表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
56/180

3月の脇役そのご

「え、え、ほ、穂積さんって、あの穂積さん、ですか?」

「えぇ、穂積 万理よ」

 マジで!


「えっと、だいぶ変わりましたね?」

 変わりすぎだよ。

 まぁ、あの日図書館で彼女こそが光山君の相手じゃないかと思ったとき、きっと眼鏡とって髪ほどいてちょっと綺麗な服着せたら大変身するんだろうなとは予想したけどさ。

 見た目も綺麗になったんだけど、何より雰囲気がガラリと変わっている。オドオドしたところが無くなって、カリスマ的なオーラまで感じる。


 そういえば光山君の話では、彼女はあれから国を作っていたはずだ。ってことは女王様か。なんで今更ここにいるんだ?

 あれ、しかも良く見たら旦那様(ですよね、隣の人)は、金髪に目も金色で彫りの深い顔立ちの美丈夫さんではないですか。


 うわぁい、やったね巫女様! お子さんは旦那様に似て将来の楽しみな美少年ですなぁ。(わくわく)


「だって、私にとっては16年経つのよ。……盛沢さんは変わらないわね」

「光山君から少し聞いてます。国を作ったんですって?色々あったんでしょうね」

 国よりハーレムを作ったかどうかの方が気になってるんだけど旦那様とお子様の前では聞けない。残念だ。


「そうね、色々あったわ。あの時は盛沢さんにも迷惑掛けたわね。お別れも言えなかったから気になってたの」

「私達は大丈夫でした。すぐに光山君が連れて逃げてくれたし。お互い……」

「お待ちなさい、そこの狸っ!」

 なんかでてきた。


 ちょっとちょっと、感動の再会劇をぶち壊すようなこと言うのは誰ですか? わかってるけどね? 私を狸なんて呼ぶのは一人しかいないからね?

「篠崎さんと、お付きの二人……」

 今日も今日とてご苦労な事だ。


 村山君は篠崎さんと野島さんの荷物まで持たされている。彼女のお気に入りのあのポーズを決めるには、手ぶらじゃないとキツイもんね。

 野島さんも、なんか大きな箱を持たされている。篠崎さんったら、いらないオカルトグッズ最後まで持ち帰らなかったんだね。


 しかし村山君、あなたの正体は鬼でしょう? なんで女子高生の荷物持ちに甘んじてるの。一回こう、ガツンと言ってやれ! あんまり舐めた事言ってると頭からバリバリ喰っちまうぞって言ってやれ!


「ふん、クラスのみんなは騙しとおせても、私はそうはいかないわよ! さっきの光山君はそこの狐が化けたニセモノだったのね! 誤魔化しても無駄よっ」

 篠崎さんは例のポーズでびしぃ! っと穂積さんを指した。

 ちょっとちょっと女王様になんて失礼な事を! あ、ほら、隣の旦那様がムっとしてるよ?


 しかし、私が狸なのに穂積さんは狐か。いいなぁ。狸って、狸の妖怪って……。アレと一緒にされ続けるのはやだよぉ。(そう言えば新しく赴任なさった養護の先生は美人なお姉さんだったなぁ。一度もお世話にならなかったけど)


「狐と狸にまんまと騙される所だったわ。今度こそ成敗してやるんだから! 翠!」

「はい、杏樹お嬢様!」

 野島さんが箱を掲げて篠崎さんの横に跪いた。え、まさかあの中身使うの?


「ふふふ、曾おばあさまの遺品の中から出てきたお札よ。くらえっ」

「な、あれを見つけていたのか、杏樹っ」

 村山君がぎょっとして、演技も忘れて叫んだが残念ながら間に合わなかった。


 そぉれっ、とばかりに、高笑いをしながら篠崎さんがお札を撒き散らす。村山君が焦るお札って何!


