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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
171/180

三月の脇役 その三

 例えば。

 頭を強く打った衝撃で記憶を飛ばしていた人物に、同じ衝撃を与えたら思い出した。


 ぶつかって気絶して、起きたら人格が入れ替わっていたという二人が、同じ状況を再現したら元に戻った。


 或いは(これは応用編になるかもしれないけれども)、Aという装置からBという装置に転送される際に異物が混入し融合してしまったが、逆のプロセスを辿ることで無事に分離に成功した。


 ……どれもよくあるパターンである。そろそろ古典的パターン、と呼んでもいいかもしれない。

 特にこの3番目なんて、似たような事を光山君もやっていたはずだ。えーとほら、あれは確か高校三年の秋祭りの時! 金魚すくいの中に混じっていた、可哀想なお姫様に掛けられた呪いを解くにあたって、彼は確かに「痕跡を辿ってなんちゃら」と言っていた。

 うん、絶対言ってた。


 だから私は、クローバーさんのトリップ現象も「ちゅどーん」を再現すればいいのだと勝手に思い込んでいたし、実際彼には、一度ソレで『Reincarnation of the last edge』の世界に帰った実績がある。

 ところがどうやら、クローバーさんのトリップの引き金は「ちゅど~ん」ではなかったらしい。


 降ってくるだろうと思っていたガラス片の衝撃を、なぜだか全く感じなかった私は、それでも用心のために心の中でゆっくり30数えてからそぉっと目を開けた。


 初めに目に飛びこんできたのは暴力的な赤、いやむしろ紅。2、3度瞬きして目が慣れると、それは紅い絨毯である事が判明した。

 ……おかしいよね、だって化学準備室の床は灰色のPタイルだったもん。しゃがんで目を閉じる寸前まで、赤い色なんて目に入らなかった。あ、クローバさんが負傷してたから、ちょこっとはまぁ、見たかもしんないけど。


 なにより薄暗いし。そりゃ確かに夕方だったけど、この暗さはむしろ、窓を閉め切ってわざと照明落としている、つまり意図された暗さだ。

 とにかく、ここは元の化学準備室ではないな、というのははっきりした。

 おーけい。つまりアレだね、またトリップしちゃったんですね、こりゃ。当然あの物騒な漫画の中なんだろうなぁ。


 はぁ、とため息をついて立ち上がると、広がった視界の中、倒れたままのクローバーさんと米良さんの姿をとらえた。あぁよかった。単独でトリップしたんじゃなくて。


 私は改めて周りを見回した。

 絨毯は縦長の部屋の中央にまっすぐ敷かれていて、いわゆるレッドカーペットなのだろうと思われる。床自体は赤と黒の市松模様で、あんまり目に優しくない。

 個人的な好みで言わせてもらうと、床は木材で、高級感出すならヘリンボーン張りくらいが上品だと思うよ、うん。いやまぁ、住んでる人の趣味次第だけどさ。


 えー、気を取り直して、確認作業の続きだ。右よ~し、左よ~し。(両方とも、赤い壁に規則正しく黒い燭台が並んでいるだけ。ところどころ絵が飾ってあるけど、抽象画って価値がよくわかんにゃー……)

 後ろを振り返れば、ここは魔王城か何かですか? と突っ込みたくなる両開きの扉。毒々しいほどの薔薇のレリーフに軽く引いた。


 そして、前はというと、ずず~っと絨毯を辿って行った先に5段程上がる緩やかな階段があって、立派な紅いカーテンの向こうにこれまた紅い椅子がでで~んと置いてある。

 そんでもって、誰かが腰かけている。


 ハートさんですねわかります!


 ひいい、どうしようどうしよう! クローバーさん寝てるのに! 多分メインヒロインである米良さんも寝てるのに、私は一体どうしたら!

 つーか、なんで黙って座ってるんだよ怖いじゃないか。何か言って! なんでもいいから誰何すいかするなりなんなり、とにかく行動して!


「……あ、ども。お邪魔してます」

 心の中でひとしきりテンパった揚句、私の口から出たのは間抜けな挨拶だった。ぐあぁ、私は馬鹿かっ? これじゃ挑発してるみたいじゃないか?

