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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
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五月の脇役 その二

「ながっ!」

 思わず声に出してしまった私の、……ええと、驚きと言おうか、それともやっぱり突っ込みと言おうか……とにかく、私のセリフに、影の持ち主は満足げに「フフン」と笑いを漏らした。


 いや、だって、長いよ。長い……ゴボウ? ゴボウが、宙に浮いて、しゃべっている。


 宙に浮く野菜って言ったら、アレですよね? よーせーさん(棒読み)ですよ、ね? 登場時のセリフから言って、ダークフェアリーさんだったりしますね?

 後ろに引き連れている男性三人は、まさか親衛隊のダークフェアリー版?


「久々だな、ライトフェアリーの騎士と合間見えるのは……」

 ゴボウは私のショックなど気にもせずに、「女王親衛隊」に向かって笑った。ゴボウなのに笑った! ゴボウなのになんかニヒルだ。しゅげぇ!

 面識あるの? と魔女っ娘達にアイコンタクトで聞いてみると、三人ともふるふる、と横に首を振った。そうか、初対面か。


 そんな中、キュピルだけは目を大きく見開いて、震えながら叫んだ。

「ま、まさか……バードック将軍きゅぴ! 生きていたきゅぴ?」

「ふはははは! この『ヴァ』ードック、貴様らライトフェアリーどもに復讐するため、地獄から舞い戻って来たのだ!」


 バードック将軍(なんとなく呼び捨てしにくい威厳を感じる。ゴボウなのに)は、お名前の発音にこだわりがあるらしい。若干巻き舌気味で強調した。

 でも、ゴボウなんだから「バードック」で合ってるよね? もしかして名前がそのまんま過ぎて、コンプレックスだったりする?


「35年前、あのにっくきアルルンの騎士に破れた恨み、晴らさせてもらうぞ!」

 35年て、だいぶ前だよ。私達生まれてないよ。ってことは、その「アルルン」さんとやらが選んだ別の魔女っ娘に対する恨みをキュピル達にぶつけようとしているわけか。

 なるほど、江戸の敵を長崎で討つってヤツですね、わかります。


「フフフ、紹介しよう。我が部下、新しきダークナイト達を!」

 いや、いいから。いらんから。さっきから私も魔女っ娘達も、ついていけてないから。

 将軍がさっと手(よく見たら枝分かれしてた)を上げると、ダークナイト達(色々な感情を通り越して微笑)がササっと気障ったらしいポーズをとった。


 う、うわぁ、私あんなポーズ、誰にも見られてなくても無理。恥ずかしい。恥ずか死しそう。


 あんな決めポーズを初回からすんなりとれるだけでも、ダークナイト達の恐ろしさがわかろうってものだ。だめだ、魔女っ娘達に勝ち目はなさそうだ。そもそもコスチュームですでに負けてるもの。

 彼らの衣装は、どっかの国の近衛兵みたいなんだもん。肩章付いてるし。

 うわぁ、総付きのエポーレットだ、カッコイイ!


「壱の騎士、エシャロット」

「弐の騎士、ラディッシュ」

「参の騎士、ターメリック」

 それぞれ白、赤紫、黄色の衣装で……よく見たらベースの形は学ランだ。

 いや、でも、肩章が付いてるだけでなんだかカッコイイ。そっかぁ、学ランってもともと軍服っぽいもんなぁ。


 エシャロット卿(っていう呼び方、ちょっとかっこよくない? 騎士っぽくて)は一番背が高くて、気だるげな色気を漂わせる美形だ。

 色気のある美形って言ったら光山君や福島君もそうなんだけど、この人にはもっと不道徳なものを感じる。過去に数回くらい刺されていそうな? 女性関係で修羅場を経験した事がありそうな。

 なんていうか、有閑マダムに受けそう。そして各家庭を崩壊に導きそう……。


 ラディッシュ卿は、ええと、良くも悪くもフツーな感じ? あくまでもふつー。

 なのに、人に「ねぇねぇ、オレって何系?」とか聞いちゃって、「…………うーん、かわいい系?」と相手が答えるまでの30秒くらいの葛藤には気付かず、じゃぁおれ可愛いんだ、とか勘違いを募らせていそう。

 でも、エシャロット卿とセットで見る限り、あの不健康な色気を洗い流してくれるような、一種の浄化装置みたいな役割を果たしている。


 そしてターメリック卿。

 ウコンという、ある意味一番健康的な名前を戴きながら、彼の顔色は青白く、不健康だ。

 神経質そうな手つきで左側に掛けたモノクルを落ち着きなくいじっている。おそらく彫りの浅い日本人ゆえにうまく嵌らないのであろう。無理しなきゃいいのに。ふつーに眼鏡かければいいのに。だいたい、目が悪いなら前髪はもうちょっと短くして視界をクリアにすべきじゃないか?


