11月の脇役そのさん
「先輩、葉月君の事本気じゃないなら、からかうのやめてください!」
からかってない。なんだその設定。まさか、私が手を出した事になってるの?
「そうですよ、光山先輩と付き合ってるのに、なんでそんな酷い事するんですか! 光山先輩が可哀想です! わたし、軽蔑しました!」
付き合ってるとか断定された! そして軽蔑されたっ!
ルミちゃん(でいいんだよね?)はわっと泣き出してしまい、オトモダチの二人は私を稀代の悪女であるかのように攻め立てる。
あぁ、魔女裁判ってこんな気分だったんだろうなぁ。何を言っても聞いてもらえないこの空しさ。てゆーかさ、この二人はルミちゃんにかこつけて私を吊るし上げたいだけじゃないか? お前ら本命は会長だろ。ルミちゃんの恋愛は二の次だろ。
結局予鈴を聞いて我に返った三人は「とにかく、葉月君には手を出さないで下さい」と捨て台詞を残して中等部の校舎に走って行った。あの子達、4時間目をサボって私を待ち構えていたのかなぁ。
空腹を抱えて教室に戻ろうと屋上のドアノブに手をかけたら、何故か自動的に開いた。いやいや、これ自動ドアじゃないから。誰だ? って、考えるべくもなく、会長にきまってますよね、ですよねー。
「はい、お昼買って来たよ」
中途半端な優しさ!
「何でさっき助けてくれなかったんですか!」
「とりあえずフォレンディア行こう。オレの部屋から出なければ見つからずにすぐ帰って来られるから」
時差を利用して昼食をとれと。いい考えだな。
空腹と、会長が買ってきてくれたランチボックス(学食にて一日10個限定販売、1セット500円。日替わりホットサンドとフライドポテト、から揚げ一個にプチトマト入)につられて、私は久々にあちらに渡った。
急いで食べても学校に戻れば数秒も変わらないのでゆっくりできるのがありがたい。せっかくなのでついでに会長に文句を言う事にした。
「それで、なんで助けてくれなかったんですか」
ああいう子達って頭の中でシナリオができあがっちゃってて、真実を言っても理解してくれないから厄介なんですよ?
「オレ、これでも嫉妬したんだけどなぁ。だからちょっとくらい、盛沢さんにも浮気の反省して欲しくてね」
「はいはい、光山君の顔に泥を塗ってすみませんねぇ。だから最初から否定しとけば良かったのに」
あれだろ、彼女に浮気されたなんて不名誉な噂になっちゃったのが気に食わなかったんだろ。付き合ってもいないのに浮気とか、ほんと噂って無責任に人を傷つけるよね。
「そうじゃなくて。……キミって、わざと気が付かないふりしてるよね」
会長が大げさにため息をついてみせた。私は、てめぇの本意なんざ知るか、と最後のポテトを口に放り込んだ。ごちそうさま。
放課後。なんかざわざわしてるなぁ、と思いつつ校門に向かうとそこは修羅場だった。
「ちあきくんのことなんか、あの盛沢先輩が本気で相手にしてくれるわけないじゃんっ! なんでそれがわかんないのっ」
「るっさいなぁ。お前に関係ないだろ」
「関係あるもんっ! わたし、わたしっ」
お、言うか? 言うのかルミちゃん。と、他人事みたいに(実際他人事なんだが)眺めていると、タイミング悪く葉月弟君が私に気が付いて手を振った。
面倒になったのはよく分かるが、空気を読め! 今私まで巻き込んだら大変なことになるだろうが。(主に私が)しかし物見高い輩に一斉に注目されてしまったので逃げる事も適わず、私は覚悟を決めて二人の元へ向かった。
「……すごく目立ってるよ。場所を移しましょう」
今日もコーヒーショップでミルクティーと、キャラメルラテを二つ。この出費はあとで葉月さんに請求してやるんだ!
