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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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8月の脇役そのじゅうに

 翌朝だか翌々日の朝だか。今はいつだ、ここはどこだ。いや、たぶん場所はあれだ、ふぉ、ふぉ……フォディなんとか?


 何の前触れも無く、説明も無く、会長は私を連れてこちらの世界に「跳んだ」らしい。

 ちくしょー、途中退場かよ。いくら脇役だからってそりゃないよ。


 まぁ、最後まで見届けられたとしても生贄になるまでだから、そんなに変わらないか……いや、でも、そこに謎の美形のおにーさんが現れて私をさらって逃げてくれたかもしれないじゃないか。会長め、余計な事をっ。(何が何でも素直に感謝なんかしないんだからねっ!)


 彼は本来の手順を無視して強引に「跳んだ」らしい。最初にトリップした時より頭がぐるぐるした。

 お陰でひどい乗り物酔いみたいな状態になった私は、とりあえず説明はあと、ということでまたしても王宮の客室で寝かされた。そのまま泥のように眠った気がする。


 喉がものすごーく乾いているから、もしかすると丸一日くらい寝ていたんじゃないだろうか。ありがたいことにサイドテーブルに水差しとコップが用意してあったので遠慮なくいただいた。

 水を甘く感じるなんて、脱水になりかけてたのかな? お風呂入ってしゃきっとしたい所だけど、起きたことがバレたらまたまた面倒なことが始まるんだろうなぁ。


 面倒な事。

 そう、例の、「頼みごと」だ。全ての元凶であるあのメールは、やはり気付かないふり、長く留守にしているふりでかわすべきものだったのだ。


 先日、朝食の席でそれはもうさりげなく、なんでもないことのように告げられた頼みごととは、果たして……。「こいびとのふり」であった。


 なんとなく予想はついていたけど、お姫様たちの求婚(なんという贅沢な響き!)をかわす為に、適当に「実は好きな人がいて」とかなんとか言ってしまい、じゃぁ会わせろということになった、らしい。

 モテる男は辛いねー。(棒読み)でも、なんでそんなベタな言い訳しか思いつかなかったんだ、頭いいのに。

 せめて「親が決めた婚約者がいて、実際にはまだ面識は無いけれど、その相手を裏切れない」とかさぁ。そしたら実物連れて来いって言われても断りようがあっただろうにさぁ。

 クラスメイトとか、具体的に近くにいるのに約束もない相手じゃぁ姫様方が騒ぐのも無理ないですよ。「大した事ない相手じゃ納得行かない!」って思いますよ。


 あー、このまま帰りたい。寝てる間に元の世界に戻してくれたらいいのに、そうしたらいっそ全てを夢落ちということで忘れてしまえるのに、とベッドに突っ伏していたら、ノックもなしに会長が入ってきた。

 

 紳士にはあるまじき行為じゃありませんか? もしかしてだんだん私の扱いがぞんざいになってきてる? (勝手に操られたこともあったし)

 いや、あのね。私、寝起きだしさ。わりと薄手のネグリジェ一枚だしさ? 乙女としてはまだまだ恥らう気持ちがあるわけですよ。だから気遣えよ、こっちくんな、出てけ!


「あぁ、やっぱり起きてたね。気分はどう?」

 色々悪いですが? あと、なんだよ「やっぱり」って。気配でわかったの?


「えっと、私、何がなんだか……」

 とくにあっちのことが大変気になります。 

 結局国の名前さえ聞かなかったくらいなので、世界の行く末とかへの興味はそんなに無いんだけど。穂積さんがこれから辿るルートが気になります。

 太陽信仰の国と月信仰の国の仲直り取り持ちルートで逆ハーレム作るのか、建国ルートで逆ハーレム作るのか、ひたすら追っ手から逃れつつ逆ハーレム作るのか、星の謎を解き明かして古代文明の何かを発掘して逆ハーレム作るのか。(逆ハーレムにこだわりがあります。ゆめみるおんなのこだから!)


