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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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8月の脇役そのきゅう

 それから数日は、私のいない所で暗殺者とか暗殺者とか暗殺者とかの捕縛騒ぎがあったようだが、概ね平和に過ごしていた。

 できれば一々私に報告しないで欲しい。そうすれば心の中ももっと平和で過ごせるから。計画されていた暗殺手法とか、説明しなくていいから! 聞きたくないから! ……あぁ、日本が恋しい。


 ホームシックのせいか、5人戦隊(の一部)が夢に出てきたりしましたよ?いや、ホームシックのせいというより、宿題を見てあげる約束を守れないかもしれないという不安から彼らの夢をみたのかなぁ。ほら私、律儀だから。

 あと、会長と朝から晩まで一緒なせいか、そろそろ洗脳されかけてる気がする。会長を「カイト」と呼び捨てるのにも慣れてきた。うぅ、学校でうっかりやらかしちゃったらどうしよう。


 そんな不安は一先ず置いといて、今日もまた会長にエスコートされ、廊下をとぼとぼ(気持ちはこんな感じだけど実際は堂々と)歩いてバルコニーに向かう。


 そういえば一番危ないんじゃないかと思われる「巫女様お披露目タイム」には何故かまだ狙われたことはない。ほんとに不思議なんだけど。

 いや、実行されたら困るのでここだけの話だけど、飛び道具でぐさっとやる絶好のチャンスじゃぁないか? バルコニーで直立不動1時間(だいぶ短縮された)なんて、的にして下さいお願いしますといわんばかりなのに。

 さすがに丸腰のか弱い女の子を民衆の前で狙い撃ちなんかしたらイメージ悪すぎると思って控えてるのかなぁ。


 な~んて人事みたいに考えていたら「呼びました?」って感じで刺客が現れた。ふぎゃああああ! 呼んでないよ!

 「月の巫女姫の」護衛達が交戦に入る。会長も私を柱の影に押し込んで、自分は私の前に立った。


 いや、ありがたいんだけどね?会長も大人しく守られたほうが良くない? 多分強いんだろうけどさ? いざとなったら魔法でやらかすつもりなんだろうけどさ? でもあなた、ほんとは別に騎士とかじゃなくてただの日本人の高校生なんだから、そこまで勇敢じゃなくていいんだよ? なんでなりきっちゃってんの、おちつけ!

 てゆーか万が一のことがあったら責任感じちゃうからヤメテー。


 選びぬかれた護衛兵達だけあって、腕は確かなようだ。といっても見えないんですけどね。会長が(すご~く)邪魔で音しか聞こえませんけどね?

 でも、丁々発止と金属同士でやり合ってる音からして、多分互角に戦ってくれてるんじゃないかな? ほんっとに音しか聞こえないけど!


 なんかさぁ、こういうシーンで影から覗き見さえできないとか、無いよね?

 普通この展開だとモブ(失礼)の護衛は残念な事に刺客に太刀打ちできず、会長が颯爽と活躍するのをぷるぷるしながら見守って、やったー、全部倒したーと油断した所で、隠れていた、または傷は負ったもののまだ動ける刺客に私が後ろから襲われて「きゃー!」「あぶないっ」どさっ……。みたいなのが王道だと思うんだ。

 あ、どさっ、のところは「押し倒して庇ってもらう」、でも「私を庇って身代わりに会長が刺されて倒れる」、でも「私が刺されて倒れる」、でもお好きにご想像下さいのことよ。


 だというのに、なんだこの安心感。

 背中側は大理石の壁と柱にはさまれて、それこそ壁を突き崩して来られない限り絶対安全だし、目の前には会長の背中しか見えませんよ。

 そして会長はきっと反則的に強いと思われるので、あとは足元が抜けるとか天井が崩れて落ちてくるとか、そういう心配さえなければ(いや、あったとしてもきっと)世界で一番安全かもしれない……。


 やがて剣戟は収まり、会長はやっと私を押し込んでいたスペースから出してくれた。


 多少の傷を負った護衛の皆様と、倒れ伏している刺客らしき数名を確認。まぁ、うん。王様と神殿、両方からの推薦だけあって、きっちり仕事をこなして下さいましたね、ありがとうございます。

 イベント発生は別に期待してなかったもんねっ! 皆様命があるようでなによりですとも。


 あぁ疲れた。

 刺客の襲撃があろうと、表向き不可侵の巫女様は何事も無かったかのようにスケジュールをこなさねばならない。心労で倒れるほどのショックはうけなかったしね。てゆーか見えなかったし。会長の背中しか見えなかったし! でも気疲れした。うぅ早く寝たい。


 そもそもこの世界に来てから、絶対睡眠覚醒リズムが狂ったと思うんだ。

 だって夜以外は光の強さがほぼ一定だし、太陽の位置も変わらないし。巫女様だということで、無理やり起こされたりもしないから、昼まで二度寝三度寝し放題だし。(よく寝るのは月の加護だとかなんとか、とても都合よく解釈してもらえているらしい。ぐうたらでゴメンナサイ)

 いやむしろ、もしかして身体が「現実なんか見ないでずぅっと眠っていたい」とか言ってるんじゃないかな!


 そして、大変やる気なく本日のお勤めを果たした私を部屋で待ち受けていたのは、淡い緑色の髪の青年だった。

 すごい髪色デスネ。目にしみるよ。長い髪を横に流して下のほうを三つ編みにしているが、なんかビニール紐を裂いて束ねて作ったおもちゃみたいだ。髪質は良さそうだけど。

 あー、えっと、なんだっけ、多分王族だ。名前わからんけど。


「お帰りなさい、巫女姫。お疲れの所申し訳ありませんが、少々私とお話をしませんか?」

 しませんか、なんてお誘い口調だが、既に夕食のセッティングがされているので強制だろう。

 あれー、月の巫女って確か、普通の王族よりは身分が上なんじゃないの?なんで有無を言わさず押し通そうとしてるの。

 しかも用意されているのは二人分、ということは、私と二人でってことか。おーい、婚約者の騎士殿はどうした。


「今宵だけは、私と二人で。どうぞ騎士殿にもご遠慮いただけるようお口添え願います」

 そう言いながら馴れ馴れしく距離を詰めてこようとしたので、さっと机に沿って横にずれた。色仕掛けはごめんこうむりますよ、私はまだまだ清い身なので。


 それよりも、おにーさん、何か企んでますよね? 絶対企んでますよねー? 私そういうお話だぁいすきですの。聞くだけなら。

 だが片棒を担げというご相談なら、残念な事にこの身はニセモノでございますというかなんと言うか。担ぎきれずに取り落とす事請け合いなんですよねー。


 まぁせっかくなので聞いておこう。もしかするとこれって穂積さんのためのイベントになるかもしれないから。


 一緒に異世界にやってきた親友同士(知り合い程度の仲だったじゃないかとか、会長はどうしたとかは言わない約束だよ、キミぃ)が、いつの間にか志の違う人々に担がれて敵同士に! 主人公は葛藤しつつ戦って、辛くも勝利する。友人は改心して元の世界に帰る、みたいな。


 あ、もしかしてこれ私の帰還フラグじゃない?


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