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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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5月の脇役そのいち

 5月。この月も先月に負けず劣らず憂鬱である。そもそも5月病という心の病があるのだから、無理も無かろう。


 私が5月を嫌う主な理由は、新しいクラスメイトとの交流を目的とした男女混合球技大会が毎年行われるからである。運動は苦手だし、嫌いだ。私は純粋なインドア派なのだ。

 それに、普段はノートやら宿題やらで頼れる人認識されているのに、こういう行事では唐突にクラスのお荷物になってしまうのも居心地悪い。やめて、そんな目で見ないで! 「どうしよう、これ」みたいな目で見ないでえぇ!

 球技大会じゃなければちょっとは活躍できるから。綱引きとかで。体育祭でがんばるから許して!


 とはいうものの、実施される競技の必要人数に比べ、クラスの頭数に若干名余裕があったので、私を含め戦力外通告された数名はそれぞれのチームに「補欠」として配属された。

 私はバレーボールの補欠である。私以外のチームメンバーは、例の生徒会長と、出席番号13番、中山 飛翔君、17番、根岸 きららさん、22番、福島 樹君、26番、水橋 奈々枝さん、33番、竜胆 宗太君の6人。


 幸い皆さんイキのよさそうな人たちなので、私は補欠として安心して見学していられるだろう。しかし全く我関せずでいるのはさすがにちょっと心証が悪いので、中山君がノリノリで「土曜の夕方コート予約できたから自主練しようぜ!」と言い出したとき、欠席したいとは言えなかった。


 さて、ある晴れた土曜日。嫌々ながらバレーの練習に向かおうと、割とギリギリな時間に家を出た私は、生徒会長からのメールに足を止めた。


 Frm:光山 海人

 Sb:悪いけど


 ゴメン、緊急で呼び出さ

 れました。

 なるべく早く戻るけど、

 オレは遅刻か、もしかす

 ると行けないって伝えて

 ください。

 

 P.S.お土産買ってくるよ


 お分かりだと思うが、光山というのは生徒会長のことである。

 先月の書庫の一件で、何故かメアドを交換する羽目になっていた。なんか良い様に便利な連絡係として認定されてしまった気がするんですけど、被害妄想でしょうかね?

 土産はいらんからあんまり気軽に話しかけないでほしい。

 最近一部で私たちが大変仲良しだという誤解も甚だしい噂が流れつつあるのだ。これでまた、嫉妬に駆られた誰かに襲撃されるなんて事件が起こったら末代まで祟ってやる。


 自分の運動神経とか運を過信していない私は、きちんと道の端っこで立ち止まってメールを読み、「了解」とだけ返信した。歩きながらこんな作業して、転んだり自転車に轢かれたりしたらどうする!


 さて、これだけなら大したタイムロスではなかったのだが、うっかり青信号を逃し、やたら長いと有名な赤信号に捉まってしまった。これで5分遅刻は決定だぁ……。


 そしてこの5分が私の明暗を分けた、らしい。どうせなら30分遅刻すれば良かった。


 私がやっと学校に到着したとき、ちょうど第二体育館の真上に何か見てはいけないものを見た気がした。なまじ動体視力に優れていたばっかりに!

 「それ」は言うなれば直径3メートルくらいの空気の塊みたいなもので、周りの風景を歪にゆがめながらものすごい勢いで落下した。これで私が全く普通の人間なら見間違いだと完結できるのだろうけど、残念な事にこの身は厄介ごとホイホイである。

 むしろ厄介ごとだったからこそ私が気付いたのだとも言える。


 第二体育館は、もともと目的地であった。つまり、あそこでバレーの自主練をしようということになっていた。ということは、あの中にはチームメイトの5人がいるはずだ。あぁ、とても嫌な予感がする。

 体育館自体に損傷はなさそうだったし、大きな音も聞こえなかったけれど、人体に無害だなんて保障はないじゃないか。紫外線だって目に見えないけど浴びすぎは皮膚癌の元なんだし。


 とにかく、引き返すわけにも行かないのでおそるおそる中をのぞいて見ると、倒れ伏している5人の姿があった。あーあーあー、トラブルだぁ……。


 5人の真上に、ふよふよ浮いている、なんか白い毛玉みたいな、点滅する物体はなんだろう。ケセランパセランとかですか? 幸福を授けて早くこの場から去って下さい。できればその5人が五体満足で生きていられるという保証を下さい。

 毛玉はふところ(?)から棒みたいなものを取り出してみんなに翳した、しばらくすると5人とも「うぅ……」とか言いながらなんとか上体を起こしたので私は心底ほっとした。で、あれはなぁに?


「許すなう。#%&$を追って、この星におちてしまったなう。巻き込むつもりはなかったなう」

 アレ、毛玉がいまなんか脳天から突き抜けたようなとんでもない高音でしゃべった?


「残念だが、今君たちは厳密に言うと死んでしまったなう。でも、@$%装置で君たちを修復したなう。この星にはない技術なう。感謝するなう」

 なうなううるせえええええ! しかも用法が微妙だ。


 現在進行形と現在地を表すのに使ってるだけでも多用されるとなんかイラっとくるのに、なんだその無茶苦茶な乱用は! っていうか星ってことは宇宙生物か。先月はファンタジーで今度はSFか。何なんだこの無節操ジャンル。

 あと、自分で巻き込んどいて感謝しろとか言ったよ。最近ああいう強引で一方的に偉そうなキャラが多いよね。あれ、ところで私の存在って認識されてる? 部外者としてそっと立ち去っていい?


 5人という人数と、一回死んで未知の生物に生き返らされた、となったら、たぶんアレだろう。5人戦隊。

 あの毛玉が追っかけてきた、発音不能な何かから地球を守るために戦うんだろう?うん、そうだよね。生命維持用の特殊な装置を取り付けられて、それについてる変な機能を使って変身したりするんだね。ガンバレ。

 できれば巨大ロボとかは出さない方向で、ぜひ。なるべく海の上とか空の彼方で戦って、地上の建造物に被害を出さないようにお願いします。


 毛玉は、概ね想像通りの説明をしてくれた。

 今の所予算の都合で大掛かりな武器などは支給されないそうだ。そもそも、あの謎の腕輪で体力のありそうな現地生物を適当に捕獲して手駒としてこき使うのも、元々の予定通りだったらしい。

 5個持ってるの変だと思ったんだ。にしてもなんてひどい話だろう。


 良かった、脇役体質で、と心の底から思った。

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