表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
57/180

3月の脇役そのろく

 それから、私はやっとおちついて穂積さんとお話をした。

 傭兵さんと逃げた先で、国どころか帝国まで作っちゃった事とか、実は穂積さんより前に召喚されて「太陽王」と呼ばれていた旦那様との出会いと一目惚れの話とか、色々。


 こちらには、卒業式に出席する気分を味わいたくてコッソリ戻ってきたらしい。ご家族に会うつもりはないそうだ。確かに、大人になっちゃったもんねぇ。ビックリされるし、信じてもらえなかったら悲しいよね。


 というわけで、手紙を預かってしまった。シューズボックスに入っていたことにしておいてと頼まれたので、その通りにしようと思う。素敵な旦那様と可愛くて利発そうなお子様がいて幸せにやっているのだなぁ。安心したよ。……あの子、半年後には21歳か。


 葉月弟君の手紙は、やはり捨てずに持って帰ることにした。これのお蔭で穂積さんと会えたわけだしね。まぁ、内容はともかく!


 家に帰りついた頃には結構なお時間で、穂積さんの16年にわたる壮大な冒険のお話の余韻に浸る間もなく、着替えて、夕食をとって、お風呂に入って、気が付いたらベッドの上でグッタリしていた。


 あーぁ、卒業したんだなぁ。もうあの制服を着ることもないし、あの教室で授業を受けることも無いんだなぁ、とぼんやり考えながら、卒業記念にと両親からプレゼントされたブレスレットを眺める。華奢な作りのプラチナのチェーン。一点ものだ。私の好みのデザインで嬉しい。

 試しに左手にはめてみようとして、あの時の事を思い出した。


 そういえば竜胆君がやたら大事そうに撫でたよなぁ。


 思い出して一気に顔が赤くなった。ひぃぃぃ、こそばゆい、ほろあまい!

 思わず枕に顔を押し付けてバタバタしてしまった。


 そういえば私、今日は人生始まって以来のモテ日だったよ。ほんとどうしちゃったの。とうとう脇役卒業して恋愛モノ主人公にでもなっちゃったの? まさかの三角関係? ……んきゃー!(ごろごろごろ)

 いやいやしかし。なんというか、ちょっと苦いものもよぎるというか? だってだって! (ごろごろごろごろ)


 5人戦隊が無事に帰ってきたあと、私は竜胆君と二人、空き教室に残された。

 もちろん全員に見守られながらというのも気恥ずかしいが、「わかってるから」みたいな優しい目でこっち見たあと出て行かれるのも同じくらい恥ずかしいよ! そもそも、何故突然こんなことになったんだろう。

 そりゃぁ竜胆君に限って、罰ゲームとかドッキリとかの悪質なオチは用意されていないだろうけど。うぅむ、わからん。


 まぁ、告白されると100%決まっている訳ではないのだから、心を落ち着けるんだ。深呼吸して~、すって~、はいて~。(どきどき)

 落ち着いているようでいっぱいいっぱいの私の耳に、小さな呟きが聞こえた。え、なになに、聞こえなかった。ごめん、もう一度。すきだ? つきあってください? 勝負だ?


「幸せに、するから」

 竜胆君の口からポツリと出た言葉に、私は目が点になった。え、なにそのプロポーズみたいなお言葉。まだお付き合いもしてないのに。

 しかし彼は、私の動揺を全く無視したまま、今までの無口さが嘘だったかのように、立て板に水の如くまくし立てた。


「絶対に幸せにする。苦労は……させるかもしれないが、できる限りさせない。お前は何もしなくて良い。炊事も洗濯も掃除も買い物も全部俺がやる。盛沢が嫌がるような事はなにもしない。ただ嫁に来てくれるだけでいい! お前はただ、傍にいてくれるだけで良いんだ!」

 ……何だそれ?


「確かに道場の経営は順調とはいえないし、親父の本屋も道楽みたいなものだ。今まで通りの暮らしはさせてやれないと思う。それでも、俺が精一杯働くから。もちろん、盛沢に働けなんて言わないし、誰にも言わせない。だから、だから……!」

 り、竜胆君ー!


 どうしちゃったの、一体何があなたをそんなに追い詰めたの。なんで段階すっ飛ばして結婚なの。

 もしかして道場を継ぐ者は高校卒業までに結婚しなくてはいけないという決まりでもあるの? そうなの? あと、私にどんな夢見てるの? 風に当てたら倒れるとか思ってる?


「家にはテーブルや椅子を好きに置いていい。畳の生活は慣れないと辛いと聞くから……。すまない、早速苦労を掛けて」

 ちょ、ちょっと、おち、おちつけ! なんで既にオーケーしたような話になってるんだ!

