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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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4月の脇役そのに

 突然だが、私は文芸部員である。

 文芸部といっても部誌を発行したりお互いの作品を批評しあったりするような活動は廃れて久しく、現在の主な活動は図書室での読書で、必ずどこかの部活に所属しなくてはいけないと決められているこの高校において幽霊部員を大量に抱える隠れ帰宅部となっている。

 そんな中、純粋に本が好きで文芸部に所属しているのは私と、うちのクラスでいうなら根岸さんくらいだろう。


 部活動ついでに委員会活動の評価が得られるので、私は3年間図書委員に立候補することにしている。この学校はやたら委員会活動の種類が細分化しており、クラスのなかでどこにも所属しないで済む人間は数人しかいない。

 よって、なるべく楽な委員か、そうでなければ活動期間がごく限定されている委員をさっさと引き受ける方が結果としてお得なのだ。


 一石二鳥のおいしいはずのお仕事現場で、その事件は起こってしまった。


 図書委員には、今月入った新刊に綺麗にカバーを貼り付けて、管理用シールを貼る仕事がある。

 私はこういう仕事が好きだ。大好きだ!ねちっこい性格なので、誰よりも綺麗に仕上げる自信がある。


 3年目の実績を買われ、現在これは私専用のお仕事と認識されている。4月の新刊は雑誌を含め15冊。まぁ、春休みの間にリクエストとか無かったから、こんなものか。(ところで、毎月入れている雑誌がやたらマニアックなのは何故だろう)

 と、それは今更どうでもいいのでお仕事お仕事。カバーの在庫はまだ十分にあるはずだな、といささか浮かれつつ、何の疑問もなしに図書室カウンター奥の書庫の扉を開けた。


 さて。扉の奥は書庫とは名ばかりで、主に図書及び何故か生徒会関係の倉庫と化している。

 置き場所の無い書類の山が彷徨い、ここにたどり着いたのだと思うと感慨深い。さぞ色々な場所をたらいまわしにされて来たのだろう……。過去の役員選挙の集計票とかがな!

 お陰で古い書籍などをためておく事が出来ず、過去5年貸し出しの無かった娯楽系の小説は年に一度、文化祭でバザーに出されるのだ。売り上げは新刊の購入に充てられるので大変効率のいいシステムと言えまいか?

 そう考えれば、このいかにもゴミである書類の束とてそれなりの貢献をしているわけだ。


 しかし、いかに生徒会関係資料といえども、所詮は現在の活動に不要とされている準ゴミであるからして、本来ここに生徒会の役員が出入りする必要はないと思うんですよせんせー。

 だから図書委員以外がこの部屋の鍵を持っていて、勝手に出入りするのはおもしろくないんですよ、わかってくださいせんせえ!


 果たして書庫で遭遇した、見てはいけないものとは、決して生徒同士や先生達のきゃーいやんえっち、な光景ではなかった。

 むしろそうであれば、わたしはそーっと扉を閉じて、やがて来る「お願い、誰にも言わないで」やら「違うんだよ、誤解なんだ、あれは……」みたいなあほらしい言い訳に備えているだけで済んだのだ。


 あぁ、気づかれない、ってのはナシ。何せ私は他人様のストーリーのスパイス役なので、スリルやらお悩みやらの種として機能せざるを得ないのだ。納得はいかないが。


 で、そうそう、いい加減何を見たのかはっきりしよう。それはいかにもな魔方陣の上で浮いている、光をまとった生徒会長であった。

 ……いやいやいや。ちょっと待ってよ。まさかのファンタジー? とうとうそっちまで行っちゃうの? 今までの人生が平凡だったと思えるような事態に発展しちゃうの?


 もう頭はパニックである。パニックではあるが、この場合「ありえないものを見てしまったことによるパニック」ではなく、「私の生活に新要素が加わってしまった事に対するパニック」だ。

 頭の中の大混乱に反して、私は表面上冷静であった、と思う。だって、もう予想外のできごとに慣れきってるから! 私は強い子、私は大丈夫。と、暗示をかける。


 にしても、だ。せいぜいハーレクイン物のヒーローだと思っていたのにファンタジーとは……。敵ながら天晴れだ、出席番号5番、光山 海人君!

 それで、ファンタジーの、何なの? 悪魔なの? 魔法使いなの? 異世界人なの? たしかに、同じ人間にしては何もかもでき過ぎだから、おかしいと思ってたのよ。日本人離れした外見だし、カイトとか、とってもグローバルなお名前だし。


 やがて光が薄れ、足が床に着くと、やっと生徒会長は目を開いた。そこで私を見つけぱちぱちと瞬きをする。私がいるのが信じられない、というように。むしろそれはこっちのセリフだ!


 しかし、ここはなるべく穏便に済ませねばなるまい。下手すると、「知られたからには生かしておけぬ」とか言われちゃうかもしれないし。

 レギュラーではない脇役には主人公補正どころか主要脇役補正さえ無いので簡単に死んじゃうんですよーう。

「……やぁ、盛沢さん」

 素早く立ち直った生徒会長がうさんくさくにっこり笑って、長めの前髪をそっと払うのを、私は警戒しながら観察した。


 この、うさんくさい、というのは私の敵対フィルターのせいなのかもしれないが。

 私はこの男の劣化版の型落ちみたいな人間なので、どうしてもこいつがいけ好かないのである。仕方ないじゃない、にんげんだもの。

「見つかっちゃったみたいだね」

 大して危機感が感じられない口調だ。帰り道で猫に話しかけてるところを見られちゃった、てへ、恥ずかしい。位の。


 あ、でも、ちっちゃくて可愛い女の子だったらともかく、こういうパーフェクト系の男子高校生がやったらどうだろう、人としてドン引きするべきだろうか、でも案外キュンとしそうだ、ちくしょう!


