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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
45/180

1月の脇役そのに

 問題。初対面の人間からさも顔見知りであるかのように声をかけられた場合、どう返すのが一番良いか。ただし、特殊な条件がいくつか付加されているものとする。


 条件1、相手は気が短く、少しでも気に食わないことがあれば銃をぶっぱなす。

 条件2、相手は自分の置かれた立場をまだ理解しきっていない。

 条件3、間違われている対象は、変装して色々な所に潜入するのが趣味の人物である。

 条件4、自分は運が悪い。


 答えは?

 うん、いい方法思いつかなかった。誰か代わりに問題解いてください。

「初めまして。米良さんのお知り合いの方ですか?」

 とりあえず少し意味有り気に笑って見せてから、少しの間をおいて答えた。


 こういう答え方すれば、もしこのクローバーさんが本物だった場合「ハートが潜入のために初対面のフリしたがってるんだな」とか誤解してくれるかもしれないじゃん? 殺し屋の幹部なんかしてるんだからそのくらいは察してよ。(ただのコスプレイヤーの勘違いだったらなおよろしいのだが)


 たのむ、とりあえずここはスルーしてくれ。落ち着いてから改めて彼女たちの説明を聞けば誤解も解けるさ。

 私の願いが通じたのか、彼は少し考えるようなそぶりをしたあと、そうか、と頷いた。


「あぁ、わりィ。知り合いに似てたモンで」

「それは奇遇ですね。えぇと、お怪我してるようですけど……」


「この人は俺の従兄弟だ。今からうちにつれて帰るところなんだ。盛沢さんは気にしなくて良い」

 滝川君がささっと間に入り、私から彼の姿を隠した。よしよし、あくまで私は部外者でいて良いんだな。もちろん怪我の事聞いたのは社交辞令だから。そんな警戒すんなって。


 ならば気にせず退散させてもらうさ。滝川君ちに帰るならスクールバスでしょう、とか、この先は米良さんちに続く道だよねとか突っ込んだりもしないさ。


 しかし逆トリップモノの主人公って色々大変だろうなぁ。家族と一緒に暮らしている女子高生がなるものじゃないよね。衣食住全部世話しなきゃいけないんだもん。

 かといって警察に届け出るというのもなんだか薄情な気がしちゃうし。でもなぁ、どうやってご両親誤魔化すつもりなんだろう。もしくは説得? 米良さんちのご両親がおおらかな方だといいな。まぁ私が心配しても仕方ないか……。

 とりあえずおうちに帰ってゆっくりと彼に言い聞かせると良いと思うよ。私がハートさんなんかじゃないってな!


 週明けの教室で、私は信じられないものを見てしまった。教室の中に普通に紛れているクローバー(仮)さんである。

 シャツにジーンズという服装だけどすごく堂々としているから違和感無いよ。へぇ、スーツ脱ぐと若く見えるねぇ。そういや設定年齢19だっけか。マンガのキャラの年齢って色々無茶だと思うんだ。


 そんなことよりも、米良さん? どういう設定にしたの。

 見た目はどう見てもアジア系、流暢に崩れた日本語を操る彼をなんと言って紹介するつもりなの。


 ホームルームで、先生から正式に彼の紹介があった。

 彼は米良さんのおうちにステイしているアメリカ育ちの日系人、らしい。名前は梨院 黒刃くん。

 りいん、くろは……。うん、ひねりも何もない偽名だよね。これであの漫画のファンということにすれば、好き過ぎて口調も真似してるのかな?くらいで誤魔化せるという算段だろうか。

 外国のオタクの人って、たまに漫画で日本語覚えてとんでもなく無礼な口利いたりするもんね。以前チャットで「キサマは~~だろうが」とか言われてすごくびっくりしたことがあるよ。


 ところで細かい事なんだけど、金曜には滝川君の従兄弟って紹介された人が、今日は米良さんの家にホームステイしてることになってる矛盾については、彼らが何か言い出すまでは気が付かないふりで良いよね?

 それとも彼らはうまい言い訳を考えてくれたのだろうか。(それ以前に米良さんちでどういう紹介がなされたのかも気になる所だ)


 私なら自分の嘘にそんな矛盾を内包していたら整合させるまで落ち着かない気がするけど、二人は大丈夫なのかな。いや、気にならないならいいんだけど。


 ……そういえば私にはもう一つ気をつけなければいけないことがあるんだった。手越さんだ。

 まったく、彼を教室に連れてくるなんて何考えてるんだよ! まぁ目を離すのも怖いという気持ちはわからんでもないが。彼女がクローバーさんに絡んだらまたややこしいことに……あぁっ、見てる! 手越さんがクローバーさんを見てるぅ! ひぃぃ。


 休み時間になると、手越さんはさっそく私のもとへやってきた。いや、あの、うん。いきなりクローバーさんに絡むよりは賢い選択だとは思うよ。(命の危険性があるかどうか、という点で)

「あの子もここに来ていたのねぇ」

「……えーっと?」


「あぁ、そうね、貴女は覚えていないのよね。でも大丈夫よ」

 なにがどう大丈夫なのか分からないのだけど、彼女はしょっちゅう私に「大丈夫よ」と言う。

 はっきり言って根拠どころか理由さえもなく「大丈夫よ」なんて繰り返されたらその方が不安になるんですけど。何を心配するべきなのかさえわからん!


 次の休み時間、手越さんは私に微笑んで頷くと、クローバーさんのところへまっすぐ歩いていった。あああ、やめとけって、つつくなって! 見ていられなくて私は教室から逃げ出した。

 だってだって、せっかく滝川君と米良さんが逃がしてくれたのにわざわざまた巻き込まれるなんて悪いじゃないか! 私は彼らの厚意を無駄にしたくないのだ。


 さて4時間目の授業が終わり、本日は奉仕活動やら特別講義(申し込み制の時間つぶしカリキュラムとも言う。私は水曜と木曜に、英語の本を和訳するグループに参加している)もないのでとっとと帰ろう、と玄関に向かうと何故かクローバーさんが一人で私を待っていた。(のだと思う。わざわざ行く手を遮られたから)


「話がある」

 そう言って彼は歩き出した。振り返りもせずに。

 ここで無視して逃げたらやはり撃たれるのだろうか。

 私が躊躇する気配を察したのか、彼はやっと立ち止まってこちらを振り向いた。


「なにしてんだ、早く来い」

 その声音に、なんだか縋るような音を感じたので、私は仕方なく彼に続いた。


 連れて行かれたのは化学室だった。う~ん、経緯からして多分彼はあの爆発に関係してここにやってきて、準備室で米良さんに発見されたんだろうね。先生方に見つからなくて良かったよね。


「さっきあのオンナに聞いた……。オマエ、ハートなんだろ? 覚えてないって本当か?」

 いやいやいやいやいや!

「いや、あの、そもそもね、私……」


「なぁ、とぼけんなよ! 思い出せよ! こんな世界に来て平和ボケしちまったのか?」

 彼は目にも留まらぬ速さでどこかから銃を取り出した。きゃー! ほらぁ、だから言ったのに! (誰も何も言ってない)


 現代の日本で、こめかみに銃を押し付けられてゴリゴリされる女子高生なんてそうはいないだろうな。アハハ……。

 私は反射的にホールドアップしながら、飛びそうになる意識を必死でつなぎとめていた。


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