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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
18/180

8月の脇役そのはち

 待ちに待った(というべきか、焼けた胃が欲しているというべきか)食事が運ばれてきた。うん、大体予想通り。エスニック風の料理を、一口分ずつ給仕係りがサーブしてくれる。

 ワゴンにさっと目を通した限り、「ムリムリムリムリムリ!」とか言いたくなる外見のものは積まれていなかった。よかった、これなら滅多な事やらかさずに済みそうだ。


 なるほど、スプーンにお箸で食べ物を乗せて口に運ぶのね、ふむふむ。

 何食わぬ顔して、いかにも「当然知ってました」という顔で食事を続けていると、真正面にいた幼児と目が合ってしまった。


 はっきり言って子供は苦手な部類だが、この子はなんだか可愛い。ピンクがかった真珠色の髪がくるんくるんしてて、お人形みたいだ。

 とりあえず笑っとけー、と思ってニコっとすると、あちらもニコっと笑った。

「みこさまは、おはだがしろくてきれーねぇ」

 うっわ、なんだこの可愛い生き物。


 確かに、西洋人とは比べるべくもないが、私は日本人の中では結構白い方だ。色の白さは七難隠すと言うからな。難を隠すために必死でキープしていますよ。こっちにきてからも、携帯していた日焼け止めを必死で塗ったくってますよ。


 努力を認めてくれてありがとう。おじょーちゃん? おぼっちゃん? 性別わからんな。

 この国の人々は、褐色の肌をしている。まぁ、気候が南国っぽいし、日照時間も長いのでそうなったんだろう。私や会長は、そういう点でも「不思議な存在」なのだ。


「ありがとう。あなたも、綺麗な髪ね」

 真珠色の髪とか見た事ないよ。きらきらしてるよ。


 幼児はますますにこーっと笑って、はにかんで顔を隠した。たまにはこういうのもいいかもなぁ、と油断していたら爆弾発言が飛び出した。

「みこさまは、どのおにいさまとけっこんするのー?」

 ……がふっ。

 あ、あぶな、お米が気管に入るところだった。さっきの食前酒で必死に耐えた私に二度目の試練を与えるとは、おそろしい子!


 あのね、食事の席で盛大にむせて、結果的に場の雰囲気を和ませる、とか、そういう事は主人公のお仕事なのよ?私になんてこと期待するんだ。


「これ、フィフィー。まだ紹介もされていないのに」

 ……突っ込むとこチガウヨ。

「だって、ミュミュカねーさまがいってたもの」

「あら、シルフェ兄様がおっしゃったのよ。私は『そうかもね』って言っただけよ」

「それは、アルジェンが侍従から言われたという話で」

「そもそもシェシェリーが立ち聞きしてきたとか」

「立ち聞きじゃないわ、通りかかったらルーディとジェファーが」

 うるせえええ! 伝言ゲームの道筋辿ってんじゃねー!


 一気に騒がしくなった食堂で、私は耳を塞ぎたい気持ちに駆られた。しないけど。おっとり微笑んだ顔をキープしてるけど。


 とりあえず今の会話で唯一分かったのは、女性の名前は同じ音を2個重ねる決まりらしいという事。つまりあの真珠ちゃんはおんなのこだ! いや、いまそれはもうどうでもいい。


 唯一言えるのは「脇役の分際で王族に嫁ぐ事などできません」という事だ。

 大体、私が本物の巫女じゃないと判ればきっと詐欺師扱いするくせにさ。


 あれ、そういえば穂積さんって帰って来たらどういう扱いになるんだろう?

 改めて「実はこっちが本物で、しかも世界を救ってくれました~、拍手!」みたいなことをするのかな。そんなことになったら私、すごく白い目で見られる事になりゃぁしませんか? 「巫女を騙っていた恥知らずな女め!」とか言われちゃったりしませんか?

 うわ、理不尽! すっごい理不尽じゃないか。私だって好きでこんなことしてるわけじゃないのに。


 勝手な想像で落ち込んでいたら、王様が大変わざとらしい咳払いをした。

「残念ながら巫女姫は、こちらの騎士殿と将来を誓い合った仲だそうでな」

 ……。…………? ………………! (略「ち、誓ってねえええええええええええ!」)


 驚きのあまり宇宙語が飛び出す所だった。いや、ケセラン様から習ったわけじゃないけど、とりあえずあんな感じの発音不能な言葉が。


 ちょっとちょっと、王様、あんまりだぜ。確かに巫女でもないどこぞの馬の骨が王族に嫁いできたら困ったなーって気持ちは解るけどさぁ。でも、でも……。

 勝手に嫁入り先決めるなんてあんまりだぁ。


「えー、そうなのぉ」

 うそだよフィフィーちゃん。

「はい。そうなんです。姫と私は、故郷に帰ったらすぐに結ばれる予定です」

 ノリノリだな、会長……。


 動揺したのは私だけですか。とっても悔しいです。疑う事を知らない幼子にそんな嘘ついて恥ずかしくないのかね? 人格者じゃなかったの? 最近化けの皮が剥がれてきてますよ。


 しかし、恥らう乙女心とか罪悪感とかをおいとけば、これが円く治める一番手っ取り早い方法なのかもしれない。

 うん、よく考えてみれば今はロールプレイ中なんだから、まぁ。「ひめぎみときし」ごっこに「ふたりはこいびと」ごっこが加わっただけだと思えば。

 ここで派手に動揺して「なっ! ちっ、違いますっ」とか騒いだらそれこそなんかのラブコメものになってしまう。おちつけー、落ち着くんだ私!


 にしても、食事が始まった頃はみなさん押し黙ってたのであんまりわからなかったけど、お年頃の若君達が結構いたんだなぁ……。あんまりカラフルなので顔より髪にばかり眼がいってしまっていた。

 髪の色さえもうちょっと落ち着いていれば、結構エキゾチックな魅力のある顔もちらほらと。う、ちょっと惜しいようなほっとしたような。


 いやいやいや、ここに永住するつもりはないから。帰るから。

 はいはい、みなさん「な~んだつまんねぇ」って顔しないの。まさか暇なのか?


 密度の高い二日間だったなぁ……。

 現在私は、お風呂でゴシゴシ磨かれて、香油でマッサージされている最中です。極楽極楽。

 羞恥心? アカスリとエステのようなものじゃぁないか。気にしてはイケナイ。それに、この人達はこうするのがお仕事なんだから、郷に入っては郷に従って、お仕事を取り上げるようなことはしちゃいけないよ。ふあぁ、きもちいい……。


 あー、もう、暗殺の二文字さえ忘れていられれば、南国リゾートへバカンスに来たようなものじゃないか? あ、あと帰還の二文字も考えたくない。主に、その可否について。

 帰還といえばさっき、会長はしれっと「故郷に帰ったら」って言ってたっけ。もしかしてヤツは帰れる確信があるのかもしれない。


 そうか、もともと別な物語の主人公が紛れ込んで来ているようなものだからな。ここに彼が居座っては色々不都合が生じるだろうしね。そのうち「世界を修正する不思議な力」とかが働いて帰れると、本能的に分かっているんだろうなぁ……。私もついでに連れ帰ってもらわないと。


 マッサージですっかりほぐされてクラゲのようになった私は、気が付いたらネグリジェを着てベッドに横たわっていた。さすがプロだな、お世話係のみなさん。

 そういえば名前も聞いてないなぁ、名前といえばこの世界の名前さえ知らないなぁ。


 明日になったら、お世話になってる人たちの名前くらい、なんとか覚えよう。

 と、決意して、目を閉じて3秒、意識は夢に堕ちた。


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