 ……アレ?


「行け! ライトフェアリーに与する愚かな娘たちに、引導を渡してやれ!」

 将軍の手が、まっすぐ私を指差した。って、ええええええ、私まで?

「言われるまでもないですよ、将軍」

 ターメリック卿は何故かものすごく怒りに満ちた表情で、魔女っ娘達を、そして私を睨みつけた。ワタシ、アナタニナニモシテナイヨ?


「三次元女子の分際で魔女っ娘なんて、俺は認めない!」

 ……んん~?

「やれやれ、仕方ない。マサトの病気は根深いよな」

「ケンジぃ、やっぱやめねぇ? おれ、このカッコウ恥ずい……」

 んんんんん~?


 なんだろう、なんとなく私、わかっちゃったような気がする。この人達。

 つまり、この三人は……。


「くらえっ! ダークストーッムッ!」

 ターメリック卿、もとい中川君(推定)が叫んだ。

 その途端、空気が引っ張られるような感覚がし、次の瞬間渦巻く勢いで風がふいた。

「くっ、あ、キュピルぅっ!」

 風圧に耐え切れず吹き飛ばされたキュピルを助けようと、瀬名さんが手を伸ばした、が、間に合わない。

 キュピルはいつかのように、私の鳩尾にめり込んだ。


「……っごほっ」

 今回はギャラリーに男の子も混じっているので、私は必死で声を殺して呻いた。

 く、くそぅ、なんで私ばっかりこんなメに!


 キュピルの激突でバランスを崩した私は、すってーんと無様に転がって、後ろの壁に叩きつけられる。あいたたた。頭打った。あと、たぶんぱんつ見えた。(でもきっとフレーム外)

 うわぁぁん、ほんと、なんで私ばっかりこんなメにぃ!


「じゃぁ、俺も。ダークアロー」

 エシャロット卿、たぶん松澤君(自信ないけど。かっこよすぎて自信ないけど、声は彼だ)が面白がって不穏な呪文を発して掌を魔女っ娘達に向けると、そこから黒い矢のようなものが飛び出した。

「きゃあっ」

「あぶないっ、あっきー!」

 避け損ねた由良さんを氷見さんが突き飛ばし、事なきを得た。しかし、その矢はそのまま一直線に飛んで……。


 どすっ!


 私が寄りかかっている壁、耳のすぐ横に刺さった。

 ひぃぃ、危ないってば! いちいち「ダーク」ってつけりゃいいと思ってるんだろう、なんて突っ込んだりしないから、お願い、巻き込まないでぇ!

 なんで、なんでわたしばっかり(以下略)!


「んーと、ダークウィップ?」

 将軍に頭を小突かれて、ラディッシュ卿、残るは菊池君(あまりに没個性的で、消去法でしか特定できない)が自信なさげに呟くと、どこかから黒い鞭(っていうか、蔓じゃない?)のようなものが現れて、魔女っ娘達と私に巻きついた。ぐええ、くるちい。


 魔女っ娘達は、手足を縛られ吊るされて(正義のヒロインのサービスシーンっぽい格好)いるのに、私だけ蓑虫巻きで地面に転がされた。しかもお腹のあたりから白目を剥いたキュピルが顔を出すというおまけつき。私は有袋類か!

 なにこれ、なんてイジメ?


「くっくっくっく……くぁーっはっはっは! 他愛ないものだな、ライトフェアリーの騎士達よ! まったく、この程度とはな」

 うちの魔女っ娘達はなぁ、肉弾戦派なんだよ! くぅぅ、殴り合いならきっと負けないのにぃ!


 もー、なんであの人達はああなんだろう。「わるいうちうじん」の次は「わるいよーせーさん」の手下になるなんて。余程心に闇を抱えているとしか思えない。カウンセリングへ行け!


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