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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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1月の脇役そのさん

「……ここは、俺達の居場所じゃねぇ」

 うん。まぁ、思春期になると誰でも持ちそうな悩みだけど、あなたのは切実だよね。お察しします。

 でも私はここで18年生きてますから!


「モモカから聞いた。俺は、マンガのキャラクターだってな」

 本人にそこまで告げたの? そりゃぁちと酷じゃないかね米良さんや! だからこの人混乱して暴走しちゃったんだよ、責任取れ!

「だがオレはここにいる。それならオマエがハートでも、おかしくはねぇ」

 無茶苦茶言った!


 ……あぁ、そうか。彼は不安なのだ。だから仲間が欲しいんだね。

 知ってる人と一緒にここに来たって思いたいんだね。だから、目と唇の形が似ているだけの私を、ハートさんだと思い込みたいのね。


 だが断る!


 ハートさんの役なんか冗談じゃないよ、付き合ってられないよ!

 最近じゃぁしょっちゅう、敵対する組織に潜り込んではバレて(だって行動が派手すぎるんだよ)ぴんちに陥ってひん剥かれてるじゃないか。(繰り返すが、何で攻撃を受けると服がはじけ跳ぶのだろう。風圧?)それで何故か、やっぱり敵のはずの主人公に助けられてお礼に情報流してるんだよね。

 無理だ、私にはできない。私は清純派だからあんなお色気担当できない!

 

 先月の一件で、どうやら輪廻転生がもしかするとあるのかもしれないことは、まぁ分かった。長生きしてる鬼がそう言うのだから、きっとそんなこともあるのだろうて。


 しかし「あなたは連載中の漫画から転生したのだ」と言われてもどうしてもピンと来ないんだよ。ってゆーか絶対勘違いだと思うんだ。ハートさんだけは、ない。


 問題は、どうやってこういう厄介な相手に説明するかでしてね? あ、やめてください、ごりごりしないで、髪が絡んじゃうから!

 人が大人しくしてるからっていいかげんにしろよ!


「手越さんの言っている通り、もし本当に私がハートさんなら、手越さんはカップさんってことになるんですけど」

「あぁ? あのオンナは似ても似つかねーよ。オマエバカか?」

 あんたに言われたくないですよ、脊髄反射みたいに銃をぶっぱなすおバカさんのくせにっ! (言えないけど。言ったら最後だけど!)


「でも彼女は自分がカップさんだって断言しています。そちらは否定して、私がハートさんだという部分だけを信じるんですか?」

 すごく分かりやすく整然と指摘してみたつもりなんだけど、どうだろう。この人のおつむでちゃんと理解できるだろうか。


 しばらく眉をしかめて頭を右にひねったり左にひねったりしたあと、クローバーさんはうなだれて銃をおろした。どうやら脳まで私の言葉が届いたらしい。あぁ、良かった。

 ってゆーかね、そういう弱音(弱音っていうほどしおらしくはなかったけど)吐きパートは私じゃなくて米良さん相手にするべきじゃないかな!


 ちょうどそこへ息を切らせた滝川君と米良さんが飛び込んできた。遅いよ。こっちは自力で危機を脱出しちゃったよ。君達、もう少し主人公としての自覚を持って行動してよ。

「……はぁ、も、もり、盛沢さん、クロー、クロハくんに、な、なにか」

 まずは落ち着いて水でもお飲みなさい、と言ってやりたいほど二人は息も絶え絶えだ。お互いインドア派だもんな。


 一通りぜいぜいと呼吸を整えた二人は、クローバーさんの手の中にある銃に気が付いて目を剥いた。まぁ、そうだよね、どうやって誤魔化そうとか思うよね。

「モデルガン見せてもらってたの。この前のコスプレといい、本格的だよね」

 必殺、平和な勘違いしてるフリ!


 説明しよう。これは、三人の女の子が一つの鞄に頭を突っ込むようにして語りかけているのを目撃してしまった時などに「なぁに、三人で内緒話? うふふ」とか言いつつ炸裂させていた技である。

 この技で私は、キュピルの登場を7月まで押さえ込んだのだ。……いや、まぁ今思えばあれは5月中にとっとと解決させて妖精界に突っ返すべき事件だったんだけどさ。


「どうしてわざわざこんな所まできたんだ?」

「手越さんから、私が『リインカーネーション オブ ザ ラストエッジ』の大ファンだって聞いたみたい。それで色々見せてくれようとしたんです、よね? 空いてる教室探してたらこんな所まで来ちゃってたの」

 お願いだから私を日常にかえして。クローバーさんを叱るのも、励ますのも、慰めるのも私の仕事ではない。主人公たちのすべき事なのだから。


「でも梨院君、本当にクローバーさん好きなんですね。名前も似てるし顔立ちも似てるからすごく真に迫ってました。ドキドキしちゃった」

 いつぶっ放されるかとな。


「さてと、いいもの見せてもらいました。じゃ、私そろそろ帰らなきゃ。ばいばぁい」

 無駄に説明しようと口をぱくぱくさせる米良さんと、彼女を黙らせようと押さえつける滝川君を華麗にスルーして、私は今度こそ玄関に向かった。

 米良さんは絶対墓穴掘るもんね。そのまましっかりコントロールして、私の耳には何も入れないでくれたまえ滝川君。


 家に帰って部屋着に着替えた私は、ベッドに仰向けに倒れこんだ。あー怖かった。先月変な黒い手に取り込まれそうになった時ほどじゃなかったけど。


 だって銃なんて現実味がなさ過ぎる。ほんとにモデルガンを突きつけられたくらいの恐怖しかなかったな。モデルガンも最近は危ないって聞くけどさ。


 それよりも、銃をおろしたときのクローバーさんの顔が頭から離れない。なんでだろう。恋? (いやいや)

 ……あー、なんか可哀想だったなぁ。彼だってまだ19歳だもんね。


 私がもし来年、いきなり別な世界に飛ばされて、なおかつ「あぁ、あんたのこと小説で読んでたよ」とか言われたらきっと立ち直れないと思う。ってゆーかプライバシーの侵害だよね。訴えたいよね。


 そんな所で知り合いに似ている誰かを見つけたら、たとえケセラン様っぽいものだったとしても泣きながら抱きつくかもしれない。(何故ケセラン様を例に出したのかといえば、頼りたくないイキモノ第一位だからだ。二位はキュピル。三位以下はどれも横並びと言おうか順不同と言おうか……)


 あれ、そういえば漫画のほうのクローバーさんって、今どうなってんの?

 手越さん対策の一環として、先月までは本誌を立ち読みして(ごめんなさい、買ってませんでした。だって週刊誌ってかさばるんだもの)チェックしてたんだけど、今月に入ってからはまだ見ていない。確か先月の最後はどこかの工場で主人公と小競り合いしてた気がするんだけど。


 よし、ちょっと読みに行こう! 着替えるの面倒だし、このままコート着ちゃえばわかんないよね?外も大分暗くなってきたし。

 私はいそいそと家を出て、駅前のコンビニにむかった。

 別に、最近店頭で扱われ始めたゴディバのアイスが食べたくなったせいではないよ?


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