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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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1月の脇役そのいち

 1月。正月休み明け、というのは他のどの休み明けよりもダレるもので、休み明けは憂鬱なものだ。というわけで今月も例に漏れず憂鬱だ。

 いい加減認めよう、私は一年中憂鬱なのだ。理由は察していただきたい。


 三学期の三年生というのはちょっと特殊な扱いを受ける。内部進学組でもなく、なおかつ進路が決まってしまっている一部の人間は午後と土曜日の授業がなくなって、代わりに「奉仕活動」というものにかり出されるのだ。

 こうして隔離する事で浮付いた空気がクラス中に蔓延するのを防ぐというわけである。別に私浮付いてないのに。いつだって沈み気味なのに。


 ところで突然だが本日化学室が爆発した。といっても、漫画みたいな「ちゅどーん」という爆発音と共に実験器具類がいくつか割れたくらいで、校舎ごと吹っ飛んだわけではない。

 音のわりに小規模な被害で、先生方も首をかしげていた。多分誰かがロケット花火でも仕掛けたんだろうということで早々に原因追求の努力を放棄したようだ。犯人探しはするつもりらしいけど、まぁ見つかるまい。


 で。この化学室の片付けに指名されたのが、たまたま先生の近くにいた私と、出席番号9番、滝川 涼君と29番、米良 桃果さんの3人である。(米良さんといえば、私と会長をモデルにした漫画はどうなったんだろう。知りたくないのに気になる!)


「まったく。何が、被害はほとんど無い、だ! 俺の実験が台無しじゃないか!」

 滝川君は大層お怒りのご様子だ。


 彼は化学部所属で、熱心な部員として有名である。小中学共、卒業文集の「将来の夢」欄に「錬金術師」と書いたという噂がまことしやかに流れている。まんざらデタラメでもなかろうな、と私は思っている。

 以前、新刊のリクエストのリスト化を頼んだとき(彼も図書委員なのだ)内容が全部錬金術研究関係の本にすり替わっていて、露骨過ぎだろうと思ったことがあるからだ。


 実際、飛び散っている液体は金属の欠片交じりで、もしかしてコイツ本気で金を作ろうとしているんじゃないかという疑惑さえ生じさせる代物だった。


 神経質そうにメガネを何度も直しながら、彼はピンセットで丁寧に欠片を拾い集めている。私達には触ってほしくないそうだ。こっちだってお断りだ、そんな得体の知れないもの。

 かといって何もしないのでは手持ち無沙汰なので私はガラス棚の清掃を、米良さんは準備室の床掃除をすることにした。


 三年間お世話になった学校だしな。恩返しはしておかないと。……つくも神とか、いないとも限らんしな! もうこの世界には何がいたっておかしくないって学んだよ。


 せっかくなので徹底的にやろう、と張り切って棚の扉に手をかけたところで、悲鳴が聞こえた。

「うにゃあああああああああああああ!」

 ……悲鳴、だよね?米良さんの。


 流石の滝川君も手を止めて床から顔を上げた。私達は目を合わせ、そして準備室の扉に視線をうつした。あの中で何が?


「俺が見てこよう。盛沢さんはドアの外にいてくれ。もう一度何か聞こえたら助けを呼びに行ってほしい」

「う、うん、気をつけてね?」

 まぁ多分、転んだとか、その拍子に何かをぶちまけたとか、そこで飛び散ったものが更に雪崩のごとき連鎖を生んだとか、そんな感じの事だとは思うけど。


 でも小規模とはいえ謎の爆発事故が起きたばかりだ。もしかしたら犯人が潜んでいたのかもしれない。そんな最悪な事、考えたくはないけれど。


 私はしばらく待った。かなり待った。イライラするほど待った。なのに二人とも出てこないし、何らかの音も聞こえてこない。まさか二人とも、犯人に……?

 どうしよう、職員室に駆け込むべきかな。と、弱気になった所でやっと滝川君が出てきた。あぁ良かった、生きてた。


「えーっと……。その、盛沢さん、悪いんだが、あー。中等部の化学室から蒸留水を2パックほど取ってきてもらえないか? 鍵はここにあるから」

 滝川君にしては随分歯切れ悪いな。ってゆーか、私をここから何とか遠ざけようとして頑張って口実作ってないですか? 中でどんなまずいもの見ちゃったのさ。


「わかった。……米良さんは、大丈夫だった?」

「あ、あぁ。転んだだけだった」

 それだけ聞けば十分だ。わざわざ私を巻き込まないように遠ざけようとしてくれているのだから、そのご親切をありがたく受け取ろう。


 いつも強引に巻き込まれるパターンが多かったから、こうして気遣ってもらえると有り難さが身にしみるなぁ。たとえ二つ向こうの建物の3階まで行って2リットルの水を抱えてここまで戻って来い、と言われてるんだとしてもな! そのくらいお安いご用さ。


 私が、なるべくゆっくりゆっくり時間を掛けて滝川君のご所望の品を運んで化学室に戻ると、既に二人の姿は無くて書置きが残されていた。

 ふむふむ、蒸留水は棚の中に入れて、鍵は準備室の引き出しの二番目。先生への報告はしておいてくれるのね。よし、じゃぁとっとと帰ろう。金曜の放課後に少し早く帰れるのってお得な気分だよね。


 土日はどうやって過ごそうかなぁ、なんて浮かれながら歩いていると、前方に三人の人影を発見した。

 んんー? あれ、あれぇ? 私もしかして早かった?あんなにゆっくりしてきたのに、あれは滝川君と米良さんに見えるよ?そして二人が引きずるようにして支えてる人は、えーっと。なんだあの白いスーツ。ホストか?


「うっ」

 真ん中の人が突然呻いて足をもつれさせた。米良さんが支えきれずにバランスを崩して、踏みとどまろうと頑張った滝川君を巻き込み、三人ともが地面に転がった。


 米良さんはなんというか、ドミノ倒しみたいなものを生じさせる才能があると思うんだ。

 白いスーツの人は汚れが目立ちそうだ。そうじゃなくてもところどころコゲたり破れたり、血がついたりしてるのに。……うん、ホストじゃなさそうだね。アレが今回の厄介ごとだね?


「い、いったたたた。大丈夫、クローバーさ、あ、も、盛沢さんっ?」

 ……今何か聞こえた? ううん、何も。(私Aと私Bの会話)


 とりあえず見つかっちゃったので(というのは双方の認識だろう)無視して立ち去るわけにもいかず、私は心配そうな顔をして駆け寄った。

「大丈夫? 滝川君、米良さん、と、えーと」

「あ、えええええええ、ええと、このひとはあの、違うの! 本物のクローバーさんが漫画から飛ばされてきたとかじゃなくって!」

「コスプレのひとだよね! うわぁそっくりぃ」

 米良さんが墓穴を掘りすぎないうちに声をかぶせた。


 わざとらしくはなかっただろうか。声は震えなかっただろうか。一気に10月のアレコレが頭の中にフラッシュバックした。

 あの忌まわしい『Reincarnation of the last edge』が。


 やっと手越さんの熱が冷めてきた気がするのに再燃するような事件はやめてええ! まさかの逆トリップなんてヤメテー。


 しかし私の心遣いを台無しにするように、彼は言った。

「よぅ。ハートじゃねーか。今回はまた随分可愛らしいカッコしてんな」


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