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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
175/180

三月の脇役 その七

「私と、彼女達の関係はね……」

 ゆっくりと、もったいぶって。

 少しトロンとしたような目つきを心がけながら顔を上げる。やや上目遣いで視線を合わせて、見つめ合う事数秒。

「私にも、よくわからないんです……。ねぇ、クローバーさん」


 両手を床について、ぐっと背中を伸ばしてクローバーさんににじりよる。彼はぎょっとして身体を後ろに倒し、尻餅をついた。

 まだまだぁ!

「あなた、自分が誰かの生まれ変わりかもしれないなんて、考えた事あります?」


 尻餅をついたクローバーさんに、さらに顔を近づける。

 真っ赤に染まった耳元でもう一度「ねぇ?」と囁くと(貫井さんのマネ)、クローバーさんはさらにのけぞって片手をこちらに突き出し、「待て待て、悪かった!」と叫んだ。


 ふはは、勝った!

 見かけによらず女の子に押されると弱いって、例の謎本に書いてあったもんね~っ。

 なんだ、全然無駄な読み物じゃなかった。読んでてよかった!


「ところでクローバーさん。私、お腹空いちゃいました」

 ぱっと身体を離してにっこり笑ってコテン、と首を傾げれば、クローバーさんは頭を抱えながら「あ~」と唸った。


     *****


 長~いテーブルに、あからさまに人数分より多いティーセット。しかも、どれも違うタイプだ。置いてある椅子もまちまちで、ホントにちぐはぐ。

 これが、ハートさんのお屋敷のダイニングルームである。


 なるほど、マッドティーパーティー風ですな。

 サンドウィッチ、マドレーヌ、タルト、マカロン。忘れてはいけないのがスコーンだよね。クロテッドクリームもちゃんとあるよね? わぁい!

 みんなが思い思いの席について、お茶会が始まった。


「さっきはごめんね。あー、……私の本性知って引いちゃった?」

 お腹が満たされはじめると気持も大らかになるもので、さっきまでウジウジと悩んでいた事がバカバカしく感じられたりする。

 私の黒い本性がちょっと流出したくらい、なんだってのさ。別に私聖女様じゃないしぃ。


 米良さんはおかしそうにけらけら笑って首を振った。

「わたし、かえって安心しちゃった。実はさ、盛沢さんと話すときって、結構気を使ってたんだよね」

「えっ?」

 えっ、あれで? 人をモデルにしたうにゃうにゃな感じのマンガ(怖くて内容聞けない)描いて、あまつさえ本人にインタビューまでしておきながらっ?


「盛沢さんってさ、お嬢様だし。それに先生達からも信頼されてて、みんなの相談に乗ったりしてさ。結構目立つ子達と仲いいし。なんか、えーと。うまくいえないんだけど、ちょっと違うよねって思ってたんだ。あ、いい意味で!」

「そ、そう?」

 えー、自分ではうまく溶け込んでるつもりだったから、地味にショックだわ~、それ。


「でも、そうだよね! 盛沢さんだってふつーの人間だもんね!」

「う、うん」

「なんか、すっごく親近感わいたよ! もうこれからは、遠慮しないでガンガンいくね!」

 お手柔らかに……。できればこれからも、適切な距離感を忘れずに接してくれるといいとおもうよ?


 私と米良さんの会話が一段落したところで、ハートさんが口を開いた。

「それでぇ? 結局ナニを隠してるワケ? よっぽどまずいものなのよね?」

 悪いけど、思考の乱れ方でそういうのわかっちゃうものなのよねぇ、と楽しそうに唇をつり上げる。


 動転した私は思わず、齧りかけのマカロンを指で粉砕した。

「かふっ!」

 粉がっ! マカロンの粉がぁっ! 気管にっ!

「あ、そうそう。盛沢さんあのとき、絶対何か隠そうとしてたよねーっ?」

 いやあの、まって。くるしいです。(けほけほ)


「そういやてめぇ、なんかおかしいと思ったんだよ! あれで誤魔化したつもりになってやがったな?」

 ぐぅ、結構捨て身で煙に巻いたのに、クローバーさんが思い出しちゃったじゃないか! うわぁん、ハートさんのばかばか。


「っれは、けほけほ、そういうんじゃ、こほっこほっ」

「なんかさぁ、丸い輪っかだったよね?」

「指輪でしょ」

「やっぱ指輪かぁ」

 やめてぇ、掘り返さないで人の秘密! え、遠慮がなくなるってこういうことだったの、米良さん?


「あん? 指輪ってソレじゃねぇの? 指にはめてるやつ」

 私は思わず、右手を引っ込めた。

 わかってる。わかってるよそれは下策だと! でも反射で、つい! むせてて苦しくて、思考が追いつかなかったんだもん!

