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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
173/180

三月の脇役 その五

 クローバーさんがやたら前向きに「生きてやろうぜ!」と主張するのを眺めながら、私は妙な違和感に気が付いた。


 悪の組織「Nobody」の壊滅理由。それは幹部の皆様の自由っぷりである、と私は考える。

 どいつもこいつも組織の一員であるという自覚に欠ける行動を繰り返すし、気まぐれを起こして片付けるべき相手を見逃したりする。ベタに「もっと強くなったら遊んでやるよ」な~んてカッコつけちゃってさ!


 特にお前だお前、そこの白スーツ! 「返り血は浴びたくねーんだ。スーツが汚れるからな」とか言ってるくせに、しょっちゅう自分の血で染めてるお前だあっ!

 あんたが、主人公の男の子を何度も何度も見逃して、時には助けたりしちゃったせいで余計な火の粉が降りかかって来たんだよ、自覚ある?


 そもそも原作におけるクローバーさんの死因は、主人公グループを先(バトル漫画って、一人ずつ敵が出てくるルートを進む話を好むよね。なんで敵さんは最初っから総力戦しないの? そうすりゃ絶対勝てるのに)に行かせるために一人残るという死亡フラグを自ら立てたことによる。


 そんでもって重傷を負いながらも爆弾を操る敵を倒し、「へっ、俺としたことが、ザマぁねェな」とかなんとかぼやきながら震える手で煙草に火をつけ、吸殻をポイしたらそれが敵の懐に残っていた火薬に引火したのだ。

 ばっかでぇ。


 ……あ、いや、もちろんそのつもりで火ぃつけたんだとは思うんだけど、ほら、この人バカだし。もしかしたらただ単に煙草吸いたかっただけかもしんないじゃん?

 そうじゃなくたって、とりあえず生きようとあがけよって思いませんか。滅びの美学カッコイイですか?

 それにそれに、今思い出したけどクローバーさんギリギリ未成年じゃん! 煙草はだめっ! めっ! あと、ポイ捨てもめっ!


 ……まぁ、それはともかく、だ。

 そんな状態で化学準備室に飛ばされたはずのクローバーさんが、大して間をおかずにこっちに戻って来たというのに、この変わりようは一体なにごとだ? なんか、ほんとに生まれ変わっちゃったみたい。どういう心境の変化?


「それにしてもねぇ。死にたがりのアンタがどういう心境の変化よ?」

 うぉぅ! 一瞬私が無意識に口に出したのかと思ったら、ハートさんだった。そ、そうだよね、誰だって不思議に思うよね。

 ハートさんに突っ込まれ、クローバーさんは一瞬ぐっと言葉に詰まる。

「別に。くそムカつく奴らも消えた事だし、生き延びるのも悪くねェかって思っただけだ」


 なぜか顔を赤らめてそっぽを向いたクローバーさん。うん、嘘。

 あのさぁ、嘘をつくときはまっすぐ相手の目を見て、自分でも心から本当だと信じながらじゃないと、すぐバレちゃうよ? ほら、人をだまして手玉に取る事に掛けては第一人者(スパイやってるくらいだしな!)のハートさんがジト目で見てるよ?

 おら、吐け。吐いちまいな。


「実は私達、ここに来る前に、会ったんです」

 答えようとしないクローバーさんに代わり、米良さんが両手を胸の前でぎゅっと組んで、ずいっと進み出た。

「スペードさん、ダイヤさん、そしてオリジナルのみなさんに……」

 ええええええええええええええええ?

 え、ちょ、なにそれ、どゆこと?


「なんですって? どういうコト?」

 ……さっきからハートさんとのシンクロ率が高くて、口をはさむ間もないよ。

「馬鹿、桃果! 言うなって!」

「だってクローバーさん! ハートさんにも、ちゃんと伝えなきゃ!」

「説明しなさい。アイツら、生きてるの?」

 そーだそーだ、せつめーしろー。


 クローバーさんはガシガシと頭をかいて「あ゛~!」と唸った。

「俺もよくわかんねェんだけどよ……。なんか、白いトコにいたんだよ。ンで、あいつらがいて、生きろって言われた」

「「なにソレぜんぜんわかんない」」

 とうとうこらえきれずに声に出すと、一字一句違わずハートさんが同じセリフを言った。

 ……手越さんの言う通り、私ってやっぱりハートさんの生まれ変わりなのかもしれない。


「あれ? そういえば」

 米良さんがやっと私に気付いたように、こちらへ視線を寄越した。

「やっぱり盛沢さんだったんだ?」

「あ? いたのかニセモノ女」

 むぎいいいいい!