「オキャクサマを招いた覚えはないんだけどぉ?」

 ハートさんはつまらなそうにそう言うと、足を組み替えた。

 ほわぁ、今日の衣装のコンセプトはなんですか? 小悪魔ですか? 綺麗なあんよが丸出しですよ。


「ねぇ、そこに転がってるのって、もしかしてクローバー?」

「あ、はい、そうです」

「ふぅん……。てっきり死んじゃったと思ってたのに」

「生きてますよ……たぶん」

 少なくともさっきまでは割と元気だったはず。怪我してフラフラだったけど。

 アレ、生きてるよね? 息してるよね?(つんつん)


「アナタ、仮にも『Nobody』の幹部を足でつつくなんて正気? ソイツ、目を覚ましたらアナタなんかすぐヤられちゃうわよ?」

「え、だって、近付き過ぎるの怖いですし……」

 お行儀の悪さはこの際おいといて、手でつつくよりはまだ距離をとりやすいじゃないか。防衛本能ですよ。お、唸った。じゃぁ生きてるな。


「よかった、生きてますよ」

「そ。それでぇ?」

 ちゃき、と右後ろから銀色の何か、って回りくどいな。この世界じゃ刃物に決まってる。刃物が右後ろから首すれすれに突き付けられた。続いて左側からも。

 うふふ、もうヤだこんな生活。

「お前は誰だ?」

「嘘ついちゃダメだよ?」


 説明しよう!

 この『Reincarnation of the last edge』という作品は、基本的にトランプ、タロットカードをメインモチーフにしているのだが、ハートさんエピソードには更に、かの有名なアリスの要素が付随してくるのである!

 まぁ、ハートときたらやっぱりハートの女王だよね、うん。


 アリスをモチーフにした作品でありがちなのは、『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』を混ぜてしまうことなんだけど、これも例によって混ぜ混ぜである。

 一番広く知られている、某ネズミ王国のアリス自体がそうだったし、その手法に文句があるわけじゃないんだけど。(でもなんか、もったいないよなぁ、と思ったり思わなかったり?)


 んで、ハートさんは普段、トランプの兵隊(これがまた本当にトランプで、イキモノじゃぁないんだなぁ)に守られたお屋敷にいるわけです。

 お付きのトランプ達には基本的に意思などなく、人工霊魂(?)とかいうのを憑依させて動かしている、という設定だ。


 でもやっぱりそれだけじゃぁ寂しいので、一応意思をもったお付きの者が二人いる。

 ここまできたら「あぁ、アレね?」って思うよね。双子だろ? って。ディーさんとダムさんだろって。そんでもって、可愛い系の美少年なんだろって。


 ぶぶー。正解はライオンと一角獣でした~。ははは、残念でした!(おもに私が)

 ……うぅ、直立した怖い顔のライオンと、しゃべり方がいかにもSっぽい馬(角アリ)に刃物突き付けられてもこれっぽっちもときめかないよぉ。こわいだけだよぉ。


「黙っているとためにならんぞ」

「マスター、ねぇ、早く命令して?」

 なんで敵同士のはずのライオンと一角獣が同僚で、しかも他作品のキャラクターであるハートの女王に仕えているのかはわかんないけど、たぶん作者さんが無駄にひねった結果なんだろうなぁ。 いまいちマイナーなキャラ出して、気付ける人だけ気付けばいいわ、みたいな? めんどくさい構ってちゃんか! と言いたい。まどろっこしい。


 なんでも意味深にして適当なところで放り投げておけば、世間さまが勝手に「謎解き本」出して、それっぽい理由を後付けしてくれる世の中だからなぁ。

 実際出てたし。『Reincarnation of the last edge 666の謎』とかいうの出てたし。多すぎ! 放り投げ過ぎ!(とか言いつつちょっと立ち読みしちゃったぜちくしょー。時間の無駄だった)


 首まわりにちりちりと痛みが走る。あ、こいつら本気だ。現実逃避する時間なんて与えずに、私の首刎ねる気だ。ヤだぁ!

「何も言わんのか。ますます怪しいな」

「怪しいよね。怪しくない要素が見当たらないよね」

 それはもっともだと思ったので、私は精一杯の誠意を込めて叫んだ。


「私、怪しいけど怪しい者じゃないんですっ!」


本文中にちょこっと出て来た「秋祭り云々」は、8月末発売予定の『脇役の分際』2巻書き下ろしのお話です。

11月の大幅改稿、他、エピソードの付け足し等々がんばりました!

……と、宣伝してみる。

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