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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
高校生編
16/180

8月の脇役そのろく

「この世界は、魔法が無くて不便だね」

「私にとっては、魔法がある生活のほうが想像つかないけど」

「でも、魔法みたいなものに囲まれた生活じゃないか」

 行き過ぎた科学は魔法にしか見えないってやつですか。確かにね。

 そう、この世界には魔法は無い。ということが昨日判明した。


 よく、ゲームなんかだと信仰の力を魔法に変えて色々できちゃったりするものなのに、そういうところは、この世界はシビアだった。

 宗教の守り手としての神官はいるけれども、あくまで彼らは信仰し、祈るだけなのだ。そして精神を鍛え、心身を鍛える。

 旅に出た次期神官長が筋骨隆々なのは日々の鍛錬のお蔭なのだろう。守り手というのは言葉の通り、時には武力行使でもって守るんだそうだ。ねぇ、それって……。


 正直な所、世界の危機というのもかなり眉唾物だと私は考える。何故なら、世界に危機が迫っているという根拠は「太陽神信仰の過激派が、月神の像を破壊してまわっているから」なのである。


 神様の像を壊すと何かあるの? 罰が当たるの? それとも月神の像が、重力発生装置とか温度調節機(惑星規模のエアコンとかすごいな)とか、遮光シールドとかの役目を果たしているというの? 古代の超科学の遺産とかだったりする? すげー!


 しかも、一般の人々には世界が危ない、とか、一切知らせないように情報管理しているみたいだし。

 悪戯にパニックが起きるのを避けたいのは解るけど、自分達でできる危機管理をしましょうよ。例えば、神殿の周りに自警団を配置するとかさぁ。

 今日バルコニーから見ただけでも、ものすごく暢気そうだったよ? 昼日中からほぼ全員ベロベロに酔ってるとか、どんだけ緩んでるの。むしろ街の治安は大丈夫なの?


 過激派とやらにも、一応通告しようよ。「その像破壊すると世界が終わるんだけど、いいの?」って。狂信的な人なら、「真の神が認められぬ世界など滅びてしまえ」とかいうかも知れないけど、中には躊躇する人だっているだろうから。

 それで内部分裂して自滅してくれたら儲けものだ。さぁ、れっつとらい!


 旅立った穂積さんたちが何をしに行ったかというと、壊された神様の像の修復などではなくて、「最果ての地(人間が生存できる限界ラインのこと)にある隠された月の神殿に赴き、月神の怒りを解く」ため、らしい。

 なにその曖昧な目的。怒りってどうやって解くの。


 とにかくこれだけだと、実在しない(または人には一切関与しない)神という概念にただ怯えて、たまたま神隠しでやってきた出自不明で毛色の違う(文字通り)人間を神の使者として祀り上げてるだけ、って感じなんだよね。

 唯一の救いは、穂積さんが繰り返して夢を見ていたらしい事と、誰かが「呼んだ」らしい事。これだけが、なんとなくこの世界の危機とか月の神とかに信憑性を持たせている。

 これが無かったらまるで杞憂の故事そのものだ。「空が落ちる!」ってやつ。


「世界を救う旅なんてすごくファンタジーっぽいのに、魔法が無いなんて不思議な気がする。怪我したら大変そうだね」

 私は、ゲームをやっている分には回復魔法より攻撃魔法派だ。回復は、上限まで買い占めた回復薬に頼る。だってMPもったいないじゃん?


 しかし現実に旅に出たとして、四次元ポケットもないこんな世界で、そんなに回復薬など持ち運べるものだろうか? 第一、飲めばどんな怪我でも治しちゃう薬とか、ないから!

 ……いや、服用したら痛みも恐怖も理性も無くすような感じの薬はあるかもしれないけど。良い子は手を出したらいけません。ダメ、ゼッタイ。

 とにかく、アイテムの手持ち上限が99などで無い以上、回復魔法ってものすごーく大事じゃなかろうか、という考察ですよ。


「この世界にはモンスター系の敵はいないみたいだし、警戒しなきゃいけないのは追剥と、あとは過激派だけらしいよ。一緒に行った3人は、この世界でも5本の指に入る強さだって言うし、きっと大丈夫だよ。お忍びだし」

