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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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12月の脇役そのいち

 12月。この月が憂鬱でない独り身の人間なんて、割合としては少ないのではなかろうか。街はどこも電飾できらきらと飾り立てられて大変うきうきするのだが、イルミネーションを一人で見に行くにはちょっと勇気が出ないというか……。女の子どうしで行っても、なんとなく居心地悪いし。


 しかしまぁ、良い事が一つあった。合格通知が来たのである。早々に手続きを済ませたので、あとは問題を起こさず、目立たず静かに卒業を待つだけとなった。そうすれば晴れて4月から私は都内の大学生。


 だから間違ってもまた階段から転げ落ちて人様の秘密など知ってしまわぬように慎重に、慎重に歩くようにしている。常に気配を読むのを怠らず、慎重に。

 ……つけられている、と気付いたのは期末試験の結果が出て、5人戦隊がなんとか全員追試に引っかからずに済んで一安心した頃だった。


 学校の中で視線を感じたのが最初。そのときは「また会長の噂絡みかなぁ」くらいに考えて放っておいたのだが、学校だけでなく帰り道も見張られているような気配がして、さすがに気味が悪くなってきた。

 最近色々あったからもしかして自意識過剰になってるのだろうかとも思ったが、それにしても気配を感じてしまうのだからこの居心地の悪さはいかんともしがたい。実際、さっと振り返ると誰かが物陰に隠れるような姿も何度か見たのだ。戻って確認はしなかったけど。(だって怖いもの)


 これってもしかしてダークフェアリーの何かなのかなぁ、それともストーカー? うぅん、どうしたものか。とりあえず防犯ブザーは持ってるけど心許ないよなぁ。

 ダークフェアリーもストーカーも、所詮性犯罪者(という認識って間違ってないと思う)なので、その方向に強そうな魔女っ娘にでも相談してみようかなぁ、と思い始めた頃、それは姿を現した。

 しかも自ら。


「いい加減正体を現したらどうなのっ!」

 どう考えてもこっちのセリフなのだが、そう言って電信柱の影から飛び出してきたのは、出席番号6番、篠崎 杏樹さんだった。そして、それを追うように18番、野島 翠さん、27番、村山 光君。……あの影に3人って、どうやって詰めていたんだろう。


 この3人とは、中学も一緒だった。同じクラスになった事は一度もなかったけれど篠崎さんはよく知っている。なんというかこう、エキセントリックな人柄で大変有名で。

 彼女に盲目的に付き従う野島さんも同じく有名で、さらにこの二人に振り回されて尻拭いして回る召使いのような村山君も、気の毒な事に有名だった。


 篠崎さんはなぁ、黙って穏やかに笑っていれば深窓の令嬢風の美人さんなんだよなぁ。腰より長いストレートの黒髪、切れ長の目、白い肌に華奢そうな体つき。振袖着せて飾っておきたいくらいには美人さんなんだけどなぁ。実際古い日本家屋に住んでるし。


 野島さんはショートボブをまっすぐ切りそろえて、いかにも気が強そうな目つきをした、凛々しい人だ。背が高くてちょっと威圧感がある。弓道部所属であるためか、常に静謐な空気をたたえているのだが……こと篠崎さんに関しては大変暴走しやすい。


 村山君は、いつも寝ているイメージしかないな。でなきゃ、篠崎さんや野島さんの被害者(変な難癖つける困った習性があるらしい)にぺこぺこあやまっているイメージ?気弱そうにうつむいて、おどおどと二人の後をついて回っている可哀想な男の子。


 まぁ実のところこの三人と同じクラスになった時点で、一回くらいは絡まれるかもなぁ、と覚悟してはいたんだけど。

 ところで、正体ってなんですか。


「しらばっくれないでよ! 盛沢さん、あなた人間じゃないでしょう!」

 篠崎さんはびしぃっ!と右手で私を指差した。左手は腰。仁王立ち。村山君が頭を抱えてしゃがみこんだ。野島さんは篠崎さんから一歩下がって控えつつも、私をぎろっと睨んでいる。えーっと、これ、どうしよう。

