8月の脇役そのじゅうよん
「つまりあなたは、カイトのプロポーズが気に食わないという理由で受け入れず、あろうことかその場で口論までしたのですか?」
うわぁお、会長贔屓が過ぎるせいかルビア様が曲解してしまった。あんたどっちの味方だ!
あ、うん、わかってるけど、でもね、私本当はあなたの味方なのよ? あなたを推したいのよ? その辺察していただけるとやりやすいんですがね?
自分が惚れている相手のプロポーズを無碍にしたと聞かされたら(誤解だが)面白くない気持ちはわかるけど、これぞチャンスじゃないですか。亀裂の入った恋人たちの間にするっと入り込もうとしてよ。
「いえ、ちょっと強引だったので、彼女はひどく照れてしまったんですよ。オレが悪かったんです」
お前が悪いのは確実だがほんとにこう……ずっるい男だなぁ。ここで私がはっきりと、てめぇが悪いって言い切ったら、また姫君達に睨まれてしまうじゃないか。
姫君達って言うか、ルビア様に。
「あの、どちらが悪いとか、そういう話でさえなくて……」
「それにさっき、仲直りしましたから」
私はケセラン様に魂を売ってでも、この男に対抗する力を手に入れるべきなのではないだろうか。
いいよ、紫でも緑でも銀でも黄色でも、いっそのことツートンカラーの全身スーツを身に纏ってもいいよ。ケセラン様、私に力をおおおおぉ!
は、いけないわ、一生を棒に振ってしまうわ。でも、いや、でも、うぅ。
もしかして会長にこそ悪い妖精さん取り付いてんじゃない? あっちに帰ったらちょっと、女王親衛隊とキュピルに相談してみよう……。そしてできる事なら袋叩きにしてもらおう。その時は私も嬉々として参加しよう。ひゃっほー! げしっ! (想像で蹴り倒した音)
「あの、私の話を……」
「ねぇ、カイトは何てプロポーズしたのぉ?強引だったって、……きゃー」
何を想像した、リリア様。
「あらあらぁ、リリアったらはしたないですわ。ルビアも、気持ちはわかりますけどもう少し落ち着きなさいな」
れ、レミア様ぁっ!
天使! あなた天使! ごめんなさい、ぼんやりしててテンポ遅くて使えなそうとか思っててごめんなさい! あなたこそが3姉妹のブレーキ役だったんですね。
そうだよね、ブレーキって大事だよね。アクセルよりブレーキの方が人命を救うよね!
よし、私はルビア派改めレミア派になるぞー。
「わたくし、あなたにお会いできるのを楽しみにしていましたのよ?」
レミア様は流石、国王陛下の第一子なだけあって懐が深くていらっしゃる。
「私も、学校で姫君方のお話を聞くたびに、きっと素敵な方たちなのだろうと想像しておりました。実際にお会いできて光栄です」
ここは、会長が姫様達のことを「良い印象で」私に話していた事をアピールする。
嫌われているわけでは無いと確信すれば、まだまだプッシュしやすかろう。
「まぁ、嬉しいですわ」
思ったとおり、レミア様はぽっと頬を赤らめ微笑んだ。ルビア様も赤くなって俯いてるし、リリア様にいたっては「きゃー」と身悶えしている。よしよし、効果があったな。
「あ、あなたの事も聞いていますわ。見た目よりしっかりしていて、頭もよく回るって」
ルビア様はあれか、ツンデレキャラなのか。赤くなって俯いてそっぽ向いたまま、ぶっきらぼうにそんなこと言われると思わず微笑ましい気持ちになっちゃいますよ。
「ありがとうございます」
「でも、本当に小さいわねぇ。18歳なんでしょう?わたくしより年上なのに。……まぁ、身体は育ってるみたいだけど」
リリア様はもうちょっと、歯に衣を着せる言い方を学んだ方がいいですよ、将来のために。
うふふ……。胸をじっと見るな!
