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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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12月の脇役そのよん

「ほんとに盛沢さんってあぶなっかしいよね」

 失礼な。私自身は堅実に生きてるんだぞ。悪いのは私に絡んでくる連中であって……。

「変わった人に絡まれやすくて、困ったなぁ」

「自覚がお有りなら改善してください」

「……オレはともかく」

 棚に上げやがった!


「まぁ、さっきは本当にありがとうございました。あんな得体の知れない水を頭からかぶるなんてぞっとします」

 水がはねた部分だってなんだか気持ち悪いくらいだ。あらためて濡れタオルでぬぐっておこう。


「うーん、余計な事だったかもしれないけどね。今回の事でますます彼女たちが疑ってくるかもしれない」

 あぁ、聖水跳ね返したとかなんとかね。

「大丈夫、彼女たちは確信してるんです。何を見ても結びつけるだけです。大人しく水をかぶるだけ損ですから」


「助けてあげようか? 見返りはもらうけど」

「とんでもなく高くつきそうなので遠慮します」

 一生を棒に振るほど高くつきそうだよ!

「気が変わったら、言ってね」

 にこっ。

 こういう笑みを浮かべた会長は危険だ、とちゃんと学習している私は、篠崎さんを見習って脱兎の如く逃げ出したのであった。


 私の受難はまだまだ続く。いや、もしかして今日が一生で一番運の悪い日なのかもしれない。

 ……きっといつか更新するんだろうけどな!


「盛沢、たのむ! これ預かってて」

 昼休み、中山君が私に差し出したのは、桐の箱だった。

 桐の箱。嫌な予感がするよ?

「こ、これは……!」

「開けなくていい。いやむしろ今は開けないでくれるか?」

「なんで私に……ケセラン様を?」

 伝承によるとケセランパセランは桐の箱に入れて、おしろいを与えて飼うらしいよ? そうするといつの間にか増殖して、幸せを与えてくれるんだって。

 冗談で中山君に教えたんだけど、本気にしたのか。どうしたこの箱。


「俺のへその緒が入ってたやつ。おしろいはわかんなかったから姉貴の化粧品削っていれといた」

 お前はそこまでしてケセラン様を増殖させたいのか!

「頼むよ、最近俺の部屋から変な声がするっておふくろがうるさくってさぁ。家捜しされそうなんだよ」

「で、でも、だからってなんで私に!」

「みんな嫌がっ……ごほっ、恐れ多くてご遠慮たてまつらむと……」

 日本語が大変な事になっているよ中山君。現国も古典も駄目な子だからな。


 しかしよく大人しくしてるな、ケセラン様。もっときぃきぃわめいても不思議じゃないのに。

「いつも遅くまでゲームしてるから日中は熟睡」

 ……もしや授業中の緊急アラームはオートで作動していたのか? こいつほんとに地球の平和とか実はどうでもいいんだな。駄目な公務員みたいだ。


「なー、頼むよー。今夜だけでもいいからさぁ」

 う、バカなわんこが耳をたらしている幻影が見える。負けちゃダメよ、だってここで負けたら私、私……! うずうず。

 だめよ、芸なんかさせちゃ。だめ、だめだったら!

「お手っ!」

「わん」

 と、いうわけで箱を手に載せられてしまったのである。

 くぅ、中山君のクセになかなかやるな!


 ……馬鹿な子ほど可愛いっていうよねー。あれ、もしかして私中山君が好みだったりする? いやいや、彼はちょっと頼りなさ過ぎてなぁ。こうやって頼まれごとばかりされそうだよな。うん、ダメダメ。


 なんてどうでもいいことを考えて心の葛藤をなんとか誤魔化しながら家に帰った。

 できればケセラン様がこのままずーっと眠っていてくれますように。


 今日も母は、ジムに行くといって夕方出て行った。

「帰りにパパと合流してデートしてくるから、くみちゃんは先に寝ててねぇ。うふふ」とか言いながらうきうきと。

 両親の仲が良いのは喜ばしい事だし、高校生にもなって寂しいとは言わないさ。

 ただ、結婚生活が幸せすぎるせいか最近私にも「恋人はいないのー? ほら、あの生徒会長さんなんかどうなの?」とかなんとか絡んでくるのは止めていただきたい。

 てゆーかいつの間にヤツの存在を……? は、もしや魔女っ娘の仕業か!


 まぁ今日に限っては両親の帰りが遅いのはありがたい。これなら多少ケセラン様が起きて騒ぎ出しても大丈夫だね。でも目を離すと怖いから、箱は肌身離さず持っておこう……。


 夕食は簡単に、アンチョビとキャベツのペペロンチーノ(具入りは邪道と言われるかもしれないけど)でも作ろうかなぁと冷蔵庫を空けてごそごそやっていると、玄関のチャイムが鳴った。


 こんな時間に何かな、宅配便の予定は聞いてないけど、とインターフォンの画面で確認してみたら、なんと篠崎さんと野島さんであった。村山君の姿はない。

 そういや今日一日彼を見てないけど一体どうしたんだろう。二人を止めようとして野島さんに何かされたのかな……。


 うーん、あの二人かぁ。居留守使おうかなぁ。しかし待てよ、篠崎さんが下げてる紙袋、最近流行ってるケーキ屋さんのだよねぇ。

 私は物欲に負けて、玄関へ出て行った。ちょっとだけ。すぐに帰ってもらえば大丈夫だよね?


「……謝りにきたのよ。学校で聖水をかけようとしたのはやりすぎたわ」

 篠崎さんがぶすーっとしながらも紙袋を差し出して言った。

 いかにも渋々、親に怒られて来ました感丸出し。しかも「場所が悪かった」と思っているような謝り方だよね?


 どこであろうといつであろうと、人様に水を掛けようとしたことが問題なんだよ? いや違うな、水だけじゃない。思い込みで人を退治しようとする事自体が問題なんだよ。

 今のうちになんとか誤解を解いておかないとエスカレートするだろうなぁ。だって、見るからに反省してないもの。


 でも今日は日が悪い。ケーキに浮かれてうっかり忘れかけてたけど、エプロンのポケットにまずいものが入りっぱなしなんだよ。いや、だってさ、ポケットに入れるとそのまま安心しちゃうクセがあって。

 あと、レジでお金払うと安心して商品受け取らず立ち去ろうとするクセとかな。何度「お、お客様ーっ」と呼び止められたことか。ってそれは今どうでもいい。

 とにかく、いつケセラン様が起きてしまうかと考えると背中にへんな汗かきそう。早く帰ってもらわないと。


「……それはまたご丁寧に。今後はああいうのは控えてね? じゃぁ私、食事の支度中だから!」

 早口で答えて、ドアを閉めようとしたのがどうやらまずかったらしい。


「……様子が変です。やはり何か隠しています、杏樹お嬢様」

 野島さんが余計な事を言い出した。あぁ、私ってなんて迂闊だったんだろう。やっぱり居留守使うのが正解だった。

「隠すなんて。ただ、ちょっとお鍋を火にかけっぱなしで……」

 強引に誤魔化そうとベタな言い訳をした私のエプロンの中で。


「……ん~、よく寝たなう~」

 災厄が、目を覚ました。


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