2月の脇役そのよん
ところで、これってもしかしなくても5人戦隊の管轄なんじゃないかな。宇宙人アラームはどうした? 悪い宇宙人が入ってきたら鳴るはずじゃないのか? 電池切れとか故障とか言ったら今度こそケセラン様をノートではさんで潰してやる!
「ふふふ、仲良くあの世に送ってやろう。食らえっ」
完全に悪役っぽく悦っている先生が、とうとう口から変な光線を発射した。同時にみしみしと音を立てて身体が変形していく。
きゃーお約束、お約束! 光山君に抱きかかえられて辛くも直撃を避けた立場だというのに、私は先生の姿に目が釘付けであった。
「……コンセプトは信楽焼きの狸、ですか?」
「やかましい! あちらが我らをモチーフに作られたのだ!」
信楽焼きの狸というと、どうしても12月の苦い思い出が蘇るわけですが。
人に化ける狸の妖怪って、もしかしてこの連中のことなんじゃなかろうか。ってことは篠崎さんは、私をこの類だと思ったって事で……きぃ、改めて腹が立つ!
「我ら一族がこの星に降り立って幾星霜、今まで地道に地球人を研究し続けてきたのだ。この野望の実現を邪魔するものは許さん!」
そんな長期間考えた末、思いついた手段がギャルゲーってちょっとどうかと思うけど、なんだか社会現象みたいになってるタイトルもいくつかあるもんね。オタク文化から攻めるっていうのは決して間違いではない、のかなぁ?
暢気に侵略作戦の有用性について考えていると、ちょっとまずいかな、という光山君のつぶやきが聞こえた。え、この人そんなに強そう?
「ふははは、私の天才的な頭脳に掛かれば、君が使う子供だましの事象歪曲術を無効にすることなど造作もないのだよ!」
……えーと、詳しい事は分からないけど、この狸が彼の魔法を打ち消す術を持っているらしいことだけは理解した。
それって、もしかしてかなりまずい状態ってことじゃありませんか?
「ごめん、空間を閉じられたみたいなんだ」
「光山君らしくない不手際ですね」
なんで考えなしに入ってきちゃったんだよ。あなたって普段はもっと用意周到でしょうに。
「君のことが心配で、いても立ってもいられなくてね?」
……いつもみたいににこにこ胡散臭く笑っていてくれれば流せるんだけど。
最近ほんとにこの人心を入れ替えたんだろうか。うっかり絆されそうなんですけど。まぁそんな場合じゃないんだけどね! でもちょっとときめいちゃうじゃないか。
今までの苦労を思い出して頭に血が上ったのか、それとも発射回数に制限でもあるのか、狸は光線を放つのをやめ直接襲い掛かってきた。光山君が私の手を引いて廊下に飛び出し、そのまま走り出す。
空間が閉じられている効果なのか、誰とも会わない。まるで無人の学校みたいで気味が悪い。
幸いな事に狸は足が大変遅いらしくて、私でさえやや余裕があるのだけれど、頭痛が。頭痛がするんだってば!
走りながら、光山君が口を開いた。
「盛沢さん、ああいう相手に対抗する手段に心当たりあるんじゃないの?」
ぎくっ。
いや、あるけど。でも、光山君と会わせるのは避けたいんだよね。(なんでばれてるの、とかそういうのはもうわざとらしいと思う。何でもご存知なのでしょうよ)
「光山君の魔法は全く通じないんですか?」
「……そういうわけでもないけど」
あ、いまムッとした? 手の力が若干強まりましたよ。跡がついちゃうからもう少し丁寧に扱ってくれんかね。ごめん、ごめんってば、男の子のプライド傷つけるような言い方して悪かった。
「彼に対して直接、というのは無理だけど、まぁ学校自体を物理トラップにすれば簡単に倒せる。でも、被害が大きくなるからね」
つまり倒すために学校を武器にするってことか。過激だな。
「ここって、異空間じゃないんですか?」
「オレ達の空間軸がちょっとずれてるだけだよ。建物は一緒」
ふぁ、ふぁんたじーというかSFというか怪奇というか。一体どうしろと言うの。
ちょっと途方に暮れかけた私の目が、そのとき何かを捕らえた。何かというか、一番恐れていたものを。それは、光る毛玉……!
