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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
40/180

12月の脇役そのさん

「見たって、なんのこと?」

 とりあえずきょとん、と目を見開いて首を傾げてみた。

 そもそもこんな遠くから何を見たってのさ。篠崎さんの性格なら、あれ見たら現場に飛び出してくるでしょうが。ってことは大したものは見てないって事だ。あわてるな、落ち着け私。


「まぁたしらばっくれるのねっ!」

 びしぃっ! と例のポーズを決めて、篠崎さんは高笑いをする。

「うちのお風呂の窓から赤やピンクやオレンジの怪しい光が見えたのよっ! 急いで駆けつけたらあなたに出くわした! どう、完璧な証拠じゃないの!」

 おーっほっほっほっほ、って。無理にそんな笑い方しないほうがいいよ、あぁもう言わんこっちゃない。

 篠崎さんはふんぞり返ったまま咳き込み始めた。悪いけどかっこわるー。


 それでお風呂飛び出して浴衣一枚で走ってきたのか。

 白い浴衣で髪を振り乱して疾走する姿はさぞやすれ違った通行人たちの度肝を抜いた事だろうよ。湯冷めしないのかね? それともなんとかは風邪をひかないのかね?


「えーと、光が見えて、私に会ったのが、何の証拠なの?」

 心底わからん。根拠が薄すぎると思わないのかな。この人の頭ってどうなってるんだろう。

「誤魔化しても無駄よっ! どうせあの光は狐火か何かでしょう。いい加減正体を現すのね、この狸っ!」

「たぬきっ?」

 なんで狸が狐火だすんだよ、という突っ込みをする気力も沸かぬほど、ショックを受けた。

 たぬき……。狐だったらなんだか美しい妖怪ってイメージがあるけど、狸……。


「狙ったかのようなロリ巨乳に化けたりして! あなた程度じゃ萌えないのよ! 中途半端な化けかたして、恥を知りなさいっ!」

「あ、あのっ」

 一つ一つの間違いを、泣かせるほど徹底的に否定してやりたいという気持ちよりも、何故狸呼ばわりなのかを知りたい気持ちが勝った。


「なんで狐じゃなくて狸なのっ?」

 篠崎さんはまた無理な高笑いをした。

 あとちょっとふんぞり返って、そこの壁に頭を強打してくれないかな……。そしたらもうちょっと賢くなれるんじゃないかな。


「だって狐だったら、私のような美女に化けるわ。あなたみたいなお子様顔じゃぁなくてね!」

 かっちーん!

 自分だって狐と言うよりは蛇じゃん! いや、蛇だってちょっとセクシーで悪くないな。狸よりは良い。

 狸の実物は可愛いけど、よく見かける狸の置物って不細工なんだもん。他にないか、例えられたらイヤで彼女に似ていそうな動物。くそぅ、思いつかない。


 じゃぁなにか、私が童顔気味だから狸なのか。(ロリ巨乳って言われるようなロリ顔でもないし、巨乳ってほどでもないもの!)

「とにかく、ここで会ったが百年目よ。ちょっとお待ちなさい、翠が来たらさっそく退魔の儀式を……」

 へぇ。野島さんが来るまでダメなんだ? このヘボ陰陽師め。


 篠崎さんは懐からチョークを取り出すと、道路に落書きを始めた。

 なにしてるの? と聞いたら儀式用の陣を書いている、と素直に答えてくれた。


「あんまり遅くなると怖いから、もう帰るね。ばいば~い」

 わざわざ野島さんの到着を待ってまで退治されてやる義理はないので、落書きみたいな作業に従事している篠崎さんを置いてさっさと帰った。

 誰か、何とかして。


 翌朝、もちろん絡まれた。廊下の真ん中で。

「私が結界を張り切らないうちに、よくも逃げたわね!」

「あー、うん。ゴメンネ」

 もう、立ち止まらずにさっさと通り過ぎよう。そう思ったのだが、野島さんに回りこまれてたたらを踏んだ。

 だから怖いって! 威圧感あり過ぎだって。あれ、ちょっと、村山君はどこ? なんでこの暴走特急放置してるの。


「呪符が効かないって事はそれなりの力があるようね。ならば、これはどうかしらっ」

「ふっ」

 篠崎さんの合図で、野島さんが低く息を吐き出し何かを振りかぶった。きゃー、なになに、暴力反対!


 ざばーっ。

 目の前を、滝のような水が流れ落ちた。水?

「せ、聖水を跳ね返したっ?」

「杏樹お嬢様、このアヤカシは危険です、引きましょう!」

 二人は何が起きたのか全く理解できなかった私を置いて、脱兎の如く逃げていった。あ、篠崎さんが顔面からコケた。ざまぁみろ!


 ところで、一体何が起こったんだろう。

「大丈夫? 彼女たちも、ちょっと悪ふざけが過ぎるね」

「ぁ、光山君。おはようございます」

 会長は、おはよう、と言ってハンカチを取り出した。ぴしっとアイロン掛けされているところに彼らしさを感じるよ。


「大分防いだけど、全くかぶってないと怪しいから。顔に少しかかってるよ」

 前半は小声で、私にだけ聞こえるように。後半は普通の声で言って、私が受け取ろうとする前に濡れた顔を拭いてくれた。あの……ありがたいんだけどここ廊下。


 一見甲斐甲斐しい彼の様子に、案の定見物人から「キャー」と悲鳴が上がる。あのね、いや、もういい。なんかもう否定するの疲れたし好きに想像してくれていいよ。


 そうか、つまり私は野島さんによって濡れ鼠(っていうか濡れ狸か、彼女らの言い分では)にされるところだったのを会長の魔法(魔法とか普通に言ってる自分に愕然とする。もう戻れないのね、あの頃には……)に救われたのか。納得した。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。それにしても、困ったね」

 ほんとにな! とりあえずの問題はこの水浸しの廊下だよ。私が掃除するのか?


 タイミングよく先生が通りかかって、水溜りの製作者は誰かと尋ねた。

 普通に考えれば真ん中に立ってる私と会長なんだろうけど、私達優等生だもんね。日ごろの行いってとても大事!


 私だけならばともかく、会長にまで累が及ぶのを懸念した女の子たちがこぞって「篠崎さんがいきなり私に絡んで、野島さんがバケツの水をかけようとしたけれど失敗したらしい」と証言してくれた。

 こういう時、会長ってほんと役に立つよね。


 おかげで私はそのまま教室に戻され、篠崎さんと野島さんは校長室でお説教の上保護者呼び出しで厳重注意となった。

 どうやら聖水騒ぎも初犯じゃなかったらしいよ?


 二人のご両親が常識的な方で、娘たちの行動をきちんと制御してくれるといいんだけどなぁ……。


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