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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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4月の脇役そのいち

 4月。私はこの月が一番憂鬱だ。

 なぜかというと、新しい人間関係を構築しなおさねばならないからだ。

 何せ知り合いが増えるほど面倒ごとが起こる。高校3年間くらい、ずっと同じクラスでいいと思うんだけどな! ダメですか、出会いがほしいですか? そうですか。


 そんな私はとうとう三年生。クラスの人数は33人。男女比は16:17である。おおっと、早速良い具合の比率だ。主に私だけあぶれそうという意味で。

 今年は最終学年なので、高校生活最後の思い出作りにとカップルが乱立する可能性が十分にあるわけで。どう引いても足しても、女子が一人多い。


 うん。まぁ、いいだろう。クラスメイト同士のほのぼのした青春恋愛モノばかりで済むなら、大いに結構。平和が一番だ。爽やかな、若者らしい交際で済めば何よりだ。一年の頃のトラウマよさらば! 私は清く明るい男女交際を歓迎する!

 復讐劇とかバイオレンスとかはもうたくさんです。心がすさむから。


 とにかく今年は開き直ったので先手必勝である。

 名付けて「物騒なことになる前に全部学生の恋愛モノでお茶を濁しちゃえ作戦」である。要は、積極的に脇役の役目を果たす事で周りの事件をコントロールしてしまおうという試みだ。

 今年は受験なのだし、なるべく穏便に過ごさせてください、と、ご近所の神社にも願掛けをしてから登校した。


 教室を一通り見回して気が付いたが、このクラスはなかなか濃いメンツが揃っている事が分かった。恐ろしい事に、一年の時のあの四人組が揃っている……。(クラス多いんだからちゃんとバラしとけよ、こじれたらどうする!)


 あー、そこに座っているのは学年一の有望株の生徒会長ではないですか。ちっ、忌々しい。お金持ちでイケメンで文武両道とか、全部中途半端な私にケンカ売ってるとしか思えない。(嫉妬)

 おっと、あそこでイチャついてるのはかの有名なツンデレカップルか。


 その他、お嬢様とその従者っぽいのとか、現代に生きる武士、みたいなのとか、ものすごく個性的な人々が揃っているようでちょっと前途多難さに顔が引きつったかもしれない。

 このクラス、ただの恋愛ものだけじゃ収まりつかない気がするんですけど。どこかに普通のほほえましい二人組みはいないのっ?


 と、焦っていたら自己紹介のときに見つけた。見つけてしまいました。

 出席番号1番、青井 恵子さん。サッカー部マネージャー。出席番号2番、赤井 圭介君。サッカー部所属。わかりやす~い。


 あれでしょう、名前もなんか似てて親近感覚えるし、部活も一緒、そんな彼女(彼)が気になるけれど、せっかくのこの関係が壊れちゃったら怖い……みたいな? けっ。(やさぐれ)


 一週間ほど観察して分かったのだが、赤井君は、爽やかスポーツ少年という言葉を具現化したようなコだ。笑うと歯がキラっとする、ような気がする。きっと幻覚だけど。苦手だ、私あの人苦手だ。

 対する青井さんは、ちょっとトロそう、失礼、おっとりした印象の、普通の女の子。ぽやーっと笑う、タンポポみたいな子だ。

 すげぇ。私はあんな風にできねぇ。しかし意外と積極的な一面を見せてくれる。


 赤井君が面倒な緑化委員(お外で草むしりをさせられる、現代っ子に大変不人気な委員)をジャンケンで押し付けられたとたん、「あの……みんながイヤなら、わたしやってもいいよ……?お花とか好きだし」と言い出す青井さん。

 女子達からは「あぁ、なるほどね」と生暖かい視線を受けている。そうだよね、露骨だよね。


 どうやらお互い「圭介君」「恵子」って呼び合ってるみたいだしね。これはもう、ちょっと背中を押してやれば一気に告白まで漕ぎ着けそうだ。そうと決まれば早速青井さんに接近せねば。


 幸い今は4月。我が家の庭は花盛りである。お花が好きという理由で緑化委員に立候補した手前、花を教室に持って行けば何かの拍子に話題も芽生えよう。

 私はその日からせっせと、チューリップ、すみれ、アイリス、桜、遅咲きの桃、木蓮、果ては菜の花や大根の花まで、まさに「そこまでするか?」と突っ込まれるほど花を運び続けた。


 その甲斐あって、青井さんだけでなく、瀬名さん、氷見さん、由良さん、と、花を通してオトモダチが出来上がったのであった。やれやれ。青井さんはともかく、あとの3人がどうも、花が好きというよりは我が家の庭に大層興味を持っているようなのが気にかかるが。

 ガーデンパーティ開くほど親しく付き合う気は今の所無いんですよ、誰とも。


 花の話題から強引に(春の花って、幸せな花言葉が多い気がするんだ。特に恋愛関係でね。やっぱり春だからねぇ。青春っていうくらいだもんね。そういえば青井さんって赤井君と付き合ってるんだよね?え、違うの? でも、好きなんでしょう? いや、見てれば分かるから。たぶんみんな知ってるよ、わかりやすいもん。なんで付き合わないのー? ぐぃぐぃ)恋愛相談をもちかけさせる形で、私はまず青井さんの口を割らせた。


 思っていたとおりのお悩みで、ちょっといらっときたけれど(すみません、そういう甘酸っぱい記憶が無いのでひがみましたゴメンナサイ)、勤めて真摯な態度で聞く。

「圭介君は、誰にでも優しいの。だから、勘違いしないようにしなきゃ、って思ってたけど、やっぱりどんどん好きになっちゃって……」

 中高生モノの恋愛小説によく見かけるけど、これって大抵、実はとっくに両想いパターンだよね、王道だよね? 事実は小説より奇なりといえども、そんなにこの思考は外してない、よね?


「でも、赤井君が女の子を名前で呼んでるのなんて、青井さんくらいじゃないのかなぁ。それって、やっぱり特別な事なんじゃないの?」

 それにお互いケイタイの着メロ特別に指定してるみたいだしなっ。あからさま過ぎるだろう、自重しろ。なーんて言いませんよー。


 しかし、これで予想が外れて「お前とはこれからもいい友達で」とか断られたらもしかして私、すごく恨まれたりする?え、やだ。

「ごめんね、余計なお世話だったね。今だってちゃんと仲良いし、楽しそうだし、別に無理に関係変えなくても良いよね」

 とっさに保険とブレーキをかける小心者の私を笑うが良い。


 しかし、この言葉が何故か彼女の琴線に触れたらしく、スイッチが入ってしまった。一体彼女に何が……。もしかして天邪鬼なの? 人に「今のままでいーじゃん」って言われたからカチンときたの?

 その日から本気になった青井さんは今まで以上にあからさまに赤井君にアプローチし、そしてそのままとんとん拍子に二人は、あっさりくっ付いた。お礼にチョコを奉納された。

 あんまり順調すぎて、この後血で血を洗うような第二部が展開されるのではないかと心配になる。もしかして私、かえって余計な事しちゃったのかもしれない。


 もしかしてここは、むしろ赤井君とちょっと仲良くなって(クラスメイトとして)、青井さんの危機感を煽るキャラになるべきだったのだろうか。いやしかし、無駄に憎まれ役をするのは辛いしなぁ。まぁ、終わった事は今更どうしようもない。チョコもらったし。(もぐもぐ)


 と、ひとまずの達成感で調子に乗っていた私は、ちょっと油断していた。らしい。

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