6月の脇役そのいち
6月。相変わらずこの月も憂鬱だ。空気がじめっとして鬱陶しいから。
巷では生徒会の選挙とやらで騒がしく色々やっているようで、昼休みの放送も完全に選挙演説一色。
たかが高校の生徒会で何でそこまで熱が入るの?
しかも、今の生徒会長が絶対的なカリスマみたいに君臨してるから、後継者は無駄に比較されて大変そうだ。なのに、なんでそんな苦労を自ら背負い込みたいんだ? マゾ?
そういえば生徒会長は、これでお役御免になるんだなぁ。会長って呼べなくなったらどうしよう。名前で呼ぶとか、そんな無駄に親しくなりたくないなぁ。いいや、このまま会長で。それとも宰相様とでも呼んでやろうか、もしくは次期王様? (くすくす)って、そんな呼びかたしてるの他人に聞かれたらむしろ私が痛い人じゃないか。却下。
相変わらず彼はどうでも良いことでしょっちゅう呼び出される日々のようで、私にバレたのを幸いに図書室の書庫を便利に利用している。
お姫様方の我侭はエスカレートする一方で、こちらの菓子やら服やら本やらを御所望するだけでなく、最近はこっちに留学したいとまで言い出したそうだ。どうやらこちらに物を持ってくる事はできるので、人を連れてくることも理論的には可能だそうだ。
しかし、留学って。住む所とか戸籍とか生活費とか学費とかその他諸々を全て、こちらでは一学生に過ぎない会長に丸投げですって。すごいなぁ、お姫様。
さすがに会長も無理だと断り続けているみたいだけど、実現したら面白い事になりそうだ。「謎の転校生美人3姉妹(肩書き多い)と生徒会長が一つ屋根の下で同居するらぶこめ」みたいな。
会長は必死で隠そうとするのに、空気の読めないお姫様たちがどんどん余計なことを暴露。そのたびに振り回される彼の姿とか、うわぁ、ちょー見たい。でもそこに巻き込まれたくは無いなぁ……。
それはともかくいい加減3人のお姫様たちの写真とってきてくれないかな、どれに婿入りすべきか品定めできないから。
長女がオットリで次女がシッカリで三女がチャッカリ、しか情報がないよ。名前は上からレミア、ルビア、リリアと、適当につけたんじゃないかという疑惑を生じかねない姉妹だが、王族の名前はラ行発音でつけるのが慣例だそうな。うん、どうでもいいこと聞いた。
あれ、あっちって、あいうえお表対応なの? 言語どうなってんの? 自動翻訳どころか日本語しゃべってたりする? あぁもう気になる。
いやいや、そんなことを気にしてちゃダメだ。むしろそろそろ彼からフェードアウトすることを考えるべきだ。だっていろんな人の誤解を招くから。特に4月からやたら構ってくるあの3人。
悪い人たちじゃないんだけど、なんか、うん。多分あの3人も何か大きなトラブルのネタを持ってる気がする。だからこそ私に関わろうとするんだ。
やたらと観察される事にそろそろ腹が立ってきたので、私も負けじと観察しかえす事にした。するとあからさまに怪しいのなんの。
休み時間に鞄の中に向かって何か話しかけたり、いきなり大慌てで鞄抱えて教室から飛び出して行ったり……。
あぁ、うん、わかった。ありゃぁ、なんかいるね、あの中に。人語を解する、人ではない何かが絶対居る。そういうイキモノは既に一匹知ってるので、これ以上増えないでいいんだけどな。
せめて可愛くて性格が穏やかな何かだといいなぁ。(は、増える事と関わる事を無意識に受け入れてる感想だった)
一方、可愛くなくて性格も穏やかでない人外にとり憑かれている5人戦隊はなんとか軌道に乗ったようで、何を基準にしているのかはよくわからないが「わるいうちうじん」達と戦って捕獲しているらしい。
ケセラン様はいわゆる宇宙警察(失笑)みたいな役割で、こっちの辺境の惑星を守って下さっているそうだが、どうせお前中央でとんでもないミスしでかして飛ばされたんだろうと言ってやりたい。
みんなの命を人質にして強制労働させているケセラン様のほうがずっと実害のある「わるいうちうじん」だと思うんだ。
気の毒に、5人は中間テスト直前にも呼び出され、勉強もろくにできない有様だとかで、私のノートを半泣きでコピーしていた。幸いな事にヤマが当たっていたので、うち3人はなんとか追試を逃れた。
流石にテスト中は「これを受けられなければ死ぬ!」とケセラン様に迫り、免除してもらったらしい。あのケセラン様が折れるなんて、よほど鬼気迫っていたんだろうなぁ。
追試に引っかかってしまったのはレッド(中山君)とブラック(竜胆君)である。中山君はさもありなんと思ったが、竜胆君はまたもや意外であった。
や、ブルー(福島君)が試験通ったのもビックリ(失礼)だったけど。彼はもしかすると本当に、努力してる所とか真面目に頑張ってる姿を人に見られるのをよしとしないタイプなのかもしれない。だとしたら相当な恥ずかしがりやさんだなぁ。
逆に竜胆君はいかにも真面目そうなので、なんだかお勉強もそれなりなんだろうと勝手に思っていた。おうちが剣道道場で、そっちの稽古のほうに力を入れているそうだ。
なるほど、道場の跡継ぎ息子ですね、わかります。ほんとにミスキャストな気がするな!
彼には是非とも、剣道場の跡継ぎをめぐる決闘とかで雄雄しく戦ってほしかった。「どちらが正当な跡継ぎか、いざ尋常に勝負!」とか時代錯誤な事言い出すライバルとか出てきたら面白いのになぁ、なーんて妄想していたら
「盛沢さん、福島君知らない?」と、声をかけられた。
選挙管理委員の葉月さん。いいなぁ、この上から下までストイックそうな体型。理想的だ。とか声に出したら睨まれそうだから言わない。
でも背が小さいのにEカップあると、無駄にポッチャリに見えるしほんとに肩が凝るんだよ。マラソンすると千切れそうになるんだよ。
「福島君? 知らないよ」
何で私に聞くのか。5人戦隊と最近交流があるのもバレてるのか?この学校の情報網はどうなっているんだ。
「彼も選挙管理委員会なんだけど、なかなか会議にもきてくれなくて困ってるんだ。見つけたら、会議室に絶対来てって伝えてね」
見つけたらね。
たぶん彼は今青い特殊スーツに身を包み、お空の向こうっていうか、大気圏外(これなら地上に影響は出まい)で戦ってると思うけど。
終わったらそのままおうちに帰ると思うけど、万が一見つけたら伝えるよ……。とはみなまで言わずに「うん、分かった。大変だねぇ」とねぎらっておいた。
正義の味方は大変だ。地球の平和は守っているのに自分の立場や社会的信頼度は守れないんだ。
そういえばああいうヒーローもので普通の会社員とか見たこと無いなぁ。探偵とか自営業とかフリーターとかは見たことがあるけど。や、私が知らないだけで、あるのかもしれないけどね?
ところで、私が葉月さんのストイックな体型(とくに胸)に惹かれたのは、やはりちょっとした理由がある。あの忌々しい事件……。
それは中間テストの追試期間もおわって、みんながほっと一息ついた頃に起こった。