「あぁ、うん、すごく綺麗だったね?」

 とりあえず差し支えないと思われる受け応えで、なるべく、動揺してませんよ~、言いふらしたりしませんよ~、こういうことに異常に寛容な不思議ちゃんですよ~、むしろ憧れてましたよ~、という印象を作るべく努力する。


 こんな時、童顔で背が低くて声が可愛らしいという私の武器が役に立つはずだ。

 首をちょっとかしげて、心持ち感動を秘めたような声で、と意識する。左手を軽く握ってそっと唇に当て、惚けた様に。私は女優。


「盛沢さんは、文芸部だったっけ? ファンタジー小説とか、よく読むの?」

 それはあれか、どんな非現実でもすぐに信じちゃいそうなおめでたい頭の作りしてるなぁと言っているのか。

 私がいまどんなにがんばって演技していると思う! そもそもおめでたい登場をしたのはお前の方だ! な~んて、言いませんよ、ええ、言いませんとも。


「そうね、ファンタジーは好き」

「でも、びっくりしたでしょう?」

「うん、でも、なんか、そんな違和感無くって。あぁ、そうなんだ~って思っちゃった」

 これは本音。光って浮く男子高校生が違和感無いとか、いい加減にしてほしいが。

 ちょっと色素が薄くて、手足もすらりと長いので、なんだか許せてしまう。(ビジュアル的に)


「実はね、オレ……」

 きゃああああ、いいから! 内情とか知りたくないから! この先この件に関わる気はないからあぁぁ! てゆーか「見られてしまったからにはもうこの世界にはいられない」とか言ってくれないだろうか。もしくは、記憶を消すとかで穏便に済ませてもらえないだろうか。


「一年の頃から、ある場所に召喚されて、色々問題を片付けてるんだ。バイトみたいな感じかな」

 ……へぇ。

 ってことはあんたは地球人の普通の人間で、そのスペックは自前なんだ。っていうか、「召喚」とかふつーに言っちゃうんだ。


「今日はどうしても、急いで来てほしいって連絡があったから。ここって滅多に人が来ないと思ってたんだけど……」

 まぁ、図書委員とてしょっちゅう出入りする部屋ではないからね。埃っぽいし、狭いし。

 

 鍵を持っている生徒は、私と、あとはこの会長くらい? なるほど、私もだが会長も間が悪かったというわけだ。こういう隠れヒーローって、慣れてくるとウッカリ正体がバレるよね……ヒロインとかに。

 んん?ヒロイン?

 え、うそ、もしかして私、とうとうヒロインになった? よりによって相手が(一方的に)目の敵にしていた相手だけど、あれ、うれしいかも。外見は好みだし! それに最初は嫌いだったけどだんだん……とか、それはそれでアリだよね!


「まぁ、姫君の誕生日で、どうしてもエスコートしてほしいって用件だったんだけどね」

 苦笑するこの男の顔面を蹴り倒してやりたい。

 期待させやがって、なんだ、あっちで既によろしくやってるんじゃないか。他人の物件にはこれっぽっちも興味ねーよ! べっ、別に残念だなんて思ってないんだからねっ! コイツむかつくし。


 あとは、会長がペラペラと事情を説明するのを聞かされた。きっと、一人で秘密を抱えていていい加減ストレスが溜まっていたのだろう。


 彼は高一の春、たまたまよくわかんない星の並びとか魔力の暴走とかのきっかけでなんとかっていう世界に召喚されてしまい、たまたま刺客に襲われていた姫君を救った。

 しばらく帰り方が分からなくてその国で過ごすうちに、何故か政治の陰謀やら近隣諸国との軋轢やらを、こちらの世界ならではの柔軟な考え方で次々と解決してしまい、今では国王の政治アドバイザーみたいな地位についている、らしい。


 おいおい、若干18歳にして宰相ですか。あんたがすごすぎるのか、それともその国がダメすぎるのか。

 幸い、そうこうしているうちに帰り方が確立し、更に自由に行き来できるようになった、と。

 いつでも連絡が取れるように、と魔法具をもたされて戻ってくると、なんとあちらに一ヶ月いたはずが、こちらでは数時間しか経っていなかった。うわぁ、なんて都合の良い設定でしょう。


 以来、緊急時以外は金曜の夜から日曜の夕方を目安に、あちらとこちらを行き来しているのだそうな。どうりで他の生徒より老成しているわけだ。異世界で過ごしている時間分、余計に年をとっているに違いない。

 しかしそんな生活でいつ勉強してるんだろう……なんて聞くと思ったか! どうせ「一回教科書読めば理解できちゃうんだ」とか、そういうタイプだろう。きぃ、くやしい。


 最近姫君達(3人もいるそうな)のわがままに振り回されがちで苦労しているようだ。「女の子の心理って、よくわからなくて、相談できる友達がほしかったんだ」とか言われちゃったよ?何でお前のハーレム管理の相談役をせねばならんのかと小一時間……。


 そゆわけで、今度は異世界トリップ(チート気味)の主人公の、事情を知っている友達、というお役目をいただいてしまいましたのでございます。

 結局、脇役の分際で主人公達をコントロールしようなんて、無謀だと思い知りました……。

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