 危機感を感じて思わずしゃがみこんで目をとじたが(篠崎さん達が「やったわ! 怯んでいるわ、翠!」「お見事です、杏樹お嬢様!」とはしゃいでいるけど気にしない)不思議な事にあれだけ盛大にばら撒かれた紙が一枚も降ってこない。あれぇ、と薄目を開けると、穂積さんの旦那様が手を翳し、何かしていた。


「あの娘は何を言っておるのだ? 先ほどからそなたに無礼極まりない態度ではないか」

 おお、期待通りの重低音。あと口調が偉そう。(そして地球の言葉じゃないよね。こっちの翻訳もまだ有効なんだなぁ)

 ところであの国には魔法なんか無かったはずだけど?

 ……まぁ、巫女様にも加護が付いてたし、巫女様の旦那様も唯人じゃないんだろうね。息子さんの将来がますます楽しみだ。


 私と穂積さん一家を取り囲むように、半円状の何かが光っている。わーい、バリアーだ生バリアーだぁ。しかし、篠崎さん達は別な所に注目していた。


「ひ、光……?あなた、その姿……」

「お嬢様、危険です! 離れて下さい!」

 そう、なんとお札をかぶってしまったらしい村山君が、本性を現してのたうち回っていたのだ。


 なんだかすごく苦しそう。同じくかぶったはずの陰陽師主従には影響が無いみたいだから、こりゃぁ本当に妖怪に効き目のあるお札だったんだねぇ。って、村山君退治しちゃだめじゃん! 彼がいなくなったら誰がこの暴走娘どもの面倒見るの?


「なんだ、あの男は異形の者であったか」

「えぇ、でも、普段は全く無害なんです。むしろ人を守ってるほうでして」

 今にも「ならば退治してくれよう」とか言い出しそうな穂積さんの旦那様に、慌てて説明した。なんで全く関係ない(一回助けてもらったけど)私がこんなことしてるんだ。


「……盛沢さんも、色々あったようね」

 ええ、不本意ながら色々な目に遭ったんですよ。異世界トリップに関わってただけじゃないんです、忙しくしてたんです。


「村山君、なんとかなりませんか?」

 障壁の向こう側では篠崎さんが珍しいほど必死に村山君を呼んでいる。それを野島さんが必死に押さえつけている。なんだか映画みたいだなぁ。


「では、元クラスメイトのよしみで何とかしましょう」

 穂積さんがにこっと笑って旦那様に頷くと彼は翳していた手を下げた。おぉ、光が消えた。

「なにするの、やめて! 光を連れて行かないで!」

 どこにだ。妖怪の世界とか?

「大丈夫、どこにも連れて行ったりしないわ」

巫女様らしい微笑で穂積さんが穏やかにいうと、あの篠崎さんが(あの篠崎さんが! 篠崎さんが、ですよ?)ぴたっと黙って頷いた。本物の巫女様はしゅげー! 弟子入りしたい。


 彼女がそっと手を翳すと、村山君は徐々に落ち着きを取り戻していった。何をしたのか聞いてみると、「体内の気の循環を整えたの」とかなんとか。気功みたいな力なのだろうか。


 やがて、落ち着いて人間の姿に戻った(あれ、鬼の姿の方が本体か)村山君が、大きなため息をついて、それからぐしゃりと頭をかきむしった。

 隠していたかったんだよね、彼女達には。傍にいるために。


「あぁ、ちくしょう。杏樹、俺は……」

「ひかるぅ!」

 感極まった声を出して、篠崎さんが村山君に抱きついた。

 

 そのまま子供みたいにわんわん泣きじゃくりながら「戻って良かった」とか「どこにもいかないで」とか。挙句に泣き疲れて眠ってしまった。

 すごいな、流石は歩く傍若無人。どうでもいいからそういう「世界は二人のためにあるの」的感動シーンはおうちでやって!


 結局、そんな篠崎さんを村山君が背負って帰ることになった。彼女のだだっこモードのせいで、なんかグダグダになったけど、正体がばれたからお別れということにはならないようで良かったね。野島さんの警戒対象も私から村山君に移行したようでなにより。


 もう、陰陽師ごっこは3人でやってね。頼むから。後生だから。

 言っとくけど、他人巻き込むから今回みたいなことになったんだからね! 反省しなさい!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