「正確にはまだ17です。5ヵ月後に18になります」
まぁ、だからといって私の背がこれから伸びるか、というと絶望的だろうがね。
「まぁ、ではルビアと同い年ですのね」
「そうなのですか」
そういや年齢聞いてなかったな。
こっちの適齢期は知らないが、話に聞く文化レベルや色々から考えると、まぁ早婚だろう。
次女が17という事は、長女はもちろんそれより上。三女も、背格好からして15は超えていそうだから、なるほど、ここの王様が焦って会長に結婚の話を持ちかけたわけだ。
三姉妹とも今が売り出し時で、特に長女にはそろそろ時間が無いという事ですな?
尚の事、レミア様推したくなってきた。
「地球でも、オレ達の人種は身体も小さくて、幼く見えるほうなんです。その中でも、クミは小さくて童顔ですね。可愛いでしょう?」
おぉっと、会長まさかのロリコン発言か? いやむしろ、見た目が大人っぽいお姫様達に対する牽制か!
「でもカイトは、こちらでもそんなに背が低いようには見えませんわ」
「オレは、少し外国の血も混じってるんです。それに、個人差がありますから」
初めて知りましたよ。今更驚かないけど。
そうでしたか、やはり、色素が薄いのはそういう理由ですか。180センチくらいある身長もそのお陰ですか、うらやましい。
ちなみに私はどこまで遡っても日本人なのだが、何故か突然変異みたいに色素が薄かった。親戚中で不思議がられるが、顔の作りは母に、パーツは父にそっくり(そう、このぱっちり二重でまつげが長いお目目はなんと父譲りなのだ)で、うっかり取り違えられたわけでもなさそうなのだ。
不思議ねぇ、遺伝子って。
って、民族の特長とかどうでもいいよ。そんな話がしたいわけじゃないんだ、お互いに。
私はこの面倒な男を姫君達に進呈したい。姫君達は私からこの男を取り戻したい。
双方の望みは、実は一致していて解決法もシンプルだ。……本人の邪魔さえ入らなければ簡単なんだよなぁ。
私は思い切って、姿勢を正し、切り出した。
「あの、カイト君は、姫君方にとって、とても大切な人なんですよね?」
よーし、遮られずに言えたぞ。
会長ラブが過ぎるこの人たちの前で「実はコイツまじでいらないから引き取って」とか言ったら、またさっきのやり取りが再発しかねないので、今度はちょっと遠まわしに行く事にする。
名付けて「私は身を引きます」大作戦だ。
「えぇ。わたくしたちにとっても、この国にとっても、カイトは大切よ」
「それなら、私の存在は、あまり面白くは無かったでしょう?」
「……そうね、初めて聞いたときには、足元が崩れ去るような気持ちになったわ」
ルビア様が、私の様子が改まったのを感じて、同じく姿勢を正した。
会長が苦笑した気配がする。ちくしょー、見てろよ。
「カイト君は、学校でもとても人気があります。何でもできるし、優しいし、かっこいいから……。私はいつも、どうしても引け目に感じてしまうんです。彼の隣に立つには、私は未熟で、つまらない人間です」
うるっと瞳を潤ませて、姫君方に縋るような視線を向けた。
「だから、彼にとってふさわしい女性が彼を愛して下さるなら、私、いつでも……」
「クミ、オレには君だけだよ?」
身を引きます、までみなまで言わせず会長が遮ったが、この流れで続く一言が分からないほど、このお姫様達は馬鹿ではあるまい。はーっはっはっは!
重い沈黙が流れた。あぁ、この状況って、人前で別れ話をする傍若無人なカップルみたいだ。でもこの話は、今、ここで、彼女たちの前でしなくては意味を成さない。さぁ、もってけ姫君!
俯いて何かを堪えるように(沈黙と会長のプレッシャーに堪えています)待っていると、レミア様が口を開いた。