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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
159/180

一月の脇役 その十三

 ふと、竜胆君は事あるごとにこっちを不安にさせるクセがあるのではなかろーか、という疑惑がわいた。高校の卒業式の時しかり、月の騎士騒動の時しかり。

 普段は首を振る方向と、せいぜい相槌の調子で意思を伝えるだけのくせにズルいよね! たまーに饒舌になったかと思えば一々(色んな意味で)ドキっとさせるセリフを吐くとか。そのたびに「あぁ、これが最後の会話になっちゃったらどうしよう」って不安になるこっちの身にもなってくれっての。


 今回はなんですか、よりによって自己犠牲フラグですか? 私は安易な自己犠牲は好かんよ!

 そりゃ、お気持はありがたいけど。「たった一つだけ叶えられる願い」を他人のために消費しちゃうのって、昔話ではいい展開が待ってたかもしれないけどさ、最近は不幸を招いちゃうフラグなんだよ? 時代は変わったんだよっ! ランプをこすって魔人がでてきたとしても、三つ目の願いで解放しちゃダメなんだよ。(せちがらい!)


「それこそダメだよ竜胆君! これは私の問題なんだし、私が……」

「盛沢」

 自分が契約するのが道理だ、と主張する私に言い聞かせるように、竜胆君は首を振った。む、この視線、光山君のあの「できの悪い生徒を見る視線」に似てる。

 な、なんだよぅ。

「男と二人暮らしする事になるんだぞ?」

「……は?」


 確かに私は今一人暮らしで、エルヴァさんは男性だから、まぁ身体を貸したら一緒に住む事になるわけだし、一応、男女の二人暮らしって事になる、の、かな?(んん?)

 ……なんか、予想外なところで心配されてないか?

「契約したら盛沢の家で二人で住む事になるんだろう? それは、駄目だ」

「また、変なとこで嫉妬したなぁ……」


 福島君がぼそっと入れた突っ込みは、多分この場にいる全員に共通するものだと思う。えー、アレが嫉妬なの? そうなの? わ、わかりにく~いっ。そんな事で「お願い」を使っちゃおうなんて気前良すぎだよ竜胆君っ!

 まぁ確かにエルヴァさんの出した条件って、聞いた限りにおいては警備会社のサービスみたいな内容だったからな。深刻に考える必要はないと判断したのかも……。


「小僧、その、だな。この娘を想うお前の気持ちは大したものだと思うが……。残念だが、お前自身には肝心の魔力が全く無いのでな。それでは人形に入るのとさして変わらんのだ」

 しぃん……。

 エルヴァさんが言いにくそうに竜胆君の申し出を蹴ると、女子トイレに気まずい沈黙が流れた。ショックを受けたらしく下を向いてしまった竜胆君を、エルヴァさんは必死に慰める。


「あ、いや、落ち込むでない! お前達の持つマジックアイテムは小娘を介して有から無へ魔力を流す仕組みのようだ。つまり、お前に魔力が無いからこそ機能しているのだぞ! そうだろう、小僧!」

「ええ、オレから彼に流れる細い魔力の糸を作って、間に彼女を通しています。この振れが一定以上になると、彼女の身に危険が迫ったとわかるんです」

 そうなんだ! イメージ的にはアレか、糸のまん中にビーズ通してみた、みたいな?


「ふむ、興味深いな。単純ではあるが、だからこそ使いやすい。それを創り出した人物はおそらく……、ごほんっ! あー、まぁ、ともかくだな! お前は儂の宿主には向かん。ただそれだけの事だ」

「そうか……」

 一瞬、研究者魂に火が付きそうになったものの、エルヴァさんは踏みとどまって竜胆君に意識を戻した。いいからそのまま別な話題に移ろうよ……。彼も困ってるよ、多分。


「お前が小娘を守ろうとした気持は伝わっているぞ! そうだろう?」

「ひゃいっ」

 突然こちらに矛先が向いたせいで声がひっくり返った。

 いやもう、勘弁してよ。居心地悪いよ。よし、こうなったら私が流れを変えよう。


「はい! 質問です! ぬいぐるみには入ろうと思えば入れるんですか?」

 ぴしっと、お手本のような挙手。なんだそのくだらない質問、なんて言わないで。これ結構重要事項だから!

「そうだよなー、ぬいぐるみに入って盛沢守ってもらえばいいんじゃん? あ、ほら、魔法少女モノみたいで盛沢に似合いそう!」

「魔法少女って……。大学生でそれはちょっとキツいんじゃね?」


 お、中山君、わかってるぅ。さてはお姉さんと一緒にその手のアニメ見てたんでしょ?えー、そうかなぁ、似合うかなぁ?(照れ照れ)

 そして福島君、いつもながら的確な突っ込み、と褒めたいところなんだけど実はいるんだよ……。女子大生魔女っ娘も、いるんだよぉ……。

 あっちのマスコットはぬいぐるみじゃなくてキャベツだけどな!


 期待に目を輝かせる中山君があまりにまぶしかったのか、エルヴァさんは思いっきり視線を逸らせた。

「できん、とは言わぬ。が、儂が使える魔力は宿主に比例するのでな……。0に入ってしまえば0なのだ」

 む、残念。それじゃぁ意味ないなぁ。無料ボディーガードとしてのお仕事ができないじゃん。ち、残念。


「小娘、やはりお前しかおらんようだ。聞けば随分な目に遭っているそうではないか。解放されたくはないか?」

「そうですねぇ……」

 ここですぐに頷かなかったのは、母の言葉を思い出したからである。中学生になったあたりから、よくわからないタイミングで言い聞かされた謎の忠告。きっとあれはこんな時に備えてたんだろうなぁ。


『い~い、久実ちゃん。契約書を隅々まで読んでも、まだ油断しちゃダメよ。その契約を結んだらどうなるのか、ちょっと想像してみないと』

 ……そうですよねお母様。石橋は叩いて叩いて、渡らないくらいがちょうどいいってお父様もおっしゃってましたね。

 今の宿主の美少女ちゃんでは起こらなかった予期せぬトラブルがないとも限らないし、シミュレーションは大事。


 じゃぁ、ちょっと想像してみよう。

 魔王に憑依された大学生。うん、キャラとしては立ってるよね。多分これなら明日からでも主役張れそう。これは私にとってはメリットと言えよう。

 事件が起こると人格が入れ替わって、ついでに口調も変わっちゃったりして、いきなり強くなるヒロイン。なんかもう、数々の大事件を解決していけそうだよね! ちょっとおいしいんじゃない? いや~ん、ちょっとわくわくしてきた。


 ……んが! それはあくまで、ただの人格交代モノであるうちは、という制約が付きはしまいか。

 だってよくよく考えてみれば、エルヴァさんは魔王だよ。退治されちゃったからには、一応悪役だったんだよね? ってことは異世界の戦姫様とやらが追っかけてこないとも限らない。


 そんなことになったら、まず問答無用で狙われて、なんとか誤解を解いたとしても「監視する!」という名目で家に居つかれちゃったりして、そのままズルズルと厄介な異世界人が増えて、という展開が待ってたりはしないか?

 ぐぁ、これどう考えても男の子向けポジションだ!(だって戦「姫」って、女の子だもんね。メインヒロインだよね?)


 ……よかった、竜胆君に魔力がなくて。危うくあのおうちが物騒なハーレムになるところだった。

「あー、えっと。じゃぁ、残念ですがこのお話はなかったという事で」

「なぜだ小娘! 先程まで乗り気だったではないか!」

「クーリングオフということで」

「ぐ、ダイレクトメールにしておくべきだったか!」


 地球の制度をよくご存じですこと。


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