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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
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再び春休みの脇役

 3月、私は忙しかった。とってもとっても忙しかった。

 大学生になる準備と引越しの準備、ここまではまぁ、多少差はあれど誰にでも共通する忙しさだと思う。家具を揃え、家電を揃え、電話にネット、水道電気の契約。(オール電化なのでガスは省略ね)


 けれども、異世界の宰相様の婚約者(偽、ですよ! 仮、ですらないからね!)とか、地球を守るヒーローたちの助手(彼らを学力低下から守る大事なお仕事)とか、妖精界の女王様を巡る小競り合いの見学(戦い、なんていう崇高なものじゃないと思うんだよね)とか、吸血鬼のオヤツ(小腹が空くとやってくる)な~んてものを兼任している人間は、そうは居まいよ。あと、容疑は晴れたけど妖怪(しかもたぬき)として退治されかけたりな!


 忘れてはいけないのが、異世界に巫女姫として召喚されたまま行方不明になった穂積さんのお手紙だ。いやぁ、大変だった。

 穂積さんに頼まれたとおり「シューズボックスに入ってたんです」と言ってご家族に届けたんだけど、「元気でしたか?」「いまどこにいるんですか?」と質問攻めにされて……。知らんっちゅーの。あ、いや、知ってるんだけど言えないというか、言ったら正気を疑われるに違いなくてね。


 異世界で帝国をつくって女王様してます。やたらと尊大で美形な旦那様と、将来が楽しみで仕方のないお子さんに囲まれて生き生きしてます、なんてさぁ。


 あぁ、ざっと思い返しただけでも眩暈がする。おかしいなぁ、一昨年までは、確かに色々あったけど、どれも「誰にでも起こりうるトラブル」の範囲内だったのになぁ。

 なんでいきなりファンタジーに巻き込まれちゃったんだろう。


 忙しかったのはファンタジー関連だけではない。

こっちはちょっと自業自得というか、うん。エイプリールフールに気合入れて嘘ついたら大変な目にあいました。てへ。みたいな?

 でもそのゴタゴタのお蔭で卒業式に大変な誤解をさせて傷つけてしまった竜胆君との関係も修復することができたので、結果オーライ……ではないね。大変だったもん。うっかり実家にいるときにやらかしちゃったものだから、面倒な連中が押しかけてきたりしてね……。ハハハ。


 篠崎さんから「永遠のライバル(好敵手と書くらしい)」宣言されたり、手越さんから「潜入捜査の一環で偽装結婚をする際の心得」なんかを説かれてみたり。ほんと、面倒な連中と関わってしまったばっかりにいらん気苦労が増えたよね。


 正直、こう、竜胆君に対する後ろめたさよりも、あとに起こった騒ぎの収集に費やされたエネルギーのほうが大きかった。光山君もなんだかんだ言ってまーだ根に持ってるっぽいしさぁ。ち、面倒な男だ。別に恋人でもないのに。あんな可愛くて無邪気な嘘くらい笑って流そうよ。


 光山君といえば、大方の予想通り最高学府の医学部に合格したらしい。意外性は全く無かったんだけど、発表当日にチェーンメール状態で情報が回ってくるとか、どういうこと? 注目されすぎるのも大変だなぁ、って思わず同情しちゃったよ。他人事じゃないのに。


 5人戦隊は付属の大学に進学したし、魔女っ娘たちはやっぱり付属の短大に進んだ。よしよし、ここまでは予定通り。(別な大学に行ってそのままフェードアウトするぞ計画)


 貫井さんは……あのひと、神出鬼没だから、気が付くと人のベッドの上でくつろいでるんだけどね。そして一通り向原君とのノロケを聞かされて血まで吸われるという。

あれ、このままだともしかして彼女からは一生逃げられない? え、どうしよう。彼女、本に書いてあるような吸血鬼の弱点なんかも全く関係ないみたいなんですけど。


 まぁ、なんにせよ学校が離れたくらいで縁が切れるなんて楽観できないのは薄々分かってるんだけどね? だって、光山君は当然都内だし、付属の大学も短大も、キャンパスの一部はやっぱり都内にある。加えて、どうせ魔法とか宇宙の超技術なんてものを使う連中なので、地図上の距離なんてきっと関係ないと思うんだ。

