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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
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五月の脇役 その四

 やっとこさ鞭から開放された私は、道の真ん中でお行儀悪く伸びをした。あー、身体中が痛い。

 地面にこすれて傷になった腕をさすっていると、魔女っ娘達がちやほやと世話を焼いてくれた。たぶん、すっかり忘れてた罪悪感で。


「あー、あははー。ご、ごーめんごめん、盛沢ちゃん」

「怪我してない?」

「髪に砂がついちゃってる。取ってあげるからまってて」

「う、うん、だいじょーぶ……」


 まぁ、彼女達だって身動き取れなかったんだし、解放されてからは怒り心頭に発していたんだろうから、仕方ないよね、うん。キュピルとアルルンにはもとから期待さえしてなかったし。

 前から思ってたんだけど、この自称妖精達って薄情だよね。第一目的以外、基本どーでもいー、みたいな。キュピルとのファーストコンタクトでも、咳き込む私そっちのけで女王様がどうのと騒いでたし。


 それはともかく、こんな巨大なアスパラが出現したというのになんで騒ぎが起きないんだろう。野次馬が集まってしかるべきじゃない? 目立つのに。ものすごーく目立つのに。……魔女っ娘モノ補正で一般人は気が付かないとか?

 いや、でも、万が一ってこともあるじゃないか。篠崎さんの例もあるし。


「さぁ、女王様をお迎えに行くあるるん」

「女王様はこちらきゅぴー」

「すとっぷ!」

 12月の悪夢を思い出した私は、キュピルが能天気にアルルンを我が家に案内すべく飛び立とうとしたのを、すんでのところでとっ捕まえた。

 あ、あぶなぁ。「何するきゅぴー」なんてもがいてるけど、絶対放さないぞ!


「もうちょっと、こう、目立たないように、控えめに行かないと。えーと、ほら、ダークフェアリーが後をつけてきたりしたら大変じゃない?」

 アルルンを何とかしろ、というのを精一杯オブラートに包んで表現してみたんだけど、わかってもらえるだろうか。ってゆーかわかってくれ、ここは察してくれ!


 私の誠心誠意をこめた説得(キュピルの頭を、若干瑞々しい音がするほど握り締めつつ頑張った)に、しぶしぶながら精一杯小さくなったアルルンは、それでも氷見さんよりちょっと背が高いくらい。

「これ以上は無理あるるん」と主張してたけど、多分それは「これ以上は(バードック将軍より短くなるから)無理」の意味だと思う。奥の深い葛藤があるんだろうなぁ、お野菜には。


 まぁこのくらいの長さなら、通行人とすれ違った場合は「ちょっと変わった棒です。用途は秘密」みたいな感じで誤魔化せなくはない。物干し竿とか、カーテンレールとか、そんなものに見えてくれますように。


 我が家へ向かう道すがら、アルルンは先代の戦いについて(聞いてもいないのに)色々教えてくれた。


 もともと妖精の国は唯一の女王(何年かに一回種の状態で休眠し、生まれ変わるらしい)の下、ライトフェアリーもダークフェアリーも仲よく暮らしていたのだが、35年前、ダークフェアリーが離反し、自分達の「女王」を立てて戦いを挑んできた。

 その舞台として、何故か日本が選ばれてしまったらしく、お互いに現地で「騎士」を選び、戦っていたらしい。(つまり代理戦争やらせたってこと?)


 先代は魔法の力がとっても強くて、ある意味私が理想とする「魔女っ娘」らしい戦いを繰り広げたようだ。次々に現れるダークナイトを打ち倒し、しまいにはバードック将軍を真っ二つに叩き折って見事勝利した。(い、痛そう)


 ダークフェアリーは敗北を認め、両者は和解したはずだった。

 しかし、一部のダークフェアリー達は仮初の女王「メイ」を擁したまま、未だに草の根的な抵抗運動を続けているという……。


 ってゆーか。

「ダークフェアリーの女王様って、ジャガイモ?」

「なんでわかったあるるん?」

「や、だって……」

 名前を聞いたらメイクイーンが浮かぶじゃないか。


「先代は戦いが終わった後、最後のダークナイトと恋におちて、引退したあるるん」

「敵方の騎士と恋に……」

 ある意味禁断の関係っぽくて萌えるシチュエーションではある。あ、やばい、ちょっとうらやましい。きゅんきゅんする。どうしよう!