ここまで来ては今回の自分の役目が「意地っ張りの幼馴染同士の恋の鞘当」モノにでてくる当て馬役である事を認めるしかないと思う。当て馬役ってなんて損な役回りだろう。
ヒロインにしてみれば悪役と言って差し支えないポジションだし、ヒーローにとっては捨て駒と同義語である。特別手当とか支給されるべきだと思う。いや、マジで。あ、腹が立ったからドーナッツ追加してやろう。経費経費。
私はぐずぐず泣いてしゃべろうとしないルミちゃんに言ってやった。
「今は代わりに話してくれるお友達もいないんだから、しっかりしなさい」
まったくもう、私こういうキャラじゃないんですけどー? 年上だという余裕を見せたいがために穏やかにしてるけどな、本当はお前らまとめて校門前で逆さ磔にしたいくらいには腹立ててるんだよ? 分かってんのかね、んー?
ルミちゃんはぐずぐずすすり上げながらも、自分がいかに葉月弟君のことが好きであるかをやっと語りだした。
どうやらこの子達は小学校時代は大変べったりだったのに、ちょっとしたことで喧嘩してそのまま意地を張り続けて別々な中学に進学し、そのまま口もきかずに現在に至ったらしい。……へぇ。
これを聞いて、葉月弟君の態度はいきなり軟化した。「なんだよ、おれてっきり、お前にはもう嫌われてると思って……」とかなんとか。けっ。
そこで私はバカバカしくなって、席を立った。お邪魔虫は立ち去りますよー、だ。
はぁ、さすがにこう、疲れたというかがっかりしたというか。なんで私ってモテないんだろう。やっぱりこの性格かなぁ。一生懸命隠してるんだけど、雰囲気とかで滲み出ちゃってるのかなぁ。いつか王子様がとか期待せずに、次こそ告白されたら受けたほうが良いのかなぁ。次があれば、だけど。
とぼとぼとうつむいて歩いていると、大きな影が目に止まった。そのまま影の持ち主を辿ると、なんと竜胆君であった。
「大丈夫か?」
また唐突に。でも心配してくれてるんだね、ありがとう。
「先月も同じ事聞かれた気がする」
「……そうだな」
どうやら家まで送ってくれるつもりらしい。まぁ、ちょっと暗くなってきたもんね。(そろそろ彼の無言の意思表示を理解できるようになってきたぞ)
「そういえば、最近大気圏内で戦闘できるようになったとか聞いたけど……」
「あぁ」
「新しい武器の試作品支給されたんだって?」
「あぁ」
もうちょっと言葉を惜しまずなにかしゃべって欲しいなぁ……。なんか虚しくなってきたんだけど。
「ケセラン様元気?」
「……あぁ」
あ、いまの「あぁ」は忌々しそうだった!
「中間テスト、追試に引っかからなくて良かったね」
「あぁ、盛沢のおかげだ」
やっと二単語しゃべった!いやいや、礼には及ばんよ。でも恩に着てね。
などと色々実験しながら(どういう話題で竜胆君がまっとうにしゃべるか、の実験)家に着いた頃には、気持ちが少し晴れていた。
翌朝。学校に行くと、何故か『葉月さんの弟に頼まれて一芝居うって、中学生のカップルをとりもってあげた』事になっていた。えーっと?
葉月さんを見ると、ジェスチャーで「ごめんね」ってされてしまった。……うん、噂を修正してくれたんだね。しかたない、許してやるか。もともとアコガレの人だしな。
「あ、葉月さん、これ、必要経費ね!」
ただし、飲食代は徴収するからね? それに、こうしたほうが信憑性がでるでしょう? ねー? (にこっ)
「んふふー、くぅちゃん」
移動教室のため支度をしていると、貫井さんがのしかかってきた。くぅちゃん……。
「やーっぱり、くぅちゃんはこのままでいてねぇ。……じゃないと、おいしくなくなっちゃうから」
かぷぅっ、と軽く耳を噛んでそう言うと貫井さんはささっと離れていった。最近の彼女の行動はかなりせくはらだと思うんだ……。
このまま一生彼女のオヤツ扱いだったらどうしよう、と少し不安になった。い、いつかおうじさまが! 救ってくれると、いいなぁ。