 くぅ、うらやましいっ! 見たい、せめてそのハーレムの中身を見たいっ! あぶれた美形慰めてあわよくばくっ付きたい! 脇役でもそのくらいの贅沢は認められるはずだ。


「面倒ごとに巻き込まれそうだったから、逃げてきたんだよ。面倒なの嫌いでしょう?」

 目下一番の面倒ごとの主に言われると不思議な気持ちになりますな。


 まぁ、それも重々承知でおっしゃってるんでしょうけど? それともオレの持ち込む面倒はむしろ光栄に思ってねみたいな、そういう上から目線ですか?

 あと、面倒ごと嫌いな性格がバレてるなら、私もそろそろ取り繕う必要ないかな? 嫌な事はどんどん断るようにしていいかな!


「それに、潮時かと思って。フォレンディアとあの国の時間の進み具合にもズレがあってね。あっちでの1日がこちらでの1週間くらいだったんだ。あまり帰りが遅くなるのもまずいよね?」

 にゃんですと。

 あ、待って、ちょっと待って、一つずつ確認させて?

「その検証は、もしかして……?」

「実は、夜中に何度か行き来してたんだ」

 おい、てめぇ。何故私に黙ってた。地球での生活に支障をきたさないかと心配してたの、知ってたくせに!


「……1日で1週間って事は、あっちでは2週間くらい過ごしたからええと、4ヶ月弱?」

「地球で換算すると12時間くらいになるかな」

 うわー、半日で2週間分過ごしたのか。もしかしてその分年取ったのかな……。

 だとしたらなんだかちょっと損した気分だなぁ。それとも人生経験が増えて得したと思うべきなのか。せめて勉強道具だけでも持ってこれていたら、受験生的にはものすごく得をした気持ちになれたんだろけどなぁ。


 は、そういえば私の日傘とバッグは図書館に置きっぱなしだ。多分、最初に飛ばされたのは15時過ぎだったはず。じゃぁ今は夜中の3時くらい? ってことは当然閉館してるから、やっぱり忘れ物扱いになってるんだろうか。


 バッグごと忘れるとかどういう状態だ。お財布も携帯も鍵も入ってるのに。

 あぁ、両親が旅行中で本当に良かった。危うく捜索願い出されるところだった。会長は大丈夫なんだろうか。むしろ穂積さんはかなりアウトじゃないかな……。最近って一晩くらいなら待つものなのかな?

 そしてサマードレスにいたってはあっちの世界に置きっぱなしだ! おろしたてだったのに。気に入ってたのに!


「それはともかく、早速で悪いんだけど、そろそろ姫君達が押しかけてくると思うんだ。恋人役よろしくね」

 よろしくしたくない。

 お願いの内容は聞かされたけど、引き受けるなんてひっとことも言ってませんからね!

 ほんとお前、かっこよくて何でもできて家柄良いからって調子こいてんじゃーねーぞ。(ガラ悪い上に負け犬の遠吠え丸出し)微笑めば女はみんな言いなりとか、思うなよ!

 ……あ、それはないか。姫君達が制御不能だからこんな茶番仕組む羽目になったんだもんね。やーいヘタレ。

 そうか、あっちにいたころの恋人ごっこに熱が入っていたのボロを出させないための予行だったんだな。すぐに連れてくるよりも、しばらく練習してからのほうがバレにくいと思ったのか。うわぁ、策士だぁ。


「会長、やっぱり私……」

 無理。と断るべく口を開いた時、部屋の外が騒がしくなった。あぁ、来ましたね。

 この際なので本人たちの前でお断りして、修羅場を見学してやろう。ククク……。私の心配を知りながら何も言わずに弄んだ報復だ、思い知れ。

 いっそのこと「そのような小細工を弄すほど、わたくし達が疎ましいのですか……」とか泣かれて困り果てれば良い。それで結局なし崩し的に誰かを娶る羽目になれば良いんだ。個人的には次女一押し。凛々しそうだから。


 そんな私の思惑をよそに、会長はガシっと私の両肩に手を置いた。

「お願いだから。盛沢さんはやればできる子だと信じてるよ」

 なんだその、どうしようもない子供を励ます最終兵器みたいなセリフは。

 それにしても会長、思ってたより追い詰められてますね?よしよし、こいつぁ面白い事になりそうだぜ!


 そして、扉が大きな音を立てて開け放たれた。会長がふっと笑った。(気がした)

「……ごめんね?」

 ちぅ。


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