 え、筋肉達磨たち、(暴言)そんな強かったんだ。

 赤、青、黄色、3カラーで信号みたいな髪色と、ひたすらゴツい空間に気をとられてあんまり聞いてなかった。だって別に私には関係ない人々だし。


 まぁ、世界を救う旅に出るくらいなんだから強いでしょう、とは思っていたのでそんなに驚かない。あの外見で滅茶苦茶弱かったらビックリしたけど。


「せめて、会長が付いて行けたら心強かったのにね」

 なにせ魔法使いだ。魔法が無い世界にいる魔法使いなんて、もしかしたら最強なんじゃなかろうか? 回復魔法とか。(しつこい)


「うん、でも盛沢さんも十分危険だから。それに、こっちにオレがいたほうが本物っぽいでしょ?」

 すみませんねー、ニセモノで。えぇ、えぇ、心強いですとも。死んでも生き返らせていただけるそうですし。……事が起こる前に防げよ!


「まぁ、毒を気にせずに食事ができるっていうのは、すごくありがたいかな」

 暗殺といったらまず毒である。


 一々食べ物を口にするたびに死ぬかもしれないなんて怯えるのは真っ平だ。食べる前に一通り解毒してくれるのは素晴らしい。

 最近は食に全く興味の無い人もいるようだけど、私は違う。おいしいもの大好き! だから食事は安心してとりたいんです。

 この国は常夏なので、スパイシーな料理が主体らしい。そしてもっと嬉しい事に、長粒米がある。あぁ、今日はカレーみたいなものがでるといいなぁ。昨日はピラフっぽい何かが出たなぁ。


「ところで、思ったんだけど」

 今日の夕食に思いをはせていると、会長が真剣な顔で切り出した。なんだよ。


「オレを通すように言った時の、扱いがちょっと丁寧すぎる気がして」

 はい、ダメだしですか。演技指導ですか。

「オレは君の騎士なんだから、もっとそれっぽく扱ってほしいな」

 それっぽくって具体的にどうしろと。

「えっと……例えば、あの、お姫様たちはどんな風に話してるの?」

 参考にしてやろーじゃないか。


「そうだね……長女のレミア様は、すごくのんびりした方なんだ。いつもワンテンポ遅れる感じかな。彼女なら、そうだな『はぁい、どうぞ~』かな」

 ふむふむ。


「次女のルビア様は気が強くて自信家だね。政治にも積極的に関わっているし、男なんかに負けてたまるかっていう気持ちが強いんだろう。彼女なら『入りなさい!』だね」

 偉そうだけど、なんかいいですね、それ。


「三女のリリア様は、やっぱり甘やかされているせいか、たまにビックリするような事を平気でするんだ。多分、無言で飛び出してきてそのまま抱きつくかな」

 全く参考にならんな! ちゃんと躾けとけ。


「それで……どなたを参考にしたらいいの?」

 三女は却下とするが。

「今のイメージだと、レミア様がしっかりした感じかな。少しそっけなく『どうぞ』とかで良いんじゃない?」

 そっけなくして良いのか。それはわりと望む所だよ? 遠慮しないよ?


「あと、オレのことはカイトって呼び捨ててくれていいから」

 全力で断りたいが、「ひめぎみときし」ごっこなので仕方あるまい。


 いや、でも、日本語で会長って呼ぶ分には、意味も解んないだろうし構わなくないですか?

「うっかり翻訳されるかもしれないし。それにほら、いつまでも会長じゃ他人行儀でしょ?そもそもオレ、もう会長じゃないからね?」

 ……いつかこんな日が来るかもしれないと思っていた。


 もう会長じゃないのに何で会長って呼ぶのかって、いつか指摘されてしまう日が来るかもしれないと、思ってはいた。しかし苗字呼びすら飛び越えて名前呼び(しかも呼び捨て)を要求されるとは思ってなかった。演技のためとはいえハードル高いな!


「う、うん、ごめんね? クセになっちゃってて」

 てめーとはこれ以上馴れ合う気なんかねーんだよ、ぺっ、とか言えない。


「えっと、じゃぁ、普段は光山君って呼ばせてもらうね」

「でも、統一した方がうっかり呼び間違えなくていいと思うけどな」

「……じゃぁ、こっちにいる間は、名前で呼ばせてもらうね」

 押し負けた自分が哀しい。


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