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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
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8月の脇役そのなな

 ふと気が付くと、お茶のポットが冷め切っていた。

 ポットごと冷め切ったということはかなり時間がたっているはず、と外を見ると、月の姿が半分ほど見えた。そろそろ夕方の礼拝とやらの時間だ。私達も立ち会うことになっているので、準備せねば。


「失礼致します。お着替えのお手伝いに参りました」

 ほらきた。

 ここでは何でも人にやってもらわねばならない。本当は靴を脱ぐのさえ、手伝ってもらうべき、らしい。お姫様生活も楽ではない。


「では、外でお待ちしております」

 会長はさっさと言葉を切り替えて、部屋を出て行った。案外ロールプレイを楽しんでいるのかなぁ。開き直って私も楽しもうっと。


 新しく着付けてもらった服は、私の身体に合わせて仕立ててあった。良かった、これであの竹馬で曲芸みたいな気分にならずに済む。靴も、やはりちょっとヒールがあったものの、一人で歩くのに不自由しない程度の高さだ。5センチくらい?


 夕方から夜にかけての衣装ということで、日中のものよりも露出が少なくて大人しい。でもやっぱり黒い。もっと華やかな服が着たいです。おねーさんが着てる青い色、綺麗ですね。


 部屋を出ると、護衛の騎士たちと一緒に会長が立っていた。本職より絵になるな。

 あえて声はかけずに頷いて、歩き出そうとするとさっと手を取られた。いや、あの、もう一人で歩けるんだけど……くそぅ。


 恥ずかしがる事ないわ、これはロールプレイよ! 私は巫女姫様、彼は私の忠実な騎士。自己暗示、自己暗示! そもそもここは学校じゃないんだから誰に見られてもへーきよ! それに、こうやって丁重に扱われれば扱われるほど、私が本物みたいに見えるから目眩ましになるのよ! (必死の正当化)


 涼しい顔はキープしていたものの、ものすごい羞恥プレイに気力が磨り減りきって、夕方の礼拝の内容はあまり頭に入らなかった。葛藤が……葛藤が……!


 それでもとりあえず見ていた限りでは、太陽が映っている水盆の中の酒を、日蝕が始まる瞬間を見計らって飲み干す、という儀式らしい。

 一抱えもある水盆に並々とお酒が注がれていて、あれを飲み干すのはなかなか至難の業ではないかと思われた。


 宗教的儀式になんらかのアルコールがつきものなのは解るけど、ちょっと控えようよ。なんだその量。急性アルコール中毒になりそうなんだけど。度数もかなり高そうな匂いがするし。

 そうじゃなくても、持ち上げるだけで相当の重量がありそうだ。水盆は、多分銀だと思うけどかなりしっかりした作りだし。深さも結構あるし。


 あぁ、でもここの神官ってすごく鍛えてるからな……。持つ分には大丈夫なのかな。アルコールにも強くなくてはこのお仕事は勤まらないだろうなぁ。


 夕方の礼拝の後は、王族の皆様と一緒に夕食である。流石にこれには緊張するが、一通りのテーブルマナーはできるし(会長は当然完璧でしょうとも)昨夜の食事ではお箸らしきものとスプーンっぽいものがあった。メニューもバリ島とかタイで出たお料理と似た感じだったし、多分食べ方もそんなに変わらないはず。

 人の顔色を伺いながら行動するのは大の得意(なんて嫌な特技)だから、観察しながらゆっくり食べよっと。


 王族の皆さんに対しても、基本的に私が月の巫女ということになっていて、代理と知っているのは王様とそのご長男(多分40代後半)だけ。

 今回穂積さんと旅に出たのは次男で、旅に出た理由は「俺より強い奴に会いに行く」という事になってるらしい。つまり武者修行ね。いいのか、王族がそれで。


 そして穂積さんは「お使いで月神様のところへ行っている」ことになっている。うん、嘘じゃないよね。この言い方だと、まるで私のお使いに行かされたみたいに聞こえるよね。私、何様だ?あぁ、そうだ巫女様でした。


 ちなみに、国の重要人物が一気に旅立ったことにすると不自然だということで、次期神官長に関しては身体を壊して病欠、ということになっている。(病欠うぅぅ?)

 どんな性質の悪い病気ならあの人倒せるんだ。


 案内されて部屋に入ると、王様以外がずらりと立って出迎えてくれた。ひぃぃぃ、座って! 怖いから、おっきいから、圧倒されるからぁ!

 ヒールで5センチ底上げしている私より、更に40センチくらい背の高い皆様(女性だって20センチは高そう)が全員真っ黒な衣装を着てズラっと並んでいるのだ。どう考えたって怖い。生贄の儀式とか始まりかねない圧迫感だ。

 髪の色だけカラフルなので、シュールなサーカスに迷い込んだような気にもなる。


 私が軽くお辞儀をして座ると、やっと全員が着席してくれた。あぁ怖かった。巫女って、王様よりは身分が下で、その他の王族よりは身分が上の扱いなのかぁ。……なのに本物は徒歩で、今頃野宿、か。


 とにかく圧迫感がだいぶ薄れたので、周りを見渡してみると、この部屋にかなりの人数がいるらしい事がわかった。まぁそりゃそうだ、王様(70くらい?)、王様の息子たち(40代前後?)、その家族、さらにその下世代(20前後?)、そしてもう一つ下世代(幼児がいる……)って感じだろう。

 人種が違うので見た目より若いのかも知れないけど。


「今宵は月の巫女様と、その騎士殿をお招きしての晩餐。皆、よく集まってくれた。我が国のますますの繁栄を、月神様にお祈りしよう」

 王様が合図をすると、目の前に置かれた小さな杯に液体が注がれた。先ほど夕方の礼拝で嫌というほど嗅いだ、あの匂いがする。ってことはこれ、お酒かぁ……。


 テーブルについた全員が杯を持ち上げた。なんとあの幼児まで両手で持ち上げている。なにあれちょっと可愛い。じゃなくて。

 倫理的には「未成年なので」と断りたい所だが、どうもこれは宗教色の強い、儀式じみた杯だ。断りにくい。ええい、これはお神酒と一緒。一口分だし、いってしまえ。


 想像はついていたが、杯に付けた唇から、舌、喉、胃にかけて一気に熱を持った。

 熱い熱い熱い痛熱い! だがむせてたまるものか。プライドにかけて無表情で飲み込んだ。

 薬草を漬けたような独特な味がして、不思議と酩酊感のようなものは感じなかった。アルコール度強そうなんだけどな。


 にしても幼児にまで飲ませるとは、なんという英才教育か。舐める程度の量みたいだったけど、きっと年々量が増えていって、いつかあの夕方の儀式みたいな事になっちゃうんだろうな……。


 は、もしかして日中集まってた人達がベロベロに酔ってたのってまさかこれと関係ある?広場に入るのに一定量飲まなきゃだめーとか、そんな規則?

 これから毎日、昼過ぎに一度バルコニーで手を振る予定なんだけど、そのたびにあんな大量の酔っ払い作るつもりじゃあるまいな? 仕事はどうする。首都機能が麻痺してしまう!


 以前、かなり古い紀行か何かで、その土地の食前酒についての記述を読んだ事を思い出した。

 確かそのお酒を一杯飲むと、胃の中がカっと熱くなって、お腹が空っぽになった気がするから食が進むのだそうだ。なるほど、このお酒はそういう気分にさせてくれる。好んで飲みたいとは思わないけれど。


 何にせよ、適量以上の摂取は控えたいものだ。


分かっていただけると思いますが一言。

この文章は未成年の飲酒を推奨するものではございません。

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