 いたよ、いましたよ! ええ、盛沢さんですよ! 影薄くてわ~るかったなっ!

「「ハート(さん)の影武者かと思ってた」」

 お、お前らは本物の阿呆かっ?


「あ、ご、ごめんね。だってあそこに盛沢さんいなかったし、てっきり私達だけがトリップしちゃったんだって思ってて」

 でも、考えてみたらそれ、トリップ前に盛沢さんが着てた服だよねぇ、あはは。とか笑われてもこっちは笑えませんよ?

 なんですかあそこって。私だけ仲間外れにしてどこに行ってたんですか二人はっ!(地団太)


「実はね、準備室から飛ばされた後、気が付いたら……」

 米良さんの、長くて主観と夢が入り乱れている体験談をまとめるとこんな感じだ。


 ガラスが降ってくる、と思って咄嗟に目を閉じた米良さんは次の瞬間誰かの優しい腕に抱きしめられていた。

 驚きに目を見開けば、そこは真っ白な世界で、彼女を抱きしめていたのはなんとダイヤさんのオリジナルであるコインさんだった。(ちなみにダイヤさんはロリなんだけど、コインさんは40代の包容力あるお母さんキャラである。ダイヤさんは彼女の13歳の頃の姿でつくられたらしい)


 そこにいたのはコインさんだけではない。ソード、クラブ、カップ……つまり、オリジナルの4人が全員集合していた。

 混乱する米良さんに、彼らはここは狭間の世界である、と告げた。傷ついた魂を癒すための場所であると。(えーと、私も不本意ながら黄泉比良坂なんてところに行ったことあるんだけど、あそこ、別に白くなかったよ? むしろ真っ暗だったんだけど、別な場所なのかな?)


 そして、丸い玉の中にぐったりと浮かんでいるクローバーさんを見せた。

 クローバーさんの魂は死にかけていて、この玉の中でしばらくの間癒さなくては戻せない。ここは現実とは時間の流れが違っていて、数か月滞在しても現実に戻れば数十分しか経っていないから大丈夫だ、と言われたので、米良さんはオリジナル4人と一緒に過ごすことになった。


 その空間はオリジナル達の魂の記憶で出来ていて、彼らが願えば「Nobody」の本部を再現する事もできて、米良さんはた~っぷり満喫したらしい。

 う、うらやましい。なんで悪の幹部たちが米良さんをすんなり受け入れて、かわいがって、甘やかしてくれるんだ! なんだその夢のような展開は!


 やがてクローバーさんは、玉の中から出られるほどに回復した。そしたらなぜか、オリジナル達による戦闘訓練が開始された。

 彼らはクローバーさんに今後の展開を伝え、生き延びるためにどうしたらいいのか、を教え込んだのである。物語のクライマックスのために捨て駒にされるなんて悔しいじゃないか、という理由で。

 ……あー、やけにクローバーさんが滑らかに演説すると思ったら、なんだ、洗脳か。


 特にクラブさんとの伝説の殴り愛(誤字にあらず)は見ものだったらしい。

 はいはい、ナマでみちゃった~、とか嬉しそうに言わない。クローバーさんにとってはそんないいもんじゃないと思うよ?


 そして、とうとう訓練が終了し、元の世界に帰るというときにオリジナル達は二つの玉を持ってきた。スペードさんと、ダイヤさんが入った玉である。

 彼らもまた、狭間の世界に囚われて、未だ目覚めないのだという。そこからオリジナル達は「何か」をとりだし、クローバーさんと米良さんに預けた。


 ……ってなんだそりゃああああ! 私は? え、私はっ?


「それでね、わたしはダイヤさんの、クローバーさんはスペードさんの力を、使えるようになったんだぁ」

「ちっ、あいつら余計なことしやがって。ヤツの力なんざなくても戦えんのによぉ」

「……じゃぁ、もしかしたら、ダイヤも、スペードも、まだ」


「ぁー、俺らが生き延びて、もう一回世界を渡ればな。そのエネルギーに紛れて、あいつらも……って何泣いてんだよっ!」

「な、泣いてないわよ、バカっ! だからアンタはいつまでたってもバカなのよっ!」

「んだとぉ?」

「まぁまぁ、まずは作戦を……」


 ……ねーねー、私はぁ?(涙目)


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