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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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10月の脇役そのいち

 10月。体育祭の月であるから当然憂鬱だ。しかし球技大会よりは出番があるので嬉しいといえば嬉しい。少なくとも5月よりはずっと気分がいい。


 先月と違って実行委員に代理で出席する必要もなさそうだし(あ、よく見たら片方は氷見さんだ。でも魔女っ娘なら時間の融通きくよね)今月こそ心置きなく普通の生活がおくれそうだ。何せ来月は推薦入試本番だしな!


 そして期待通り、何事も起こらず(貫井さんの「血ぃ吸わせて」とか会長の「姫君達が会いたがってる」とか5人戦隊の「とうとう大気圏内で戦闘が可能に」とか魔女っ娘の「新しい種類のダークフェアリーが」とか、そういうのはもう日常と思うことでスルー。テスト終わるまではスルーだ!)体育祭当日になった。ふふふ、私のこの無駄な腕力を生かす時が来た!


 体育祭での私の出場競技は、基本「全員参加」のものだけで、まぁ借り物競争は避けられなかったもののそれ以外の走る競技はぜ~んぶパス! である。あとは綱引きと、騎馬戦と、ダンス(うちの体育の授業は半分がダンス。これのお蔭で私の体育の成績がそこそこ保たれているので大変ありがたい)と、せいぜい応援合戦の時に現場にいれば良さそうだ。


 中高合同の体育祭で大規模な分、第7グラウンドまで全てが会場になるので、誰がどこにいようととがめられる事は無い。というより把握のしようが無い。よしよし、日焼けしないように建物の中に避難しておこう。


 同じような事を考える人間は結構いて、なんとなく部活ごとにある程度まとまってサボる傾向がある。クラブ棟のように会場からちょっと離れている場所が狙い目で、文芸部と漫研合同で(兼部してる子達が結構多いからな)毎年一室をキープするのだ。


 どうせ誰かが暇つぶし用品を大量に持ち込んでるだろうと、私は手ぶらでその部屋に向かった。

 案の定、どうやって運んだのかと思われるほどの本が積んである。ラノベ、コミック、雑誌、同人誌。ご親切にも「ご自由にお読み下さいv 大事に扱ってねvv」と、可愛い女の子のイラストのふきだしで注意書きまでついている。見たところ漫研の子達はかたまって「萌え談義」をしているようだし、まぁ、じゃぁ遠慮なく。


 さて、何を読もうかな。できれば一日で読みきれるものがいいな。お勧めはなにかな~、と、軽い気持ちで、部屋の中で何か作業していた同じクラスの米良さんに声をかけたらものすごい大慌てで手元を隠された。というか、彼女が身体ごと机に覆いかぶさった。

 えーっと、インクで何か書いてたよね? 多分漫画を描いてたよね? 別に私、見て笑ったりしないのに。


「もももももも、盛沢さんっ?」

「あ、ごめん、驚かせて。あの、インクが服に付いちゃうよ?」

「うきゃあああああああああ!」

 米良さんとは、中学の頃から面識があった。

 ものすごく仲がよかったというわけではないけれど、私が読んでる本に興味をもって、たまに声をかけてきたりしたからそこそこの交流はある。彼女の、漫画家になりたいという夢だって知っているし、今更そんなに動揺されるいわれは無い、はずだ。


 米良さんはさっき伏せた勢いそのままに、今度はがばっと立ち上がった。

 相変わらず一々仕草がダイナミックだなぁ、と感心している場合ではない。立ち上がった勢いで椅子が倒れ、椅子の脚が机の脚にひっかかり、机が大きく揺れて今度はインクの瓶が机から落ち、積んであった漫画の原稿がばら撒かれた。すごい連鎖だ。ドミノ倒し見てるみたいだ。米良さんって自滅タイプだよなぁ。本人が漫画みたいだ。


 私の目の前をひらりと、一枚の紙が横切った。どうやら表紙らしく『姫事~ひめごと~』というタイトルに、胸の大きな可愛い女の子があられもない格好で寝そべっていた、ように見えた。

 ……うん、まぁ、見られたくなかった気持ちはわかった。

「み、見た?」

「あー、えっと、ごめん?」

 不可抗力ですよ。


「ううん、あの、こっちこそごめんね、勝手にモデルにしちゃって」

 ほわっつ?