「あ、あの、竜胆君!」

 なんで彼がこんな状態になってしまったのかはわからない。いや、多分何かに追い詰められたせいだとは思うんだけど。なんとかしないと! ちょっと怖いよ。


 私は竜胆君を落ち着かせるべく、彼の両手をとり握り締めた。はっ、と息を呑む音が聞こえた。

 よし、とりあえずおかしなこと言ってるって気が付いてくれたね? そしていつものようにじっと目を合わせて、言った。


「私、(まだ)竜胆君と結婚なんてできない」

 そうだよ、まだ高校卒業したてだよ? これからお互い大学に行くんだし、結婚なんて気が早すぎるよ。大学でもっといい子が見つかるかもしれないんだしさ。

「だから、あの、ごめんね?」

 その時の竜胆君の顔。

 まるで2軒先のアンドレ(シベリアンハスキー、♂、3歳)が、大好きなボールを取り上げられた時とそっくりだった。……あぁ、罪悪感。


 彼は「そうか……そうだな。いや、忘れてくれ」などと言いつつフラフラと教室から出て行った。なんか、ごめん。そんなに結婚したかったとは。でも私、いきなりそこまでは踏み切れないんだ……。


 と、いうやり取りがあったわけですよ。まぁ、私もあの時緊張と驚きでパニックに陥っていたので、多少返事の仕方がまずかったとは思う。彼はたぶん、「今すぐ結婚するのを断られた」のではなくて「振られた」、と思ったのだろう。


 違うんだよ、まぁ、すぐにお付き合いとかは考えられないけどもうちょっと保留にさせてほしかったんだよ。でも、今更こっちから電話なりメールなりで言う事じゃないしなぁ……。

 あぁ、なんだか悪い事をしたような、でも期待させて保留にした挙句にやっぱりゴメン、よりは良いような? うぅ~。


 とにかくほろ甘いような苦いような心持ちでベッドの上に突っ伏していると、いきなり背中にのしっと重みを感じた。そのまま耳にふぅっと息を吹き込まれて思わず悲鳴が上がりそうになった。あぶなっ!

「何てことするの、貫井さん!」

 こんな事するのは彼女だけなので、振り向きもせず名指しで抗議だ!


「んっふっふ~。くぅちゃん、卒業記念に一口ちょーだい?」

 ほら、貫井さんだった。不法侵入だ! いくら吸血鬼でもやって良い事と悪い事が……ないのかな? あれ、そういえば吸血鬼って夜な夜な部屋に忍び込んで血を吸う魔物だ。良いんだ?


「私も卒業したんだから、記念品はもらうほうの立場じゃない?」

「あぁら、そんなこと言っていいの?」

 貫井さんはさすが魔物らしく、ニタリと嗤う。

「今朝の騒動で、だいぶ憑かれたみたいよぅ? ……一緒に、吸い取ってア・ゲ・ル」

 そう脅された私は、素直に彼女に首を差し出すしかなかったのである。


 確か彼女、このあと向原君とカケオチするんだよなぁ。向原君、手紙くらいはご両親に残してくれるといいんだけど。


 わりとたっぷり血を吸って満足したらしい貫井さんは、しばらく私の部屋に居座っていた。せっかくだからちょっと相談に乗ってもらおうと、人名は伏せて今日の事を話した。(貫井さんと向原君、あと葉月さんは、お別れ会にいなかったからな)


「それって、光山君と竜胆君でしょー? あ~あ、残念。そんな楽しいことがあったなら出席すればよかったぁ」

 即バレた。

 もしかして私ったら、気が付かないのは本人だけ、のラブコメものの王道をかましてきたのだろうか。

 いや、だってさ、まさかわが身にそんなことが降りかかるとは思ってなくてね。そんな贅沢な話がまさか、まさか……! (くそぅ、惜しい事をした!)


「いいこと教えてあげる。くぅちゃん」

 気だるく天井を見上げて寝そべってる私の上に、貫井さんが覆いかぶさってきた。女の子同士でもこういう体勢はちょっと心臓に悪いのでやめてください。


「王子様なんて、いないの。だからみんな、少しずつ妥協して恋人をつくるのよ。でも……」

 おぉぅ、未だかつて無いほど真面目な顔で乙女の夢を叩き潰したよ、この人。

「それが最上の喜びだなんて誰が決めたの? 一人でだって、幸せになれるわ」

 自分は向原君みつけたくせにぃ! となじると、貫井さんはまたニタリとわらった。


「あたしは、ながーい間一人だったの。その末に本物を見つけたの。人間みたいに、瞬きのような短い時間で嫌いになったり、しないのよ。あぁ、そうだ」

 彼女は、すごくいいこと思いついた、という顔をした。あ、嫌な予感がする。た、たすけてぇ。(じたばた)

「くぅちゃんも、ヴァンパイアにしてあげよっか? そしたらいつか、真実の愛がみつかるかもよ?」

 どんだけ気長に探せってのさ。いつか王子様が、と夢見て何が悪いのさぁ! かっこよくて、優しくて、強くて、賢くて、経済力があって、性格が良くて、私だけに一途な人を求めて何が悪い!


 ……いや、さすがにそれが想像上の生き物というか、ユニコーンとかペガサス並みにレアそうなのはわかるけど。でも吸血鬼も妖怪も宇宙人も妖精も漫画の中の人もいたんだから、いつかは会えるかもしれないよね? ……長生きすれば。吸血鬼並みに。


「んふふ、その気になったらいつでも呼んでねぇ」

 じゃぁ、サトルが待ってるから~と、メアドを残して彼女は消えた。霧のように。私はその霧に向かって、「考えとく」と呟いた。

 霧が、嗤うように歪んで、とけた。


 そういえば穂積さんのご両親に手紙を届けなくてはいけない。きっと驚いて、私に色々聞こうとするだろうなぁ。うっかり余計な事言わないように気をつけなきゃなぁ。

 気だるさに身を任せたまま、私は、目を閉じた。明日からも、がんばらないと……。


 ともあれ、一年間お疲れ様、私。おやすみ、なさ、い……。

 ぐぅ。

                    And that’s all ...?


これにて高校3年生編終了です。


あとがきらしきもの、及び続編については活動報告にて。


*完結したものの続編があるので、連載中のままにしておきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