね? なにごと?


 竜胆君が睨み返したりせずに、むしろ困惑の表情を浮かべているだけマシな状況だけど。(あー、でも慣れないうちは、竜胆君って目つきが厳しいから、睨まれてるように感じるかもなぁ)

「えーっと、こ、こんにちは? その子は……?」

「あ、お邪魔してます。わかんないの、盛沢さんのお部屋からでてきたから、てっきり知り合いの子かと……。言葉も通じないし」


 私の部屋から出てきたなんて聞き捨てならない事聞いちゃったよ? どゆこと?

 こんな若いのに空き巣? いや、倉石さんをお迎えするまで私は家から一歩も出ていないし、お迎え中だって中庭でお話してたんだからこの子が忍び込めるはずなんてなかったはず。


 となると可能性は二つ。

1、私が中庭に出る前から既に家の中に潜伏していた。

2、外壁からよじ登ってきた。

 あるいは……いやいやいや、考えたくない、想定外だと言いたい。


 でもなぁ。彼のちょっと変わった服装、なんだか見覚えがあるんだよなぁ。そして彼が抱きしめている本は、穂積さんのとこから光山君がお土産に持ってきてくれた絵本じゃぁない?


「巫女姫!」

 彼は本を取り落とし、私に駆け寄ってきた。あ、その本、綺麗だから結構大事にしてるのに! (コレクション的な意味で)


 私を巫女姫と呼ぶってことは、やっぱりあの世界から来たんだなぁ。きっと、あの本が目印になったんだろう。あの世界では黒髪と同じくありえない(とされている)金髪。そしてこの子の目の色は、よく見れば黒じゃないか。ということは。

「穂積さん……、マリさんの、息子さん?」

「そうだ。もう一人の巫女姫。あなたを、迎えに来た」


 そう言って微笑んで私の手を握る彼の、まぁかわいいこと。神宮司さんとこのクソガキと、なんとゆー差だろう。(言葉遣いは尊大だけど、お父上がアレだから仕方ない)

 かわいいんだけど、困った。保護者―! 回収してー!


「盛沢さん、さっきから何語でしゃべってるの?」

 おっといけない、水橋さんと竜胆君がいるんだった。ここはなんとか舌先三寸で丸め込んで、この二人に帰ってもらわねば。会議なんて中山君のおうちでやればいいんだ。

 その後に、この子を送り返す算段をつけよう。手っ取り早いのは光山君にお願いする事かな。


「え、えーと、えーっと、ほ、ホヅミノクニ語というか、そんな感じの……」

 とっさの事とはいえ、そのまんまの命名だった! いや、私さぁ、ネーミングセンス0なんだよ……。よかった、この場に根岸さんや福島君がいなくて。あの二人がいたらぜったい突っ込まれたよ。フゥ、あぶない。


 水橋さんは素直に「へえー、初めて聞いた。盛沢さん、すごーい」なんて感心している。あぁ、水橋さんって(疑う事を知らなくて)ほんといいこだなぁ。だいすき。


 竜胆君は、と見ると、彼はなにやら思案していた。うわ、めっずらしい。(失礼)でも、眉間にシワ寄せすぎないほうがいいよ、ただでさえ厳しめな顔つきしてるんだから。新渡戸君みたいになっちゃうよ?


「おい! 先ほどから何を企んでいる!」

 そんな竜胆君の姿が、この子には「企んでいる」ように見えたらしい。いろんな意味で一番企みに向いてなさそうな人捕まえて、なんちゅーことを。

 彼は私の手をぎゅーっと握ったまま、竜胆君の前にずかずかと進み出た。いたいいたい、多分剣で鍛えてるキミの力はちょっと強すぎるってば!


「丁度よい。そなたも共に来るがいい。民の前で、どちらが巫女姫に相応しいか正々堂々勝負しようではないか!」

 あ、あー、そのセリフ! 去年まで私が竜胆君を遠くから眺めながら妄想してたセリフだ。(前半はだいぶ違うけど。道場をめぐってライバルと勝負してほしかったんだけど)

 と、まぁ、それは今どうでもいいよね、ごめん。


 竜胆君は、なにを言われているのかはわからなかったものの、どうやら雰囲気で「敵視されている」と感じたらしい。「何を言っているんだ?」という視線をこちらに向けてきた。

 いや、私が聞きたいよ。一体なんで竜胆君に敵対しようというのか。なんで勝負せねばならんのか。


「姫、安心なさい。あなたを月の騎士から解放するために、私は来たのだ」

 ほわっと?

「さぁ、行こう。こうしている間にも、現世うつしよの時は流れている」


 いやいや、私にとっての現世はここですよ? と拒否する間もなく、彼は、自身と私と竜胆君の足元に、何かを発動させた。ひー、家の中でのファンタジー禁止!


 あぁれぇ、ごむたいなー、なんて冗談を言っている場合ではない。み、水橋さん!

「こうやまくんに……!」

 水橋さんが驚きのあまり口をあんぐりとあけている姿が、ゆがんで、そして…………。


 気が付くと、またいつぞやのように、例の遺跡の上に三人折り重なって倒れていたのだった。


*絵本の詳しい内容について知りたい方は、「脇役の分際 ぷらす。」の「ある日のアフタヌーンティー」をどうぞ

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