「いいなぁ、敵同士なのに惹かれあう恋かぁ」

 氷見さんがぽつりと言った。

 サバサバしていて、どっちかっていうとボーイッシュで、恋愛なんか興味ありません、という風に見えるけど、やっぱり女の子だねぇ。


 うんうん、と頷いていた私はしかし、ぽっと頬を染めてうっとりと彼女が続けた言葉にわが耳を疑った。

「そういえば、あの眼鏡みたいなのかけた人、カッコよかったね」


 ええええええええええええええええええええええええええええええ! (ワンブレス)


 あんな目に遭わされておいて、そしてあんな目に遭わせておいて、そんな、アナタ!

「えー、りょーちゃん趣味わるぅい。やっぱり白い人が一番かっこよかったよ!」

「私はあの、ちょっとぼんやりしてそうな人が気になったけど。母性本能くすぐるタイプじゃない?」

「え、え、え?」


 きゃいきゃいとはしゃぐ魔女っ娘達を前に、私はふと、悟った。

 あぁ、きっと彼女達の目は主人公補正で曇っているんだ、そうに違いない。だって中川君なんてほぼ高校生時代と変わっていなかったのにそれでもわからないなんて、ありえないから。


 魔女っ娘達は我が家に着くまで、「お気に入り談義」に花を咲かせていた。

 それを横目に妖精達が「先代の箱の……」「副作用が……」なんて、珍しく声を潜めて話し合っていたのは聞かなかったことにしようと思う。唯一つ、叫びたい。


 よかった、あの泡に巻きこまれなくて!


 そんなこんなで(もう色々どうでもいい)やっとこさ女王様の収穫までこぎつけた。

 魔女っ娘達がアルルンの指導のもと、なけなしの魔力を振り絞ったり、キュピルのあの変な歌が、実は女王を目覚めさせる効果のある大事な歌だったことが発覚したりはしたものの、引っ張った割には、こう、地味っていうか期待はずれっていうか。

 だって女王様、赤ちゃんなんだもの。しかも握りこぶしサイズ。ちっちゃ!


 私としてはやっぱり、「よくぞいままでわたくしを守ってくれましたね」なんて微笑みながら、威厳と愛らしさを共存させた女王様が、魔女っ娘達にお礼をおっしゃるシーンなんてものを見たかったわけですよ。


 でも赤ちゃんなので「ふぎゃー」と泣いているばかり。頭の部分が牡丹の花で、葉っぱでできたベビー服を着ている。うん、まぁ、ギリギリ許容範囲。かわいいっちゃかわいい。頭と身体のバランス悪いけど。


 なんだかなぁ。女王様誕生で一件落着だと信じていたのに、新たなる敵も出てきたし、このまま第二シーズンが始まっちゃうんだろうなぁ。だから言ったのに! コスチューム変えとけって。

あぁ、でもダークナイトも学ランだったし、基本的にそういうものなのだろうか。


 魔女っ娘達は、「魔法の特訓きゅぴー」とやけに張り切るキュピルに乗せられて、妖精界へと旅立っていった。……フォレンディアと交流があるらしいし、だいじょぶだよね、帰って来る頃には100年近くの歳月が経っていました、なんてことにはならないよねぇ?


 ついでに私にも「一緒に来るあるるん?」とお声がかかったが、「このあと大事な用があるから」と丁重におことわりした。や、嘘じゃないんだ。明日、明後日と、連続してお引越しがあるから、管理人としては、ねぇ?


 どうせ両親は旅行中だし、一人で家にいてもすることないし。というわけで、私は疲れた身体を叱咤して、マンションへ帰ることにした。

 

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