 予想を遥かに上回るレベルの難癖に私が言葉を失っていると、なんとか立ち直った村山君がさっそく私に平謝りし始めた。あぁぁ、あなた、その若さでなんて苦労性なの。


「ごめん、こいつちょっと勘違いしてるんだよ。ほんとごめん。盛沢さんがあんまりモテるから嫉妬して……イテっ」

 野島さんの突きが鳩尾に入った模様。

 しばらくおまちください、の状態に入ってしまった唯一の良心をフンと鼻を鳴らして一瞥すると、篠崎さんは改めて私にびしぃっ! と指を突きつけた。つまりそのポーズがお気に入りなのね。


「誤魔化しても無駄よ! 海人様に福島君、竜胆君、貫井おねーさま、氷見さん瀬名さん由良さんだけじゃ飽き足らず葉月さんの弟まで! アヤカシの力で魅了したんでしょう!」

 それはええと、うちのクラスの人気ランキング(男女混合)ですか。

 ほほぅ、確かに私と交流のある人ばかりですが……。福島君が入ってる事に驚いた。ゴメン。そして葉月弟はクラス外だったね。たまにクラスに紛れてるようだけど。


 でもさ、魅了って。アヤカシって。どうしよう、言いがかりだって説明してもきっと「誤魔化しても無駄よ!」で一蹴されてしまう。村山君、早く復活してぇぇ!

「代々陰陽師の家系である篠崎家の名において、成敗してくれる! えいっ」

「きゃっ」

 いきなり額にペタリと何かを貼り付けられた。いやあああ、何、何?


「やったわ、翠! ひるんでいるわ!」

「お見事です、杏樹お嬢様!」

 いきなり顔面に何か貼り付けられたら誰だってひるむわ! アホかお前ら!

 よく見たら人間ぽい形に切り抜かれたただの紙だったので、容赦なくぺいっとはがして捨てる。ち、こんなものに驚いて損した。


「くっ、手強いわね、これならどうっ?」

 今度は人型がいっぱい手をつないでいるタイプの切り絵だったので、無言でひったくって捨ててやった。そう何度も貼り付けられてたまるか。


 大体本物の妖怪をこんな、誰にでも作れそうな紙細工で一体どうしようってんだ。貫井さんだったらきっと視線で燃やしちゃうぞ。(いや、そんなことができるかどうかはわかんないけど、なんとなく)


「な、なんですって! これも効かない?」

「杏樹お嬢様、一旦引きましょう!」

 一旦とか言わずに、このまま退却しっぱなしにしてくれないかなぁ。

「む、無念だわっ……。行くわよ、いつまで転がってるの、ひかるっ!」

「こ、転がしたんだろーが! あーもー、ごめん、ほんとごめんね盛沢さんっ」

 そしてとりあえずの嵐は去った。まぁ、なんだ。

「受験終わってて良かった……」

 どうせこの騒ぎは長引くだろうから、このくらいしか安心できる点がない。


 しかし「代々続く陰陽師の家系」とか言ってたけど、本当なのかな、妄想なのかな?

 本当だとしたら相当なダメ陰陽師なんだろうなぁ。なんたって、「貫井おねーさま」こそが吸血鬼だぞ? なんで彼女はスルーで私を退治しようと思ったんだよ。


 そういえば、文化祭のお化け屋敷は彼女たちが主導だったよねぇ。

 あの、ありとあらゆる種類の御札とか護符だとかがベタベタベタベタ貼ってある内装は、お化け屋敷というよりは御札展示会って感じの出来だった。


 まぁ、上を気にして歩いていると床がいきなりぶにゅっとしてたりして、それなりにお化け屋敷らしい仕掛けになってはいたけど。そもそもお手伝いしていなかった私がどうこう言う話じゃないよね、うん。

 ただ、もしかしてあの御札も、アヤカシとやらをいぶりだすための仕掛けのつもりだったのかなぁ、とね。


 ところで、なんだって私が人外だと思ったんだ? うぅむ、解せぬ。


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