 大事なのは心の距離。(私としてはこれも遠いつもりなんだけどなぁ……)


 私の引越し先は、実家から電車で1時間弱。都内のターミナル駅から徒歩10分の距離にある。ここから大学までは、徒歩の時間も含めて片道40分になる。

 せっかく引っ越すんだから大学の最寄り駅にしとけばいいのに、と魔女っ娘たちから突っ込まれたけど、まぁ、落ち着きたまえ。これには訳があるのですよ。


 実はこのマンション、我が家の持ち物なんだ。しかも新築。

 私は大学生の傍ら、マンションの管理人という肩書きを背負う事になったのですよ。


 マンションは打ちっぱなしコンクリートの3階建てで、コの字型をしている。エントランスはエキスパンドメタルの門になっていて、オートロック式のガラス戸がついている。

 3階部分がオーナールーム兼管理室。1、2階にメゾネット6部屋と、1Kを2部屋用意してある。いわゆるデザイナーズマンションなのでちょっと家賃が割高なのと、完成したのが今年の2月だったので、まだ住人さんは二人しかいない。


 これが建ちあがるまでにも、ちょっと信じられないような事件(?)がいくつか起こったわけで……。まぁ、それでもなんとか完成までこぎつけたのだから今は良い思い出だ。何か起こるたびに「私の体質のせい?」とドキドキしていたのも、良い思い出。(自己暗示自己暗示)


 私の管理人としての初のお仕事は仲介業者さんが連れてくるお客様の案内だった。

 サービス精神旺盛(若干不本意ながら)の私にこの仕事は合っているらしくて、一週間もすればすっかり慣れて、近くのコンビニ、駅までの抜け道などの案内やらもちゃんとできるようになった。さすが私、やればできる子! (ふふん!)


 その甲斐あって決まった最初の住人さんは103号室、浅見 幸恵さんである。私と同学年で、4月から大学生になる女の子だ。学校は違うみたいだけど。

 なんというか、ちょっとドジっこ属性なのかもしれない。とにかく挙動不審で、壁のあちこちにガンガンぶつかっては「ごめんなさい、ごめんなさい!」と繰り返していた。そんなに狭い造りじゃないんだけどなぁ……。一緒にいらしたご両親は慣れたもので、「あらあらこの子ったら」「ははは、もっとしっかりしなきゃダメだぞぉ」なんて暢気に笑っていたけれど、そういうレベルじゃないと思う。

 だって、ぶつかりまくったあげくに断熱用のボードが張ってある部分に穴を開けてしまったくらいだから。結局その弁償も含め、入居が決まったのだが……。若干不安だ。

 そんな経緯で、彼女は1Kタイプのお部屋に入ったのであった。


 二人目の住人さんも、多分大学生だろうと思うのだが実はよくわからない。

 お部屋を案内している間中お母様の言葉に控えめに微笑んで頷くだけ。借主はお母様だし、なんとなく「息子さんは何をなさってるんですか?」とか聞きにくい親子というか。独特な空気が漂っていて、入り込みにくかったというか。

 えーっと、もしかしてマザコンさんですかね……?

 彼は、ちょっと変形しているけれど一番広いメゾネットのお部屋、101号室の住人になった。名前を神宮司 拓馬さんという。あぁ、惜しいなぁ、見た目も結構良いのにマザコンはなぁ……。って、別に関係ないんだけどね。他の住人さんやご近所の皆様とトラブルを起こさず、お家賃をきちんと入れてくだされば構わないんだけどね?


 とにかく、こんな感じで私の貴重な春休みは消費されてゆき、とうとう明日は入学式である。春休みから早速いろいろあったおかげで既に疲れ気味なんですけど。


 もはや「何にも巻き込まれず平穏無事に過ごしたい」なんて高望みはいたしません。どうか、どうか、「常識の範囲内のトラブル」が起こりますように!


 無駄な足掻きとはいえ(既に諦め気味)願わずには居られない、4月某日の夜のこと。


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