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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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3月の脇役そのいち

 うちの学校の高等部の卒業式は、3月3日である。

 学長先生の強いこだわりで日付が固定されており、曜日に関係なくかならず3月3日にするべし、という決まりになっている。


 2月下旬からはもう授業はないので、私にとって3月は春休みと同義だ。というわけで、卒業式を明日に控えているにも関わらず、私は昼間っからお雛様の前で甘酒を飲みつつぼーっとしていた。


 我が家のお雛様達は皆、かなりの美人さんだ。毎年この季節に飾るのが嬉しくて仕方ない。飾ったら飾ったで、暇さえあればこうして眺めている。別にお嫁に行き遅れてもいいから、一年中飾っていたいなぁ。と、若干危ない思考に浸っていたら珍しい事に光山君からメールではなくて電話がきた。


「盛沢さん、ごめん。助けて欲しいんだ」

 向こう側から聞こえてくる声は本当に余裕を失っているようだった。どうしちゃったんだろう。


 先月危ない所を助けてもらった恩もあるし、ここは清算しておくべきだよね。うん、今のうちにきっちりしておくべきだ。4月からは関係なくなる予定だしな。たぶん。


「リリア姫がこっちについて来ちゃってね。今、オレの部屋にいるんだけど……」

 おやおや、そいつぁ大変だ。

「……とりあえず、彼女が着られそうな服、持ってきてくれないかな」

「……がんばって探してみます」

 と、いうわけで、電車で4駅先の光山宅を初訪問する事になったのである。


 光山宅は、意外にも日本家屋である。おそらく古くからこの地に根を下ろし、代々土地を守ってきたのであろう。ちょっと周りの景色にそぐわないほど古風な塀に囲まれていた。


 駅を少し過ぎたあたりからずーっとこの塀が続いてるんですけどね? 入り口どこ。もしかして反対周りが正解だったんじゃないかしら、と心配になってきた頃、やっと、これまた立派な門を見つけた。

 うん、表札もあるし、ここだ。


 電話で指示されたとおり、出入り用の木戸からこっそり入る。(こっそり入れとは言われてないけどさ)

 そのまま母屋には立ち寄らずに右奥の離れに来てほしい、との事だったので、手入れの行き届いた庭園を横目にそちらへ向かった。しかしまぁ、広くて立派なおうちですな。


 離れの玄関には既に光山君が待ち構えていて、すぐに部屋に入れてもらえた。

 なるほど、この離れが丸々彼のお部屋というわけか。秘密の二重生活をするにはもってこいの環境だよね。

 突然やってきた異世界のお姫様が居候するのにも向いている環境ともいえる。道徳的な問題に目を向けなければ。(けれどもこれもまた良くあるパターンだよな)


 部屋に入るとすぐに、ものめずらしそうにテレビのリモコンをいじりまくっているリリア様が目に入った。おおぅ、思いっきりドレスだよ。

 いつぞやこちらの服が着たいというので何着か持っていったことがあるんだから、せめてそれを身につけていてくださればねぇ。

 部屋の中は外見に反して洋室風に改装されているので、そこまで違和感があるわけでも……いや、やっぱり違和感あるわ。


「クミさん、お久しぶり! 全然顔を見せにきてくださらないから、お姉様方が寂しがってるわ」

「ご無沙汰しております。……まずは御召し替えをしましょうか。お手伝いします」

 髪型もなんとか直さねば。

 典型的なお姫様巻きでは、ゴスロリ風の服でも着せないと合いそうにない。そして私は、ゴスロリ風の服など持っていない。子供の頃は、随分持ってたんだけどね。


「わたくし、どうしてもお二人の晴れの舞台が見たくて。明日はソツギョウシキ、とかいう催しがあるのでしょう?」

 それで思わず、後先考えずに飛びついてしまった、と。


 私は、ちょっと道具を借りてくる、とリリア様に言い含めて、廊下で何か考えごとをしつつ支度が終わるのを待っている光山君のもとに行き、小声で話しかけた。


「このままフォレンディアに帰っていただくわけにはいかないんですか?」

「もちろんそれも考えたけど、彼女はもうここの座標を覚えてしまったし、次は自力でこちらに来れると思うんだ。今、無理に帰したら最後、レミア様とルビア様まで連れて戻ってくる可能性が高い。彼女、魔法に関しては天才なんだよ」

 なんてこと!


「卒業式さえ見せれば多分満足して大人しく帰ってくれると思う。だから、悪いけど……」

 いやなよかん!

「耳塞いでいいですか」

 彼はふっと笑って私の両肩を壁に押し付けた。ひぃ! この体制はちょっと困る!


「一晩、盛沢さんの家で預かってほしいんだ」

 ほらあああ、聞いちゃダメって言ったのに! (私の本能が)

「友達とか後輩ってことにして、一晩だけ頼むよ。ね?」

 至近距離で囁く事じゃないよね。こうやって私を困らせて、頷かせようという魂胆だよね。


 くそぅ、最近、やっぱり案外いい人かも、とか思ってたのにぃ。何でこの人は、自分から評価を持ち上げては落とすような事するんだろう。(最初の好青年風よりはこっちの方が話しやすいんだけどさ)

「明日には絶対帰ってもらうから。だから。ね?」

 すみませんクラクラします。色香に酔ったのでしょうか、先ほどの甘酒が少し回ったのでしょうか。


 私は、気が付くとなんだかよく分からないうちに頷いていた。


 信号機にはしゃぎ(なるほど、譲り合いの精神なのね)電車にはしゃぎ(すごいわ、馬車より早くてこんなに揺れないなんて)電柱に感心し(ではこれで全ての家庭に魔力が行き渡っているのね)とにかくある意味お約束どおりの反応を一通り見せてくれるリリア様をなんとか家まで連れて帰った。


 私の見立てどおり、ホワイトベージュのレギンスを履き、サーモンピンクのチュニックの上に黒いふわふわのケープを羽織ったリリア様は、ものすごく可愛らしかった。持ち主の私より似合ってる。ちょっと悔しい。


 母は、留学生の後輩が泊まりに来た、という言い訳をアッサリ受け入れた。なぜかというと実は、もともと魔女っ娘達が泊まりに来る予定だったからである。今更一人増えようが、そう変わらないと思ったのだろう。


 リリア様がきれいな日本語で挨拶したのと、容姿がとっても可愛らしいのも受け入れやすかった一因だとおもう。でも、彼女が着てる服に見覚えない? あれ、気が付かない? 娘の普段の服装とか、実はどうでもいいと思ってる?

 ……まぁ、いいや。ところでどうして日本語で話せるようになっているのだろう。電車ではあちらの言葉だったのに。


「せっかくこちらに来たんですもの。お話できないとつまらないでしょう?」

 リリア様は、光山君から習っていた知識と先ほど電車で聞こえた日本語をもとに、いつの間にか対日本語の翻訳魔法を組み立てていたらしい。

 性格に反して(すごく失礼)頭が良い、というのは本当だったんだなぁ。


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