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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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8月の脇役そのじゅうなな

 会長はクラスのみんなの世間話をひとしきりした後、やっと帰っていった。……なんか色々、気が付いていそうだったなぁ。うちの庭のほうもじっと見ていたし。あぁ怖い怖い。

 現在朝の6時。一応こっそりと周囲の様子をうかがってから追い出したので、多分目撃者はなかろう。や、ほんと噂とか勘弁して欲しいから。

 っていうかさ、魔法で姿消したり記憶いじったりできなかったんだろうか、と、一息ついてから気が付いた。今更だけど。あと、朝の6時に帰るのと4時に帰るのじゃ、そんなに違いますかね?


 8月はまだ半ばで、夏休みはまだ続く。二週間分余計にあったので、なんだか明日からもう新学期でいいような気さえするが。

 いや、いかんいかん、その前に5人戦隊の宿題見てあげるんだった。

 あと、あの3人娘にもしっかり釘を刺さねばなるまい。よけーなことペラペラしゃべってると、そのうち正体がばれるぞ! ってね。あぁそうそう、その前に会長に悪い妖精さんが憑いていないかどうか確かめてもらわねば。


 週明けて、私はあの、因縁のある図書館に来ていた。うぅ、なんだか思い出すだけで胃がキリキリする。

 結局、穂積さんはまだ帰ってこない。彼女は図書館で私達と話す前から、「光山君と盛沢さんについて」色々他のみんなに聞いて回っていたようで(まぁ多分私達の様子を窺いたかったんだろうけど、残念な事に会長に片思いしてると解釈されていたようだよ、穂積さん……)進路のお悩みと失恋による傷心で家出したのではないか、と警察は結論付けたようだ。

 まるで私が悪いみたいな結論だよね。しかもそれに関しては無実なのに。


 ご家族も「そういえば最近思いつめたような感じで、ぼんやりしていた」と証言し、(それ、夢と現の境が曖昧になってたせいだよ! 眠かったんだよ)私達は特に疑われる事無く、打ち合わせておいた内容のお話をするだけで済んだ。


 う、良心がちくちくする。ちくちくするけど、「穂積さんは図書館から巫女姫としてトリップしましたぁ」とか言えない。私にできるのは、せめて彼女が無事に逆ハーレムを完成させられるよう祈……じゃない、なんとかうまくやっているように祈るだけだ。

 会長も、様子見ついでに手紙の一つも書かせて持ってきてくれればいいんだけどな。


 で、まぁ、あんまり縁起がいいと言えない図書館にわざわざ来たのは、もちろん5人戦隊の宿題をみるためである。そして、もうひとつ。私はケセラン様にどうしてもおうかがいしたい事があった。


「お久しぶり」

「あ、盛沢、久しぶり~」

 人懐っこい笑顔で駆け寄ってくる中山君に、なんだかほっとした。

 お馬鹿な犬みたいでなかなか可愛いじゃぁないか。素直そうで。

「盛沢さん、お久しぶり。ごめんなさいね、こんな事のために」

 いやいや根岸さん。宿題はこんな事じゃないよ。

 高校3年の夏って大事だよ。特に内部受験組には評価対象の一つらしいしね。あれ、ところでメガネ変えた?

「ほんと、助かるよぉ。私もう、数学どうしたらいいかわかんなくて」

 水橋さんは何故かもう既に半泣きだ。

 自分でやろうと努力はしたんだね。うん、良い子だね。

「……悪いな」

 竜胆君! 相変わらず良いお声で。

 でも貴方は、見た目に反してどうせ宿題手付かずなんだよね? 水橋さん見習おうね。中山君にも言えることだけど。

「……なんか、盛沢と光山、穂積の事でケーサツに色々聞かれたらしいね? あれからどうなったの」

 おぉっと、聞かれたくないことを、福島君。

 あぁそうか、あなたは穂積さんと同じ美術部だもんね。連絡とか回りやすいのか。


 福島君以外の4人も大変興味があるようで、私を見つめている。宿題しに来たんじゃなかったですかー?