「え、え、私?」

「あれ、わかんなかった?」

 うわ~、余計な事白状しちゃった~、と米良さんは頭をかいた。


 どうしよう、ここは肖像権の侵害とかを主張していいのだろうか。

 しかし、申告されるまであの可愛子ちゃん(古っ)が私だなんてわかんなかったし、まさか本名使われてはいないだろうし、法的には問題なさそうな気がしなくも……。いや、これはもう気分の問題だ!

 大変美化して描いてくれているのはありがたいが、その、内容はどういったものなのか知りたいような絶対知りたくないような? 表紙とタイトルからしてかなりアレだ、不安だ。


「えっと、とりあえず拾おうか?それとも、手伝わない方がいい?」

 私に見られたくないのであれば、席をはずした方がいいだろう。どうせ既に漫研の子たちがわらわらと集まって拾い始めているし。インク拭くのに、雑巾でも絞ってくるか。


「ううん、むしろこうなったら、取材させて欲しいことがあるの!」

 すげー嫌な予感がする。先月もこんなパターンを経験した気がする。

 なんでみんな「バレちゃったからには」って開き直るんだろう。


「実はこのお話は、盛沢さんと光山君が主人公なんだ! あ、もちろん名前とかは違うんだけど」

 あぁ、お前もか……。みんな噂を信じすぎだよ、もうちょっと曇りなき眼で見据えてよ。

 どう見たって私達、よそよそしいだろうがよ!

「で、あの、光山君って、優しい? 鬼畜?」

 それは、性格の事ですよね? そうですよね? なんでそんなもじもじしながら聞くんだ。


 くそぅ、こうなったらなんとしても否定してやる。

「あのね、噂がどうなってるのかは知らないんだけど、私と光山君が付き合ってるというのはデタラメなの。ちょっと困ってるんだ、だって私……」

 ここで、ちょっと躊躇って目をそらす。少し恥ずかしそうに視線を戻して。

「他に、好きな人、いるから」

 どうだ、チクショー! 捨て身の作戦だぞ!


 広がりきった噂は新しい噂で打ち消すしかない。多少好奇の目で見られるハメになろうと(どうせ今だってそうだもん)会長の都合に振り回されるよりはマシさ。でも相手は誰かなんて聞かないで。(架空のヒトだから)


「そうだったんだ……」

 米良さんは考え込んでしまった。

 周りで聞き耳立ててた人たちも相手は誰だろうって顔してる。よしよし、そうやって相手探しついでに新しい噂を流してくれたまえ。


 まぁ、私と会長を題材に漫画を描いていたらしい米良さんにはちょっと悪かったかもしれないけど、勝手に人をモデルにするからだよ。そう思い通りにはいかないよ。いい経験だったね! と前向きにとらえていただきたい。

だ が、米良さんは別な方向に向かって前向きだった。


「じゃぁ、やっぱり鬼畜系の略奪愛モノにするね!」

「……プライバシーの侵害とかだけは、勘弁してね」

 そして心の平安のために、頼むから私には見せてくれるな、とお願いしておいた。あとは彼女の良心に任せるしかない、ね……。


 気を取り直してお勧めの作品を聞いてみる。もともとこれが聞きたいだけだったのに、どうしていつも私って、知らなくていいこと知っちゃうんだろう。ケセラン様より性質の悪い何かに取り憑かれてない?


「あ、じゃぁイチオシはこれ!『Reincarnation of the last edge』っていうの。これに出てくる『クローバー』ってキャラがちょーかっこよくて!」

 あ、火がついてしまった。


 それから米良さんは止まることなく、いかにその漫画が面白くてかっこよくて素晴らしいかをしゃべり続けた。結局実物を読むこともできぬまま、借り物競争の準備を促す放送が入るまで捕まっていた。

 すごく、つかれた。


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