「へっ、図星かよ」

「え、指輪してたの? 気がつかなかったぁ」

「あぁ、結構上等なアンティークっぽいのしてたわねぇ」

 あああ、どつぼにはまっていく。


「いやあのこれは、祖母からもらったものでね?」

 これが光山君や竜胆君とお揃いだとバレた日にゃ、えらいことになる。ええと、なんかもっともらしい由来か何か、考えないと。えーと。

「ひ、ひいおばあさまの形見、的な、ね?」

 この辺が妥当だよな。


 しかし、なぜか米良さんは斜め上の解釈をしてくれた。

「盛沢家に伝わる家宝とか?」

「え、いやべつに」

「代々、家の女の子にだけ伝えられる守りの指輪……。秘密の言葉で力が解放されたりする、とか?」

 ないないないない。

 ってゆーか、どうした米良さん? 不思議体験の連続で、なんでもそっちに結び付ける中毒になってる? 気をしっかり!


 しかしまてよ。これも否定すると、じゃぁ何なんだって、ずっと言われ続けることになるのかなぁ。

 う~ん、それならこのあたりで妥協するのも手か。

「そこまで大層なものではないんだけど。一応、ちょっと不思議な力はあるみたい。御守りみたいな。でもこれ、秘密にしておくようにって言われてるから、つい動揺しちゃって」


「うさんくせーんだよ。それがほんとかどうか、桃果、つなげてみろ」

 さっき誤魔化された事を根に持ってか、クローバーさんが突っかかって来た。一応学習能力はあったんだなぁ。(失礼)

 でもまぁ、そう来るなら仕方ない。

「もちろん、まだ隠してることはあるよ?」

 にこっ。

 必殺、開き直り! 悪びれないのがミソである。……誰かさんに似てきたなんて言わないでっ。


「だって私、清廉潔白ってわけじゃないもん。ごめんね?」

 にこにこ。

「まぁ、いいんじゃないの? もともとその子抜きで作戦考えてたんでしょ? その指輪がホントはなんなのかはともかく、戦えない子がいても足手まといじゃないの?」

「ですよねっ!」


 ハートさんっ! この中で一番頼りになるのはあなただって、実は思ってました! いや~ん、輝いて見えるぅ。

 やっぱりね、うん。プロの意見は重んじるべきだよね!

 

 しかし、米良さんは納得してくれなかった。

「盛沢さん、ほんのちょっとでいいの。ほんのちょっとだけ、助けてほしいの。お願い」

 ほんのちょっと、ねぇ?

「ほんのちょっとって、具体的に、どのくらい……?」

 聞くだけ。聞いてみるだけ。

 ……あぁ、こうして結局、断れなくなるんだよなぁ。(はふぅ)



「まずね、ハートさんの運命を変えるのが最優先なんだよ」

 どこからか運び込まれたホワイトボードに、米良さんがきゅきゅきゅ、とディフォルメされたハートさんを描く。

 おー、かわいいかわいい。


「ハートさんの戦いのシーン、盛沢さんは読んだ?」

「うん、読んだ読んだ」

 ハートさんの敗因はズバリ、敵の首を刎ねた事である。


 ……あー、つまり、首を刎ねてトドメを刺したと安心していたら、敵は首側と身体側、別々の生き物として再生して、不意を突かれたハートさんは驚くほどあっけなく倒されてしまったのだ。


 いやー、あれはびっくりしたぁ。

 何せ最後のセリフが「なっ……?」だよ? その後ブラックアウトだよ? 準ヒロイン的なハートさんにあの仕打ち。

 きっと作者さんは疲れていたか、もしかしたらものすごく嫌な事があったんだろうなぁ。(と思わないと納得いかにゃい!)


「いやぁね、ゼンゼン美しくないじゃない」

 ハートさんが眉をしかめる。うんうん、ほんとだよ。

「ハートさんは、ライオンさんと一角獣さんを主人公達と一緒に行かせちゃったんです。それで、たった一人で……」

「あぁ、まぁ、そうね。事情があるのよ」


 事情ったって、仲間の弔い合戦だからなんつーセンチメンタルな理由じゃないですか。

 あと、自分は屋敷と運命を共にするつもりだから、従者たちを巻き込みたくなかった、というのもあるかもしれない。


「でも、ハートさんがあの敵をここでひきつけてくれないと、主人公達が困ることになるんです。だから、従者さん達と一緒に残ってもらって、私とクローバーさんが主人公に合流して、敵の本部から叩こうと思ってたんですけど……」

 米良さんはハートさんの隣に、何やら描きだした。……えーと、まさか?


「盛沢さんがハートさんのフリして敵を引きつけて、ハートさんが私達と一緒に行動する方が、いいんじゃないかなって!」

 米良さんが書きあげたのは、ちょっとちっこくて巻き髪じゃない、ハートさん……。

 つまり、身代わりになる私、だった。


 どこがほんのちょっとかっ!

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