「実の所、私にもさっぱりなの。先週この図書館の入り口で鉢合わせて、なんだか悩んでるみたいだったからちょっと話はしたんだけど、それだけ。光山君も同じようなこと言ってるみたい」

 まぁ、会長が考えたシナリオですからね。同じになるの当たり前なんだけどね。

 穂積さん、かむばーっく。


 既に超常現象に巻き込まれているこの5人に話しても、信じてはもらえるかもしれないけど(どうかな?)なし崩し的に会長の秘密まで話す事になりそうだ。

 私は話したくてうずうずしてるんだけど、なんか後が怖そうなんだよね。

 うん、ここはやはり口を噤んでおくべきだ。本能に従おう。


「……無事に帰って来てくれると良いね」

 そうだね。でも、一番無事じゃないの、君達だから。私が知る限り一番不憫なの、君達だから……! 穂積さんにはケセラン様が憑いていないっていうだけで、あなた達よりは幸せだから!


 あぁ、しかし、ケセラン様だって使いようがあるかもしれないのだ。

「うん、そうだね……。あの、と、ところで」

 けほん。咳払いを一つ。

「ケセラン様は、お元気であらせられますか?」

「どうしたの、急に」

 根岸さんが、完熟メロンのカラシ和えを食べさせられたような顔をした。そういう食べ物があればの話、だけど。よほどあの毛玉に思うところがあるんだなぁ。さもありなん。

「ちょっと、その……」

 私は戦隊の女の子メンバーだけを招き寄せた。


「楽にダイエットできる機械とかもってないかなぁ、と」

 ひそひそ。

 お恥ずかしながら二週間に渡る食っちゃ寝生活で、ちょっと、こう……。

 毎日エステもかくやというくらいむにむにとマッサージされていたおかげでそこまで体型が変わったわけではないが、制服のスカートを試してみたら若干違和感がね?


「あー、それ、私も欲しいかも……。あと、頭が良くなる機械とか、記憶力が良くなる機械とか……」

 水橋さんが同意してくれた。ちょっと目がうつろだけど。大丈夫かしらこのこ。

 でも、そうだよね、欲しいよね。そんなものがあったら便利だよね。もしも叶えてくれるなら、私はケセラン様に魂を売り渡しても……あ、やっぱりやだ、そこまではやだ。でも跪いて感謝くらいはする。


 しかし根岸さんは鼻で笑ってそんな乙女の夢をバッサリ切り捨てた。

「あの有害生物がそんな良いもの持ってるわけ無いわ」

 ……デスヨネー。


 そうして、結局地道な努力を余儀なくされたわけです。くっそー、これも全て会長のせい!


 お勉強会は5日に渡った。途中緊急呼び出しがあって中断、そのまま解散されたり、水橋さんがそれこそ思いつめて泣き出してしまったりと散々な経過を辿ったものの、なんとか全員分が形になった。

 ……私は約束を果たしたぞー!


 あとは、我が家の警備と称して上がりこみ、宿題を写させてとねだる魔女っ娘達にきっちり会長のことでお説教をしたり(でもニヤニヤされるだけであんまり効果が無かった気がする)、会長に悪い妖精さんがついていないかいやむしろついているべきだという期待をキュピルに全否定されたり(あのキャベツにまで変な勘違いされていることに愕然とした。「素直になれないなら協力するきゅぴ~」とか言われて思わず千切りにするべく包丁を取りにいくところだった)、なんだかなし崩し的に一緒にショッピングに行ったり、映画を見に行ったり……アレ、いつのまにか私、馴染んでる?

 そういえばクラスメイト達とプライベートをこんな風に過ごすの、中学3年以来かもしれない。あぁ、私、今女子高生してる!


 と、案外楽しい残りの8月を送ったのであった。果物で懐柔されたわけでは、決して、ない。


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