「ケセラン様……」
毛玉は一直線にこちらに飛んできて、更に私たちを通過し、怒れる狸の前に静止した。
「見つけたなう! 第一級指名手配一族#$*@&+*の生き残り! オマエを捕まえてボーナス3年分げっとなう!」
ボーナス3年分! そんなにやばい相手だったのか。光山君と会わせたくないから呼びたくない、なんて暢気な事考えてごめんなさい!
ケセラン様はしっかり5人戦隊(変身済み)を引き連れてきていた。
私はともかく光山君の姿を認めた彼らから、かなり動揺している気配を感じる。でも、あぁ助かった。これってケセラン様の物欲センサーのお陰? だとしたらちょっと複雑だけどなぁ。
「ブラック、お手柄なう!キミには特別に新しい武器を支給するなう」
……違ったらしい。竜胆君が気付いてくれたのね。流石、影の実力者タイプのブラックだね!
でもケセラン様のご褒美って、相変わらず本人の懐が痛まないものばっかりだ。
「くっ、こんな辺境の星まで宇宙警察の手が伸びていたとは!」
「政府が変わったから方針も変わったなう! ばら撒き政策の一環なう!」
そんな内情ばらしてどうする。
「見つかってしまったのならば仕方ない、計画変更だっ。この星の外周に設置してある強制トキメキメモリー植え付け装置を稼動させる!」
略称がやばそうな装置!
できればさっきみたいに仕組みを説明して欲しかったのだが、狸は窓を叩き割り、そこから飛び出していってしまった。あーぁ、戦闘は今日もお空かぁ。
「追いかけるなう!」
ケセラン様も相当張り切って飛び出していった。一方5人は私たちをこの空間において行くのを躊躇っているようで、誰も出て行こうとしない。光山君がいるからなんとかなりそうな気もするんだけどね。(根拠もなく大丈夫だろうと思われてしまうのが彼の可哀想なところだ)
君たち、早く行かないとケセラン様に怒られちゃうよ?
「……彼女を頼む」
光山君は頷いた。声で正体ばれちゃうよ、しゃべらなくて良いよ竜胆君。
「大丈夫、彼女はオレが連れて帰るから。……気をつけて」
そして5人は、きちんと窓を開けて、そこから飛び立っていった。
強制トキメキ装置(無難に略してみた)が発動したらどうなるのかとても気になるけれど、きっとその野望は潰えるのだろうなぁ。若干残念に思いながら、狸の妨害から自由になった光山君に連れられ、私は元の空間に戻った。
ちょうど「いきなりガラスが割れた」後に、「誰もいないのに隣の窓が自動で開いた」という超常現象で大騒ぎの最中だったので、うまく人ごみに紛れ込めたと思う。……なるほど、光山君の最終手段を発動したら大変な事になるところだったんだね。
後日、私は果敢にもケセラン様に抗議した。何故あの狸型宇宙生物にアラームが作動しなかったのかと。
ケセラン様は涼しい顔(判別つかないが)をしてさらっと答えた。
「ワタシが来る前から潜伏していた連中には反応しないなう。設定が違うから仕方ないなう」
開き直ったよ……。
この分だとまだまだ潜伏中の宇宙人は多そうだなぁ。いいのかな、ケセラン様に地球を任せておいて。完全にお役所仕事(しかも古いタイプ)の、やる気のない公務員じゃぁないか。誰かやる気のある若者が赴任してこないかな。辺境惑星だからだめか。
あの3人組はどうなったかというと罰としてケセラン様のしもべに、なるには、運動能力が基準値に達していなかったらしくて、結局例の記憶消去光線でゲームのことだけ消されてしまった。
こうして一件落着かと思いきや、彼らの行動で動いた好感度などは継続されているらしく、巽さんと北条君のカップルは崩壊した。そこにすかさず夏目さんがアタックした結果、結局北条君と夏目さん、鈴木君と巽さん、という意外性のないカップルが誕生したのである。
……この人達、一生こうして入れ替わり続けると困るから、結婚したらお互いに疎遠になるべきだろうな、と心底思った。